2014年4月14日月曜日

NTTセット割解禁なら暗黒時代へ逆戻り KDDI田中社長が規制緩和に猛反発




総務省は、世界最高レベルの情報通信基盤の整備を目指し、「2020年代に向けた情報通信政策の在り方」を情報通信審議会に諮問している。審議に向けて設置された2020-ICT基盤政策特別部会では、現在、通信事業者へのヒアリングが始まったところだ。今後、論点を整理し、夏場の中間報告を経て11月に最終報告書を作成し大臣へ答申する予定だ。

ただ、具体的な議論が始まる前から「総務省はNTTグループによるスマホと光回線のセット割引の解禁を検討している」(現在は電気通信事業法で規制されている)との報道が一部でなされた。これに対し、KDDIとソフトバンク、イー・アクセスなど通信事業者65社は、「解禁されては競争が促進されない」として、公正な議論を求める要望書を総務省に提出するなど、議論の行方に注目が集まっている。

セット割引「auスマートバリュー」を武器に顧客開拓を進めるKDDIにとってもNTTグループの規制緩和は一大事だ。携帯業界のあるべき競争環境とは、そしてKDDIは今後、どのような成長を目指すのか。田中孝司社長に聞いた。

――ライバルとも協力して総務省に要望書を提出した。
本来、事業者へのヒアリングから論点を抽出していくのが順序。しかし、新聞報道が先行しているので、非常に気になっている。2020年に向けた議論なのに、NTTのセット割引解禁など、まるで規制緩和が論点であるかのようなトーンだ。NTTのあり方についての議論は、ドコモを持ち株会社から外そうとしてスタートしたものだが、現在も持ち株会社はドコモの株式を保有している。今回、携帯でナンバーワンのドコモと、光回線でナンバーワンのNTT東日本、西日本のサービスとの連携ができるようになって、しかも会社の形は何も変わらない。もし、こんな方向で決まるとすれば、変な感じがしませんか?
セット割が解禁されれば、日本は独占回帰の暗黒時代に戻ることになる。われわれは設備競争をすることで、日本を発展させ、2020年の東京オリンピック開催に向けて世界に恥じない通信インフラを作っていきたい。

ドコモのシェアが東西のシェアに近づく

――NTTのセット割を解禁した場合、どのようなことが起こるのか。
ユーザーは高いシェアの会社に引きずられていく。NTT東西は光回線で72%のシェア(13年3月末)を占めており、そのお客さんはドコモに乗り換えるだけで料金が安くなる。つまり、ドコモの45%のシェア(同)は72%に向かっていくことになるだろう。これはもう一度、大NTTの時代に戻るということだ。政府が株式の3分の1以上を保有する会社の姿がこれでよいのだろうか。

――最大手がセット割をすることで、通信費の引き下げがこれまで以上に進むという見方もできる。
目先の話だけなら、ユーザーは「安くなっていい」と思うかもしれないが、その後、どういう世界になるかは明らか。光回線では各社の競争が技術の進歩を後押しし、料金を下げ、世界一のインフラが整備された。モバイルも世界で2~3番目のインフラだ。しかし、競争がなくなれば、東京、大阪間の通話が3分間400円以上かかっていた20年前に逆戻りすることになる。こうした危機感は、ソフトバンクとも一致している。
――インフラとして、固定回線の重要度が増していくと主張している。
携帯基地局の9割以上は光ファイバーの有線につながっているからだ。現在の3.9世代と呼ばれるLTEから新しい通信規格に移行すると、データ通信量の増加に対応するため、基地局を小型化し、より細かく配置するようになる。すると、基地局につながる固定回線のコストも増えていく。その時、NTTが光回線を独占していたら、卸値が安くなるわけがない。これは恐怖だ。つまり、モバイルの議論にもかかわらず、論点としては固定になるのでわかりにくい。モバイルのコストは固定が作る時代になるということを、ぜひとも主張していきたい。
そのためには、現在の競争状態を維持しなければならない。KDDIも光回線でエリア化できているのは、関東地方と子会社による中部地方だけ。ケイ・オプティコムさんなど旧電力系でやられている会社もあるが、NTT西日本も値下げに動くなど、環境は厳しい。巨大企業に戦いを挑んでいるのが実情だろう。
田中社長は「公正な議論をしてほしい」と語る
――ソフトバンクの孫正義社長は「ドコモがわれわれと同じ土俵で戦うのは構わない」と発言している。田中社長の考えは?
そもそも、ドコモとNTT東西が連携するのはあり得ないこと。ドコモに課された禁止行為について、何がよいのか、悪いのかという点を明確に議論するのはいいと思っている。
孫さんも、ニュートラルに考えて、競争に影響を及ぼさない分野について「構わない」と言っているだけだと思う。十把一絡げに判断してしまうのは危険だ。たとえば、グループの金融会社「NTTファイナンス」との連携はどうなのか、これはまずい。すでにグループで一括請求をしてしまっているが、規制の趣旨からはずれている。ドコモを分離する流れから逆戻りし、NTTグループに有利な規制となれば、われわれはビジネスで困るし、国民にとってもよくない。公正な議論をしてほしい。

