2013年9月27日金曜日

Google検索は15周年、新アルゴリズム「Hummingbird」導入を米メディアが報じる


http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130927/507182/?mln


米Googleは現地時間2013年9月26日、検索サービス「Google Search」が15周年を迎えたと発表するとともに、Google Searchの機能強化について明らかにした。「Knowledge Graph」の新ツール追加、iOS向けアプリケーションのアップデートに加え、複数の米メディアが新たな検索アルゴリズム「Hummingbird」(開発コード名)について報じている。
 Knowledge Graphは、ユーザーが探している対象とその関係を理解し、ユーザーが求めている情報と関連データをまとめて提示する機能で、昨年5月より提供している。今回の強化で、情報の絞りこみや関連情報への移行、情報の比較が簡単に行えるようになった。たとえば「印象派画家」を検索すると、多数の印象派画家に関する情報を画像やリンク、テキストを含めて返すとともに、上部に「全ジャンル」「抽象芸術」「バロック派」「現代芸術」といった項目を表示する。また「バターとオリーブオイルを比較して」と音声検索すれば、両方の成分表が並んで表示される。
 米メディアの報道(ForbesTechCrunchNew York Timesなど)によると、この強化の背景にはHummingbirdの導入がある。より多くの人々が複雑な検索をモバイル端末で、さらには音声で行うようになり、新たな対策が必要になったため、約1カ月前にアルゴリズムを変更した。Hummingbirdは、2010年に導入したアルゴリズム「Caffeine」以来の大規模な更新になる。Caffeineは検索速度とSNSとの統合に焦点を当てたが、Hummingbirdは質問内容の把握と質問に対して関連性の高い情報の特定に焦点を当てているという。
 またGoogleは、数週間以内にiOS向けアプリケーションをアップデートし、ユーザーが複数のモバイル端末にわたってリマインダーのプッシュ通知を受け取れるようにする。たとえば、スーパーマーケットでオリーブオイルを購入することをAndroidベースの「Nexus 7」でリマインダー登録しておくと、「iPhone」を携帯しているときにスーパーマーケットに行った場合でも、iPhoneの画面にプッシュ通知が表示される。
 またモバイル検索のルック&フィールを変更し、情報をカード状で表示するデザインを採用した。Googleの説明によれば、従来よりきれいに整頓され、タッチに最適化されている。

2013年9月19日木曜日

「iPhone 5cは新興国向けではない、“型落ち”の5をプレミアムに仕立てた戦略製品」

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130913/504443/?k2


[シンクタンクの視点]情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員 岸田重行氏 

 

 

「アップルはiPhone 5cを新興国向けと言っていましたか? 私はiPhone 5cはものすごく考えられた戦略製品だと思っています」。こう語るのは情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員の岸田重行氏。iPhoneはあくまでもプレミアム機種であり、新興国では統計の数値に出てこないiPhoneの中古品が売れているという。この中古が、新規の需要を奪っていると捉えるのか、そもそも高い新品は売れない市場であると捉えるのかでその出方は変わってくる。アップルは後者であると岸田氏は見る。
 アップルがiPhoneを2機種同じタイミングで出したのは、今回が初めてである。もちろんストレージ容量、対応通信方式や帯域によってこれまでもモデルは複数存在したが、商品としては「iPhone 4S」「iPhone 5」といったように1年に1機種出すのが通例だった。だが、今回アップルは「iPhone 5s」と「iPhone 5c」の2機種を市場に投入した。
 iPhone 5sは64ビットCPUを搭載するなど技術的な新しさもあり、これまで通り先進層にアピールする機種であるのは論を俟たないだろう。一方のiPhone 5cは中身はiPhone 5とほぼ同じで機能的にはいわば“型落ち”。その点で“廉価版”との見方をされるが、実際は“プレミアム”である。iPhone 5sとiPhone 5cの価格差は100米ドル程度。外側を変えることでこれまでのiPhoneユーザーとは違う「新しいユーザーに訴求できる商品にしてしまった」(岸田氏)。なおNTTドコモがiPhoneを扱うことによる国内市場の変化については岸田氏が執筆した「『ドコモのiPhone』で一変する国内スマホ市場」に詳しい。以下岸田氏にアップルの製品戦略についての考えを聞いた。

