2014年4月18日金曜日

「EC市場」徹底研究(後編) 楽天・アマゾン・ヤフー・ZOZOTOWN・LINEモール、勝ち残るのは誰か?

http://bizacademy.nikkei.co.jp/management/mbaessence_platform-biz/article.aspx?id=MMAC2g000009042014



「EC市場」徹底研究(後編) 楽天・アマゾン・ヤフー・ZOZOTOWN・LINEモール、勝ち残るのは誰か?


根来 龍之(ねごろ・たつゆき)
早稲田大学ビジネススクール教授




ヤフーショッピングが狙うのは個人店舗の出店
 前回はプラットフォームビジネスとは何かについて解説しました。そして、電子商取引(EC)サイトのビジネスモデル、中でもヤフーショッピング(Yahoo!ショッピング)がなぜ無料化に踏み切ったのか、その背景について説明しました。今回は、楽天やアマゾン、ZOZOTOWNなども含めた、ECサイトの動向についてさらに詳しく見ていくことにします。
 各ECサイトのポジショニングはどうなっているのでしょうか。横軸に「有料」「無料」、縦軸に「法人」「個人」として、各サイトをプロットしたのが図1です。これを見ると、ヤフーショッピングの無料化は、「法人」が「有料」で出店する位置づけから、「法人」「個人」を問わず「無料」で出店するというベクトルにシフトしたと見ることができます。同社は個人あるいは個人に近い店に出店してほしいと考えているわけです。
図1「有料」と「無料」を横軸にプロットした各ECサイトのポジショニング図1「有料」と「無料」を横軸にプロットした各ECサイトのポジショニング


ヤフーショッピングとヤフオク!の違い
 ヤフーショッピングが狙っている個人には、一体何を売るのでしょうか。主には(1)中古商品、(2)ハンドメイド商品、(3)「自分ブランド」のアパレル、の3つだと考えられます。
 「自分ブランド」というのはセレクトショップや文字通り自分がデザインしたブランドという意味です。つまり個人のお店を新たに取り込もうとしているわけです。例えば、ハンドメイド商品は大量生産ができず、多くの売り上げをあげることはできないですが、一部のコアユーザーが付く可能性があります。
 ではヤフー内では、ヤフーショッピングとヤフオク!(ヤフーオークション)の違いをどのように考えているのでしょうか。
 無料化されたヤフーショッピングは、価格を表示して販売しますが、ヤフオク!はオークションサイトなので、価格が入札によって上がっていくシステムになります。パソコンなどの工業製品の中古品はオークションによって市場価格が形成されますが、アクセサリー類といったハンドメイド商品はオークションによっては市場価格が形成されにくいため、リストプライスの方が向いています。
 また、セレクトショップは目利き力で売っているため、店に対する信頼が必要になります。店のブランドを作りたい人は、自分で店が作れるヤフーショッピングの方が合っているといえるわけです。ヤフオク!はオークションサイトという特徴と、品物ごとに売るという性質があるので、ショップブランドを形成することができないからです。このような形で、ヤフーショッピングとの差別化を図っていくと見られています。

特化型ECが勢力を拡大へ
 ECサイトのポジショニングを今度は、横軸に「総合型」「特化型」、縦軸に「法人」「個人」とした場合は、どうでしょうか(図2)。横軸をこうした場合は、さきほどの3強以外のECサイトも重要なプレイヤーになって来ていることがわかります。特に注目するべきなのは、ファッションブランドを集めた「ZOZOTOWN」で、法人の特化型にプロットされます。一方、楽天やアマゾンは法人の総合型にプロットされます。
(図2)「総合型」と「特化型」を横軸にプロットした各ECサイトのポジショニング(図2)「総合型」と「特化型」を横軸にプロットした各ECサイトのポジショニング
 このほかにも、最短2分でサイトが作れることをうたった「STORES.jp」、スマートフォンに特化した「LINEモール」などがあります。
 今後はECも、スマートフォンで販売することに主眼が置かれるようになると考えられます。そうなるとヤフーショッピングもヤフオク!もライバルは誰なのかと言えば、実は楽天やアマゾンではなく、LINEモールやSTORES.jpといった無料のサイトになると思われます。
 「個人」のお店のエリアが実は未開拓領域だと考えられていて、ヤフオク!やヤフーショッピングの棲み分けが変わってくると見られます。ZOZOTOWNが出資するStores.jpは資金力も豊富でアパレルに今後特化されていくと思われ成長が期待されます。同じ特化型でも、ブランドが確立している店はZOZOTOWNに出店し、将来自分で店を持つ人はまずはSTORES.jpに出店するといったイメージです。
 ヤフーショッピングは特化型での勝負を挑むというよりは、総合型にポジションすることになるでしょう。

