2014年4月18日金曜日

「EC市場」徹底研究(前編) ヤフーショッピングの無料化戦略を読む

http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/mbaessence_platform-biz/article.aspx?id=MMAC2g000028032014


「EC市場」徹底研究(前編) ヤフーショッピングの無料化戦略を読む




プラットフォームビジネスを巡る攻防(1)

根来 龍之(ねごろ・たつゆき)
早稲田大学ビジネススクール教授

プラットフォームビジネスとは何か
 TwitterやLINEはなぜ急速に成長できたのか。1998年に創業したグーグルは、なぜ創立15年ほどで世界的に影響力のある企業に駆け上がったのか。それはこうした企業が「プラットフォームビジネス」をコア事業としているからです。
 プラットフォームビジネスとは何か? プラットフォームビジネスは他のプレイヤー(企業・消費者など)が提供する製品・サービス・情報と一緒になって、初めて価値を持つ基盤を提供するビジネスのことです。これは産業をレイヤー構造で表現するとうまく表せます。
 例えば、電子書籍は、コンテンツ、ストア、閲覧アプリ、OS/ハード、通信ネットワークというレイヤーからなります。レイヤー構造においては、ユーザーは各レイヤーの製品・サービスを直接選択して組み合わせて使うことができます。この構造において、各レイヤーの製品・サービス・情報の選択を媒介し、機能するための前提となる基盤が「プラットフォーム」となります。特に、製品の多様性を高める基盤となるレイヤーを「プラットフォーム性が高い」レイヤーと呼びます。
 TwitterやLINEはコミュニケーションの基盤を提供しますが、そこに行きかう情報は利用者が投稿したものです。グーグルは検索という基盤を提供しますが、検索結果として扱う情報は世界中の人々が作ったWebサイトです。TwitterやLINE、グーグルは、これらの情報を媒介するプラットフォームです。
 別の例として東京・渋谷にある「SHIBUYA109」というショッピングビルを考えてみましょう。109は東急グループの商業施設会社が運営していますが、店舗はすべて東急グループとは資本関係がないテナントで、テナント同士が競って売り上げています。従って、109というショッピングビルは、プラットフォームとなります。

プラットフォームビジネスをアカデミックに定義
 「プラットフォームビジネス」をアカデミックに定義すると、「プラットフォームを前提にして利用できる他の製品・サービス・情報(補完製品・補完サービス・補完情報)が存在し、ユーザーがこれを自由に選択する基盤ビジネス」となります。厳密には、さらに(1)製品の品質責任が「補完製品・サービス・情報」の提供者(補完プレーヤー)にある、(2)補完プレイヤーと消費者との間で取引契約がなされる、の2点のうちどちらか1つの条件を満たす必要があります。
 プラットフォームビジネスに近いものも厳密にはそうではないことがあります。新聞社のニュースサイトは(2)に該当しませんが、さらに記事の責任は記者ではなく新聞社にあるのが現在の構造であるため(1)にも該当しません。また、仕入れ販売(自社の責任で製品を仕入れて製品を販売するビジネス)は(2)を満たしませんが、さらに(1)も販売責任がある場合は、厳密にはプラットフォームビジネスではありません。
 それに対して、楽天は電子モールという基盤(プラットフォーム)を提供し、その上に仮想商店が店舗を展開し、消費者は自由に店舗を選択し、取引します。つまり、(1)と(2)を満たしています。従って、楽天という電子モールがプラットフォームとなり、この楽天が展開するビジネスはプラットフォームビジネスと言えます。
 本連載では、数回にわたってこうしたプラットフォームビジネスを詳細に分析していく予定です。第1回は、ECサイトにおけるプラットフォームビジネスを見ていくことにします。