情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員 岸田重行氏
情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員 岸田重行氏
 今回アップルはiPhone 5sとiPhone 5cの2機種を出しました。そこで注目しているのは、iPhone 5cの“出し方”です。
 iPhone 5cについては「新興国向け」と言われていますが、アップル自身がiPhone 5cを新興国向けと言っていたでしょうか。一言も言っていないと思います。確かにアップルの売上は先進国に偏っていて、商品の単価は高いと言われる。そこで「Androidを搭載する安価なスマートフォンが新興市場で売られていて、そこにアップルは入れていない。そこに参入しないとこれからの成長戦略が描けないんじゃないか」と周囲が勝手に解釈している。
 もちろん一面ではそうしたところはあるでしょう。ただ、アップルがアフリカ向けに100ドルiPhoneを出しました、といってそれが今本当に売れるかは疑問です。そうした新興市場では、既に「iPhone 3G」や「iPhone 4」の中古品が流れていて、現地の方が購入できる値段で売られているわけです。もちろんそれらは以前アップルが携帯電話事業者を介して売った端末です。
 アップルの製品が、中古車のように何代にもわたって広がっていっているわけですよね。その市場のGDPや個人所得が将来的に上がれば、価格の高い新品が売れるかもしれません。アップルは高付加価値、高価格のマーケットで強さを見せています。強いブランド力があって、商品力があって、例えば部品コストは200ドルだけど、600ドル、700ドルと付加価値をつけた価格で売るわけです(編集部注:携帯電話事業者が各種キャンペーンなどによる割引を適用することで、ユーザーから見ると一見安く見える。今回のiPhone 5c、iPhone 5sの“実際の価格”は5万円台から8万円台)。そのビジネスは今の新興国市場には当てはまらない。


iPhone 5cは新たなユーザー層に訴求する

米アップルのiPhone 5c。5色展開する
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 アップルは今回初めて同じタイミングで2機種を出します。これまでは1年間に新製品を1機種出すのがアップルの通例です。これまでの路線で言えば、iPhone 5sがその新機種に該当します。一方のiPhone 5cは外装は違いますがその中身はほぼ「iPhone 5」です。
 アップルはiPhone 5を作り続ければ今までの設備で新しいラインを作らず済むわけですよね。それはそれで商品力があるから売れる。それでもiPhone 5sが出た後では“型落ち”ではあるんです。今回iPhone 5cは中身は“型落ち”ですが、それを新商品に仕立てている。もちろんこうした例は普通にやられていることで、例えば自動車の場合、プラットフォームは同じ、車台は同じで、外側だけ変えるといったことをしてきたわけです。スマートフォンの世界ではあまりやられてきませんでした。
 ただiPhone 5cは“型落ち”であることをまったく見せず、違うマーケットを作るかのようなデザインを取り入れ、新しさを出している。iPhone 5sは部材の調達なども新しい製品なので、量産が軌道に乗らないこともありえますが、iPhone 5cの中身は既にある部材を使った製品です。それを新しい商品に仕立てて、“型落ち”でも違うマーケットに訴えかけてしまった。
  iPhone 5cはカジュアル感があるため、これまでより広いユーザー層に訴えられると思います。中身を変えずに外側を変えて、違うバージョンではなく新商品として出す。アップルという会社は人の感性に訴えかけるのに長けた会社だと思います。
 iPhone 5sは技術的な先進性もあって、先進層に“響く”商品です。そしてiPhone 5cという選択肢が増えた。Androidは各メーカーが製品を出すことで、選択肢を増やしてきましたが、アップルは自ら選択肢を用意しました。今後、選択肢の多さということからAndroid搭載機を選んでいた層をiPhoneが奪うこともあるでしょう。