キャッシュバック競争を仕掛けたのはドコモだ

――現在の競争環境について聞きたい。3月商戦のキャッシュバックはやりすぎだったのでは?
競争を仕掛けたのはドコモだろう。iPhoneは新規も機種変更も0円にしている。3月後半にドコモがアクセルを踏んで、KDDIが追随する構図だった。当社も積極的に新規ユーザーを開拓する方針だったが、ここまでキャッシュバックが進むとは思っていなかった。コストコントロールはしているつもりだが、適切ではなかった。総務省から指導があったとの情報もあるが、実際にはなかったと思う。高額なキャッシュバックはいつまでも継続できるわけがなく、普通に考えれば年度末で終わるものだ
――昨年からはドコモもiPhoneを導入し、端末自体の差別化は難しくなっている。
KDDIとしては、そんな中でも差別化を進めようと、タブレットとスマホとのデータシェアプランを提供したり、曲面ディスプレイのスマホも投入してきたが、高額なキャッシュバックに隠れてしまっている状況だ。だが、今年度以降は、LTEの次の技術である「LTEアドバンスト」が徐々にスタートする。音声通話も3G回線からLTEネットワークを利用できるようになる。つまり、ネットワーク品質など、再び他社との違いを訴求できるようになるので、競争環境は健全な方向に向かうのではないか。
「海外ではこれから伸びる新興国の市場をターゲットにしたい」(田中社長)
――何が変わっていくことになるのか。
料金設定の方法が変わっていくだろう。振り返ると、従来型のフィーチャーフォンの時代は、さまざまな音声やデータ通信のプランがあった。ただ、ソフトバンクの「ホワイトプラン」が発表された後は、われわれもそこに引きずられる形となった。データ通信に関しても、わかりやすいプランを求める声が多かったため、現状の定額プランになった経緯がある。
今後は、乗り換えに慎重だった方もスマホを利用するようになるので、色々なプランがないと厳しいだろう。3社がそれぞれ、要望にあったプランを提供できればよいのだが。
――海外戦略について。ミャンマーで携帯事業参入を目指しているが、今後の海外展開の方針は?
ミャンマーでは住友商事と連携し、市場参入に向けて国営通信事業者MPTとの独占交渉権を獲得して協議中だ。まだ時間はかかるだろう。われわれは成長を重視しているので、海外ではこれから伸びる新興国の市場をターゲットにしたい。すでに成熟した米国市場に参入するソフトバンクとは違う。これは考え方の差だろう。中心となるのはやはりアジアだ。人口が多く、携帯電話の普及率が低い国も多いので、有望だと思っている。
――2015年度まで2ケタ営業増益を続けると標榜している。それ以降はどのように成長していくのか。2013年4月に連結子会社化したジェイコムとの連携は?
ジェイコムは、通信の分野ではインターネットを手掛けているのでKDDIと近い。スマートバリューでも連携している。また、映像コンテンツを流している会社でもある。KDDIも動画を強化する方向で取り組んでおり、これから色々協力できると思っている。セットトップボックス(デジタル専用チューナー)のような、アンドロイドベースで連携がしやすいものを広げているというのはそうした戦略からだ。
もうひとつ、電子マネーカードを使った決済サービス「auウォレット」を本格化させる。バーチャルな世界だけでなく、リアルでも橋頭堡を築く取り組みだ。スマホは最も身近なデバイスだが、スマホだけでなく、テレビや物販などのリアルでの展開も含めて、さらなる成長を目指す。これが15年度以降の戦略に関して、現時点で言えることだ。ある日突然、大きな発表があるわけではなく、今から準備を進めていかなければならない。



0 件のコメント:

コメントを投稿

自己紹介

自分の写真
東京都, Japan
h-imoto@netyear.net 暇なわけではございません。仕事の一環で収集している情報の共有です!