アマゾンもプラットフォームビジネスにシフト
 ショッピングプラットフォームは、商品を買いたい人と商品を売りたいお店をマッチング(媒介)するビジネスです。これをネット上で展開する電子モールはまさにプラットフォームです。しかし、ネットを使った電子商取引(EC)が必ずしもプラットフォームビジネスというわけではありません。売り手が在庫を持って自ら販売するショッピングサイト(直販サイト)は、他店舗とのマッチング機能を持たないのでプラットフォームビジネスではないからです。
 アマゾンは自ら在庫を持つ「リテールビジネス」と売り手と買い手をマッチングする「マーケットプレイスビジネス」(プラットフォームビジネス)を展開しています。Foner Books( http://www.fonerbooks.com/booksale.htm )の調査によると、2000年当時は6パーセント程度だったマーケットプレイス比率は、2013年には39パーセントにまで高まっています(図1)。このようにアマゾンはサービス当初はリテールビジネスが中心だったのですが、それがマーケットプレイス型、つまりプラットフォームビジネスにシフトしてきています。
図1 米Amazon.comのプラットフォームビジネスの売り上げ比率図1 米Amazon.comのプラットフォームビジネスの売り上げ比率
 買い手にとっては一つの売り手の商品だけしか買えないショッピングサイトよりも、多数の売り手から豊富な商品を購入できるプラットフォームのほうが選択の多様性が高くなります。売り手にとっても、プラットフォームに参加することで、競争は激しくなるものの、自社サイトよりも多くの買い手にアクセスできます。

日本のECはまだまだ伸びしろがある
 経済産業省の「平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備.(電子商取引に関する市場調査)」によると、2012年の国内のBtoCのEC市場は9.5兆円で、前年度の8.5兆円から12.5%の拡大が見られました(図2)。また、EC化率は前年度の2.8%から0.3%増加して、3.1%となり、今後も成長が見込まれています。
図2 2012年の国内のBtoCのEC市場(経済産業省の「平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備.(電子商取引に関する市場調査)」より)図2 2012年の国内のBtoCのEC市場(経済産業省の「平成24年度我が国情報経済社会における基盤整備.(電子商取引に関する市場調査)」より)
 金額ベースでは約9兆5130億円と米国EC市場の半分程度で、EC化率も米国のほうが進んでいます。日本のECはまだまだ伸びしろがあるといえるでしょう。
 このようにEC市場が拡大していく中で、ショッピングプラットフォームの市場も成長が見込まれているのです。

ヤフーショッピングは楽天の6分の1の規模感
 日本の消費者向けEC市場は、楽天、アマゾン、ヤフーの3強となっています。
 この中でも最大の規模を誇るのが楽天で、2013年12月期の楽天市場の流通総額は約1兆5000億円にも上ります。ユニークユーザー数は約1400万人で、約4万の店舗が約1億5000万点の商品を提供しています。
 一方、アマゾンの売上高は世界で610億9000万ドル(約6兆円)ですが、日本市場では約78億ドル(約7000億円)となります(2012年12月期)。
 ヤフーのECビジネスは、ヤフーオークションとヤフーショッピングに大別されますが、ヤフーオークションの流通総額は約7000億円なのに対し、ヤフーショッピングの流通総額はその半分以下の約3000億円でしかありません(2013年度)。
 およその規模感でみますと、楽天がトップで、アマゾンは楽天の約半分、ヤフーオークションは楽天の約3分の1、ヤフーショッピングはヤフーオークションの約半分で楽天の約6分の1といった具合になるわけです。

苦戦していたヤフーショッピング無料攻勢で挽回狙う
図3 無料化を打ち出したヤフーショッピング図3 無料化を打ち出したヤフーショッピング
 ヤフーは2013年10月、電子商取引(EC)サイトの無料化戦略を打ち出し大きな話題となりました。「ヤフーショッピング」に出店するための月額2万5000円の出店料や、売り上げの最大6%の手数料などをすべて無料にするというもので、従来では考えられない方針を打ち出したのです(図3)
 先に見たように、日本の消費者向けECにおけるプラットフォームビジネスの最大企業は楽天であり、流通総額も順調に2桁成長を遂げています。一方、米国では巨人のアマゾンですが、日本では楽天同様2桁成長で伸びてはいるものの、伸び率は楽天の方が高いといえます。
 ヤフーオークションは2桁成長まではいかないものの取扱高は伸ばしていますが、伸び悩んでいたのが、ヤフーショッピングだけだした。こうした市場の背景の中で、ヤフーショッピングが無料化に踏み切ったのです。(後編に続く)
◇   ◇   ◇
根来 龍之(ねごろ・たつゆき)
早稲田大学ビジネススクール教授
1952年三重県生まれ。京都大学文学部社会学専攻卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼会社、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て現職。2003年より早稲田大学IT戦略研究所所長、2010年から早稲田大学ビジネススクール・ディレクター(統括責任者)も務める。ITと経営、ビジネスモデルなどを研究テーマとする。
◇主な著書
『事業創造のロジック』(日経BP社) 2014年
『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社) 2013年
『代替品の戦略』(東洋経済新報社) 2005年

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