中古でもApple IDを使ってサービスを利用してもらえる

 新興市場に話を戻すと、そこにはたとえ中古市場ではあっても、アップルが存在する世界が既にあるわけです。その市場に「iPhone 4Sが流れればそれでいいや」くらいにアップルは思っているのではないでしょうか。
 中古市場が新品の“需要を食っている”と捉えるのか、「そもそも高い製品は売れないんだから、今は中古品にまかせる」と考えるのか。中古市場をどう捉えるかは重要です。各種調査会社の販売台数の数字には中古品は入ってこないので見えてこない部分ですが、世界的には中古の市場は大きい。
 iPhoneの下取りに関して日本の携帯電話事業者も始めています。それをアップルが買いとるのかどうかは分かりませんが、自動車の世界では「新車を買う際に下取りもする」のが一般的です。ブックオフが中古の携帯電話やスマートフォンを買い取るといった例もあります(関連記事)。
 新興国の場合、多くのユーザーは携帯電話事業者のデータ通信料金が高いため、無料の無線LANスポットで使うわけです。アップルからすればiPhoneが中古品であっても、そこでApple IDを取得したユーザーが、アップルのサービスを使うような状態になればいいわけです。ネットワークにさえつながっていれば通信事業者も関係ありません。
 新興国市場について言われることは、韓国サムスン電子やLGエレクトロニクスには当てはまるかもしれませんが、ことアップルに関しては当てはまらない議論で、そもそもやっている商売が違うと思います。こうした点から見ても、iPhone 5cが新興国向けではないことは分かりますよね。(談)

auがドコモのiPhone導入の露払い、「いずれどのキャリアも同じ端末を扱う世界に収れんする」

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130913/504445/?k2


[アナリストの視点]野村證券 エクイティ・リサーチ部 デピュティ・ヘッド 日本通信リサーチ マネージング・ディレクター 増野大作氏

 

「ドコモのiPhoneがどうなるか。それはこれまでauがやってきたことを見れば分かりますよね。『auスマートパス』もiPhoneで使えます。音楽再生アプリの『LISMO』もiPhoneで使えます。こうした先例があります」。野村證券 エクイティ・リサーチ部 デピュティ・ヘッド 日本通信リサーチ マネージング・ディレクターの増野大作氏は、KDDI(au)という先行事例を見れば、ドコモのiPhoneがどうなっていくかが分かると指摘する。auのiPhoneは、ドコモのiPhone導入のいわば“露払い”だったとも言える。
 ドコモは同社が展開する各種サービスのマルチキャリア化、マルチプラットフォーム化を進めていた(関連記事:dマーケットはマルチキャリアへ、まずは個別課金系サービスから対応する)。当初からiPhone導入を想定していたかどうかは現時点では不明だが、結果的に同社のiPhone導入においても自社サービスの迅速な展開が可能になったといえる。spモードメールやメッセージR/同Sは10月1日から、dマーケット関連は、dアニメストアとdミュージック(月額コース)が多少遅れるものの、dゲームやdビデオなど大部分のdマーケット関連サービスは10月中には提供を開始する予定である。
 いずれにせよドコモのiPhone導入で、KDDI、ソフトバンクモバイルの大手3社が同じ端末を扱うことになり、これまでMNPにおいて“草刈り場”と化していたドコモも、KDDI、ソフトバンクモバイルとiPhoneの取扱いという点において同じ土俵に立つことになる。野村證券の増野氏にドコモのiPhone導入後の変化について聞いた。

ドコモは様々なサービスも自ら手掛けています。
野村證券 エクイティ・リサーチ部 デピュティ・ヘッド 日本通信リサーチ マネージング・ディレクター 増野大作氏
野村證券 エクイティ・リサーチ部 デピュティ・ヘッド 日本通信リサーチ マネージング・ディレクター 増野大作氏
 iPhoneはAndroidよりも自由度は低いですから、自由度を広げる交渉をしていくほかない、というのがここ1年のKDDI。ドコモの各種サービスがどうなるかはKDDIと同じだと考えればシンプルな話です。KDDIではiPhoneでも「auスマートパス」を入れて、音楽再生アプリの「LISMO」も使えるようにしました。単純にauと同じようになっていくだけだと思います。
ある意味、KDDIがドコモのiPhone導入の露払いになった。
 KDDIは情熱を持ってauスマートパスの導入をアップルに認めてもらって、それ以降も様々なサービスをiPhoneで使えるようにしてきています。交渉ごとなので、熱意がない人には開かれない。すべてはKDDI次第、ドコモ次第だということだと思います。
端末メーカーにはどのような変化があるのでしょうか。
 単純にドコモのiPhoneが売れる分だけ他メーカーの売上が減るとなると、がんばらないメーカーは脱落していく。メーカー数は限られてきますよね。ただ日本は競争条件が他国と違う点もあります。米国では例えばiPhoneが199ドル、Androidのハイエンド機も199ドルと同じ値段で売られている。一方日本はiPhoneが安く売られている。例えば原価が4万5000円のAndroid端末が2万円で売られ、それより原価の高いiPhoneが実質ゼロ円といった売られ方をしている。
 iPhoneは年末までに全世界で270の事業者が扱います。Androidの端末を作るメーカーも、取り扱ってもらえる携帯電話事業者を増やす努力をしなければならないでしょう。実際、日本でも富士通のARROWSシリーズやシャープのAQUOS PHONEシリーズは3事業者から販売されています。
 一方で携帯電話事業者からしても、どこでもiPhoneを売っているんだったら、Android端末も売らないと見栄えが悪い。そうすると、結果的にどこに行っても同じ端末を売っている世界に近づく。例えば米国ではベライゾンに行っても、AT&Tに行っても、同じ端末が並んでいるわけです。自然に日本でもそういった世界に収れんしていくと思います。半年後は分からないですけど、2年もすればそうなるのではないでしょうか。