カギ握るスマホ化への対応
 これらのECの将来性を占うのに最も重要なポイントは、スマホ化への対応です。つまり、小売りのEC化はまだ十分に進んでいなくても、世の中のスマホ化はどんどん進んでいるため、各社のスマホ市場対応の成否が競争を勝ち抜くためのポイントになるはずです。
 スマホ市場を取るために、ヤフオク!が最も得意としていた、企業ではなく個人が出店するという「個人間取引エリア」のビジネスに、各社がどうかかわるかが注目されるわけです。
 従って、今回のヤフーショッピング無料化は、楽天、アマゾンの対抗策という側面よりも、どのように個人の売り手を取り込むかに主眼があると見た方がいいと思います。大規模な売り手は収支が問題なのであって、売れる場所ならば、月間手数料がかかろうが、出品料がかかろうが構わないのです。つまり、大量に怪しいお店がたくさんあるよりも、売れる店舗が数多くあるプラットフォームがいいのです。また、個人店がたくさん入ってくると、優良店が埋没する可能性があります。
 LINEモールは、スマホ時代には要注目の存在となるでしょう。LINE MALL(LINEモール)も最初は有料で始めましたが、個人の出店を促すことをおそらく刺激するために、すぐに無料にシフトしました。LINEモールは、出店料や出品料とは別の収入源を得るようなモデルにシフトしていくと思われます。可能性としては導線を売る、つまり、広告を売るモデルになる可能性があるかもしれません。
 ヤフーショッピングも最終的に広告を売ることになるでしょう。出店数が増えれば増えるほど、店は埋没するため、広告を出さないことにはなかなか客がアクセスしてくれない。あるいは、ブログなどにアフィリエイト広告を掲載してもらうような流れになると考えられます。
 出店数が増えるほど広告のニーズも増え、それで収入源を得られます。ヤフーショッピングは無料にした結果、広告モデルになっていくはずです。ヤフオク!は店舗向け出店料を無料にすると同時に、個人の出品者のシステム利用料を無料にしましたが、落札手数料をなくす計画はないと考えられ、きちんと収益は確保できる計算だと考えられます。

グーグルのEC参入で新たなモデルが登場
 このほかEC市場で面白いのが、グーグルの動きです。グーグルは今年1月、「Google認定ショップ」を始めるとアナウンスしました。グーグルの審査基準を通った店には認定マークが掲載され、グーグルが認定した店であることが一目瞭然になります。これは楽天のようなモールではなく、個人店がネット上に分散した分散型ECのビジネスモデルとなります。
図3「Google認定ショップ」の画面図3「Google認定ショップ」の画面
 グーグルで商品を検索すると、その検索結果にGoogle認定ショップであることがわかる仕組みとなると思われます。認定マークを付与してもらう代わりに、店舗はマークの掲載料を支払らわなければならないですが、グーグルの検索と連携することで、大きな集客力が期待できるわけです。顧客にとっても、トラブルや商品の損害などが生じた場合は、グーグルが補償金を顧客に支払うため安心です。
 楽天の場合はモールに出店する際に厳しい審査があり、決済システムも楽天が代行しているため、顧客は楽天との信頼関係において商品を購入する。この対極が分散型のグーグルのサービスというわけです。

楽天型ECモデルの限界と可能性
 実は今回ヤフーショッピングで行われる新しい試みとして、出店無料のほかに、「外部リンクの自由化」があります。つまり、ヤフーショッピングの中で販売してもいいし、そこから外部リンクを張って自社のサイトに誘導してもいいのです。そういう意味では楽天型とグーグル型の中間にあるビジネスモデルへの移行が、今回のヤフーショッピングの改革であるとも言えるでしょう。
 では今後はどのビジネスモデルが発展していくのでしょうか。現在のところはネット上のトラブルへの警戒感から、当面は楽天が有利と思います。ただこれは顧客の感覚の問題でもあるので、分散型ECでの取引が増えていくにつれ、徐々に分散型へ移行していく可能性もはらんでいます。
 今後の流れがどうなるかは、実は出店側がどう判断するかにもかかっています。売り上げ規模の大きな店は楽天とヤフーショッピングの両方に出店するケースも増えるはずで、その販売実績によって、傾向も分かってくるはずです。
 どこまで楽天型ECモデルが成長を続けるかについて、今後の大きな分岐点として注目する必要があるでしょう。
◇   ◇   ◇
根来 龍之(ねごろ・たつゆき)
早稲田大学ビジネススクール教授
1952年三重県生まれ。京都大学文学部社会学専攻卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。鉄鋼会社、英ハル大学客員研究員、文教大学などを経て現職。2003年より早稲田大学IT戦略研究所所長、2010年から早稲田大学ビジネススクール・ディレクター(統括責任者)も務める。ITと経営、ビジネスモデルなどを研究テーマとする。
◇主な著書
『事業創造のロジック』(日経BP社) 2014年
『プラットフォームビジネス最前線』(翔泳社) 2013年
『代替品の戦略』(東洋経済新報社) 2005年

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