どこも同じような製品を扱うとスマートフォンもコモディティになる。
 そうは言われますが、まず技術的な面で言うと、今回のiPhone 5sは世界中で誰も64ビットのCPUを搭載するとは思っていなかった。その点ではまだまだコモディティにはなっていない。少なくともあと1年2年はそうでしょう。
 64ビット化の直接的な影響はこれから。まだアプリが少ないので体感できませんが、ユーザーのエクスペリエンスが変わってくることはあるかもしれません。もちろん、ゲームくらいにしか使われないかもしれませんが。
 通信の世界ではiPhoneに限らず、スマートフォンのTD-LTE対応は進むでしょう。下り250Mbpsのサービスの計画もあります。最初はデータ端末からだと思いますが、スマートフォンにも組み込まれていくでしょう。
 TD-LTEに関しては、アップルが発表したモデル以外のiPhoneが中国でTD-LTEの試験認証を取得しています。試験認証は中国移動向けです。中国でTD-LTEの商用ライセンスはまだ下りていませんが、Wall Street Jornalなども報道しています(関連記事)。来年はTD-LTEが盛り上がります。すべてのメーカーがFDDとTDDの両方のLTEに対応する端末を用意してくることになるでしょう。
 スマートフォンの普及率の点では、ドコモは世界的に見てもスマートフォン比率が低い事業者です。2013年6月末時点でスマートフォン比率は契約者の37%でしかない。それが今後例えば6割になるだけで大きな変化があると思います。KDDIも世界的に見れば低いほうです。コモディティ化以前に、日本はまだスマートフォンをどんどん売っていく段階です。
携帯電話事業者間の競争は。
 iPhoneが対応するLTEの周波数から見ると、ドコモのLTEは現状2.1GHz帯が中心で、800MHz帯はほとんどないですよね。1.7GHz帯はまだLTEをやっていない。せっかくそれらの周波数のLTEに対応するiPhoneを導入するのにそこを使わないのはもったいないですよね。ドコモがiPhoneの取扱いをいつ決めたか分かりませんが、800MHz帯と1.7GHz帯のLTE対応が遅れており、そこを急ぐ必要があるでしょう。
 ソフトバンクモバイルは2.1GHz帯でLTEをやっていて、都心部ではイー・アクセスの1.7GHz帯をLTEで使っている。900MHz帯によるLTEは来年春。KDDIは今回同社が使っている800MHz帯にiPhoneが対応しました。KDDIは5MHz幅を3G、10MHz幅をLTEで使っています(関連記事:iPhone 5s/5cの対応バンドに見るアップルの深意、そして携帯3社の競争の行方)。過去も今後もそうですが、半年程度で状況は変化していくのではないでしょうか。

 

iOS 7がフラットデザインを採用した理由、「既存のメタファーでは表現できない時代に」

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130913/504446/?mle


[デザイナーの視点]コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクト 長谷川敦士氏、代表取締役/プロデューサー 上原哲郎氏

 

iPhone 5c/5sが当初から搭載し、18日から順次各国での公開が始まったiOSの新バージョンである「iOS 7」。そのデザイン上の特徴の一つが「フラットデザイン」である。従来のiOSは、そのアイコンデザインなどがリアルに存在する物のメタファーで構成されていたが、iOS 7ではシンプルさが際立つデザインとなった。
 この背景として、UX/UIの専門家であるコンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士氏は「デジタル化が当たり前になり、既存のメタファーだけで表現するには無理が来ている」と述べる。長谷川氏、そして同じくコンセント 代表取締役/プロデューサーの上原 哲郎氏の二人にiOS 7で何が変わったのかを聞いた。

コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士氏(右)、同 代表取締役/プロデューサーの上原 哲郎氏
コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士氏(右)、同 代表取締役/プロデューサーの上原 哲郎氏
 まずiOS 7を“ぱっと”見たときのデザイン、従来のiOSとの違いは、一般的には「フラットデザインになった」と言われています。では「フラットデザインとは何か」ということですが、従来のiOSの場合、一つひとつのアイコンのデザインが例えば「写真」のアイコンは写実的なひまわりであり、「カレンダー」は実際の日めくりカレンダーのようなデザインになっています。「App Store」のアイコンにしても立体感があった。
iOS 7は“フラットデザイン風”
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 それがiOS 7になると、「写真」は抽象的な模様になり、「カメラ」は写実的なレンズのアイコンから平面なカメラアイコンに変わった。見た目のリッチさ、表面的なリッチさがなくなったものがフラットデザインと言われています。

なぜ「スキューモフィズム」から変わったのか

 もう少し正しく言うと、iOS 7のデザインは“フラットデザイン風”と言えます。ユーザーインタフェース(UI)の細かい話になりますが、「スキューモフィズム」という考え方があります。これは現実の比喩でUIを作るということ。例えば、UNIXでは「delete」とコマンドラインで入力すればいいところを、MacOSでは「ごみ箱」にファイルを“捨てる”といった操作をします。こうしたことも含んだ考え方です。
 現実の比喩でインタフェースを作るのがスキューモフィズムです。iOS 6まではアイコンのデザインや、アプリを立ち上げたりしたときのデザインとして、スキューモフィズムを重視していました。


 スキューモフィズムの背景ですが、元々コンピュータは、現実に近づけることで使う人に分かってもらう、という考え方あった。例えば電子書籍は木目調の本棚にないとその概念が伝わらない、日めくりカレンダーを見るとカレンダーを連想する、コンピュータに不慣れな人からすればゴミ箱の方が実際の書類を捨てることに近くて分かりやすい、というところから始まっています。
 とはいえ今はデジタル化が成熟し、もともとメタファーにしていたものが、それを比喩として使う必要がなくなっているという現状があります。コンピュータの中でメールは独自の進化をしており、必ずしも昔のメタファーで説明する必要がなくなりつつあります。
iOS 6の「Newsstand」
iOS 6の「Newsstand」。スキューモフィズムの例
木のテクスチャや質感がコンテンツを受け取る人にとって、もはや余計な情報になってしまっている
 昔のメタファーに“引っ張られる”ことで、写実的で過剰になってしまうと、そのもの自体の視認性は下がってしまいます。例えば「Newsstand」の木のテクスチャや質感は、いまや余計な情報になってしまっています。それを受け取る人にとっては、見たいのはその中のコンテンツです。コンテンツを識別できるようなラインが引いてあればいい。今業界全体が、不必要な写実的な概念を捨てるという方向にシフトしてきています。
 例えば電子書籍は以前であればページをめくる時、“裏写り”がどれくらい入るかといったところの表現にしのぎを削っていました。ただ、電子書籍で出すことが前提になると、紙の本のメタファーである“裏写り”ではなく、いかにテキストがスムーズに読めるかが重要になります。
 現実がメタファーを追い越したというか、そうしたUIの世界が、これまでの現実の真似ではなく、新しいオリジナルのポジションを築くようになっている。そういうことがあり、既存のメタファーだけで表現するには無理が来ていた。


スキューモフィズムからの脱却をiOS 7で体現

 そのことはかなり気付かれていて、ここ数年でどっと新しいUIが出てくる要因になっている。米グーグルもアプリの中でフラットデザインを採用しています。ただ、そうは言っても、使う人にとってどこがボタンか分からない、といったことも起こり得ます。
iOS 7の「電話」と「メール」のアイコン
iOS 7の「電話」と「メール」のアイコン
フラットにはなっているがiOS 6のアイコンを継承している
 例えば「電話」のアイコンはiOS 7になっても受話器の格好をしていますし、「メール」も封筒のデザインを継承しています。アップルもこれまでのiOSのユーザーを捨てるわけではなく、iOS 7はiOS 6からの正常進化でもあるので、そのまま使っていたり、継承している部分もあります。まったく違うものになると誰も分からない世界になってしまうので、自分自身を模倣し、単純化している側面もあるかもしれませんね。
iOS 7を搭載するiPhone 5s
全体的にはフラットな印象だが、立体的なUIも存在している
[画像のクリックで拡大表示]
 そういう意味で、「完全なフラットデザインの世界にする」「100%フラットデザインで徹底する」と頑固になっているわけではなくて、既存の延長でありながら、フラットデザイン的要素を取り入れている。「こんなのフラットデザインではない」と言う方もいますが、アップルは新しいデザインの潮流、スキューモフィズムの世界からの脱却をiOS 7で体現しているのだと思います(談)。

2013年9月12日木曜日

次世代iPhone発表、「次の10億人」争奪戦へ号砲



NTTドコモ参入が暗示するもの

米アップルにとってもNTTドコモが「iPhone」を取り扱うことは特別なことだったようだ。
 「今回初めて、発売段階から中国でも最新のiPhoneが購入できるようになった。日本ではソフトバンクとKDDIに加え、NTTドコモでも取り扱いが始まる」
 米アップルが9月10日(米国時間)に開いた人気スマートフォンの最新機種「iPhone 5s」と廉価版「iPhone 5c」の発表会。米アップルのフィル・シラー上級副社長は1時間半に及んだプレゼンの終盤にこう切り出し、ドコモがiPhoneの販売に参入することをようやく言明した。
 アップルの発表会では、プレゼンの最後に新製品を取り扱う携帯電話事業者を一覧表で淡々と紹介するのが慣わしで、今回のように、特定の携帯電話事業者を名指しするのは異例。発表会の終了直後に自社ホームページに「ドコモとアップル、9月20日のiPhone提供開始に向けチームを形成」と題するプレスリリースを掲載したのも、これまでのアップルでは考えられなかった「特別待遇」と言えるものだ。

アップル、中国の失速に危機感

 裏を返せば、アップルの危機感がそれだけ深いということ。同社の決算発表資料によると、2013年4~6月期の売上高は353億2300万ドル(約3兆5000億円)と前年同期に比べ1%の増加にとどまった。特に中国地域における売上高が同14%減少するなど、スマートフォンの普及が本格化している新興国での不振が目立つ。
アップルの地域別売上高の対前年増減率
中国での失速と、日本での好調ぶりが目立つ
 実は世界の主要国で、最大手の携帯電話事業者がiPhoneを扱っていないのは、日本と中国くらい。約6200万人の契約者を抱えるドコモは、アップルにとって残された数少ない “フロンティア”だったのだ。
 記者会見では言及がなかったものの、アップルは中国の携帯電話最大手、中国移動(チャイナモバイル)ともiPhoneの取り扱い開始に向けた詰めの協議を進めていると報じられている。記者会見であえて最新のiPhoneを発売段階から中国市場に投入することを強調することで、7億人の顧客基盤を抱える世界最大の携帯電話事業者への配慮をにじませた。
 これまで主戦場だった米国や欧州での販売が頭打ちとなる一方で、新興国では格安スマートフォンの台頭に押され、従来のような“神通力”が通用しない――。大幅な販売の上積みが見込めるドコモを特別待遇で迎えた背景には、アップル側のこうした事情が存在する。時に「傲慢」とも言われてきたアップルが圧倒的な販売力を持つ携帯電話事業者に恭順の意を示したという意味で、この日の記者会見はモバイルの世界における主導権争いに異変が起きつつあることを示すものだ。

 新製品のスペックについての説明は、事前にインターネットメディアなどに流れていたリーク情報をほぼなぞる内容となった。アップルの新たな商品戦略として注目を集めたiPhone 5cは外装部品の素材をプラスチックに変更して価格を抑えた廉価版。グリーン、ホワイト、ブルー、レッド、イエローの5色を取りそろえた。2年契約の前提で16Gバイトのモデルが99ドル、32Gバイトのモデル199ドルとなる。
 一方、iPhone 5sはシルバー、ゴールド、スペースグレイの3色。64ビット対応プロセッサー「A7」を搭載し、従来よりも動きが高速化したのが特徴だ。新たに指紋認証機能「Touch ID」を搭載し、従来のパスコード入力を不要にした。アップルが提供するアプリ販売ストア「App Store(アップストア)」や音楽配信ストア「iTunes Store(アイチューンズストア)」での認証時にも利用できる。16Gバイトのモデルが199ドル、32Gバイトのモデルが299ドル、64Gバイトのモデルが399ドルとなる。
 ドコモによる予約受付の開始は9月13日。iPhone 5cについてはドコモの会員制プログラム「ドコモプレミアムクラブ」の「プレミアムステージ」(10年以上利用しているか、もしくは年間平均で毎月の利用料金が2万900円以上)の契約者の先行3万人に対して優先的に予約を受けつける。ドコモは約2400店舗の公式販売店「ドコモショップ」を持つが、発売日となる9月20日時点では「千数百店舗でのみ販売する」(ドコモ広報部)。

「spモード」は間に合わず

 アップルによる正式発表の数日前からリーク情報がメディアを賑わせ、ドコモによるiPhoneの取り扱いが既成事実となる中、9月10日の記者会見で注目を集めたのは、その販売条件だ。
 実はアップルとの交渉においてドコモの関係者が特に意識していたのは、並行して進められていたアップルと中国移動との協議内容だったと言われる。これまでアップルの要求に従い続けてきた聞き分けの良い携帯電話事業者と違って、中国移動には世界最大の携帯電話事業者としての高い自尊心がある。NTTドコモの首脳陣はアップルが中国移動に対してどこまで譲歩するかを参考にしながら、自らの交渉態度を決めようとしていたフシがある。
 結果はドコモの首脳陣にとって満足の行くものになったはずだ。9月20日の発売には間に合わない可能性が高いものの、ドコモから発売されるiPhoneについては、同社が提供するメールサービスや決済サービスをスマートフォンで利用可能にする「spモード」に対応する見通し。サービスが始まる10月以降であれば、既存のドコモ契約者は従来のメールアドレスも利用可能だ。

「次の10億人」に照準

 アップルが新型iPhoneの発表会で見せた携帯電話事業者への「恭順」と、廉価版の投入という「変質」。その大きな要因となったスマートフォン市場の成熟化というトレンドは、今年9月に入って相次ぎ発表された欧米における大型再編にも通じるものがある。
 
 9月2日に米通信大手ベライゾン・コミュニケーションズが携帯電話合弁子会社ベライゾン・ワイヤレスの株式の45%を合弁相手の英ボーダフォンから買い取ることで合意したニュースは、先進国においてスマートフォンの時代がピークを迎えたことを象徴する出来事だ。
 両社が発表した買収額から逆算すると、ベライゾン・ワイヤレスの評価額は約2900億ドル(約29兆円)に達する。これは持ち株会社であるベライゾン・コミュニケーションズの時価総額(9月9日時点で1313億ドル)を大きく上回るばかりか、グーグルの時価総額(同 2957億ドル)にさえ匹敵する。
 ボーダフォンにしてみれば、スマートフォンの普及率が過半数を突破した米国の携帯電話事業者にマイナー出資を続けるよりも、本来の地盤である欧州に資金を振り向けるほうが、持続的な成長に貢献するとの判断に至ったもようだ。ベライゾン・ワイヤレス株の売却によって手にする1300億ドル(13兆円)の資金の一部は、今後も高い成長率が見込めるアフリカなど新興国でのM&A(企業の合併・買収)に活用されると見込まれている。

 翌日の9月3日に米マイクロソフト(MS)が総額54億4000万ユーロ(約7200億円)でフィンランド・ノキアの携帯電話事業を買収すると発表したのも、同じ文脈から読み解くことができる。
 スマートフォンに限るとノキアの世界シェアはトップ5にも入らないが、インドやアフリカを中心とする新興国では今なお「NOKIA」ブランドの人気は根強く、携帯電話市場全体では今もサムスンに注ぐ2番目のシェアを持つ。MSのスティーブ・バルマーCEOはこうしたノキアの資産を活用し、新興国を基点にモバイル分野での存在感を取り戻す考えを示している。
米マイクロソフトへの実質的な身売りを決断したノキアのスティーブン・エロップCEO
 今年2月下旬、スペインのバルセロナで開かれた携帯電話の見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)2013」でのこと。「Connecting the next billion to the internet(インターネットにつながる次の10億人)」と題するパネル討論会に登場したインドの携帯電話事業者バーティ・エアテルの幹部が「端末メーカーの今後の役割は30ドルのスマートフォンを作ることだ」と水を向けると、その直後に登壇したノキアのスティーブン・エロップCEOは「低価格スマートフォンの取り組みには自信がある」と応じ、簡単なインターネットサービスが使える15ユーロ(約1800円)の携帯電話を紹介してみせた。
アフリカ各地ではすでにスマートフォン各社の競争が熱を帯びている(写真はエチオピアの首都、アディスアベバの電気街
 エロップCEOの話すとおり、次の10億人をモバイルインターネットの世界に取り込む上で必要条件となるのは、圧倒的な低価格を実現すること。ただ、そうした競争環境下で収益を確保できるビジネスモデルを示せたプレーヤーは今のところ存在しない。
 発表前から噂の耐えなかった廉価版のiPhone 5cについて、中国の有力スマートフォンメーカーからは「同じブランドが2つの異なる価格帯で両立できるのか疑問」との皮肉も聞かれていた。最後のフロンティアで生き残るのはアップルかMS・ノキア連合か、あるいは全く別のプレーヤーとなるのか。各社横一線の新たな闘いの火ぶたが切って落とされた。


2013年9月5日木曜日

不愉快なツイートを収集するプログラム「HateBrain」

http://wired.jp/2013/09/04/hatebrain/?utm_source%3dfeed%26utm_medium%3dnikkei

「HateBrain」というコンピュータープログラムが、不愉快なツイートの日時と内容のほか、投稿した人の所在地とユーザー名を収集している。

the concept of thinking photo from Shutterstock

「Twitter」に投稿される不愉快で暴力的な言葉について議論が交わされるなか、「HateBrain」というカナダで開発されたコンピュータープログラムが、不愉快なツイートの日時と内容のほか、ツイートした人の所在地とユーザー名を密かに収集している。

HateBrainは、性別、性的指向、障害、民族性、国籍、宗教、階級に関するヘイトスピーチを求めてTwitterを入念に検索する。WIRED UKが2013年4月の記事(英文)で紹介した「Hatebase」プロジェクトの一環として、この夏に完成したプログラムだ。

このプロジェクトは、ヘイトスピーチのデータベースをつくり、集団虐殺への道を示すような、人を排除し、人間的に扱わない言葉の広がり方を研究者が発見しやすくすることを目指している。これまでは利用者が「目撃情報」を手動で入力する必要があったが、世界最大の公開討論の場であるTwitterも利用して、ヘイトスピーチの使用を追跡するようになったわけだ。

現時点では、ツイートの37%が、人の介入なしでHateBrainによって自動的に分類できるという。そして、HateBrainにより、1日に750件前後のヘイトスピーチの目撃情報が自動的に取り込まれている。1年にすると300,000件弱になるが、それでもさらに1日6,000件近くのツイートには人の仲介が必要だ。

Twitterのジオタグ機能でジオタグが付いているツイートはほんのわずかだ。そのため、「HateBot」と呼ばれる別のツールが、ユーザーのプロファイルに含まれている文脈情報を使って、ツイートの発信地のプロファイルを作成する。HateBotはこの方法で、ツイートの42%に、ある程度のジオタグを付けることができるという。自宅から遠く離れた場所からツイートしている可能性もあるとはいえ、この方法によって、特定の街や地域の人々が特定の言葉を受容しやすいかどうかについての推察を得ることができる。

HateBrainでは、ヘイトスピーチを投稿した人が過去にも同様の発言をしたことがあるかどうかもチェックされ、最近のツイートでのヘイトスピーチの文脈を突き止めるために役立てられている。

Hatebaseプロジェクトを後援する「The Sentinel Project for Genocide Prevention」(集団虐殺を防止するための監視プロジェクト)では、これらふたつの方法を使って、研究者が公開APIを使ってアクセスできる、ヘイトスピーチのデータベースを構築中だ。

希望すれば誰でも自由にアクセスできるこのデータベースによって、Twitterユーザー(特にティーンエージャー)の評判に傷がつく恐れがあるのではないかという指摘もある。しかし、Hatebaseの開発者であるティモシー・クイン氏はこの指摘を否定し、ユーザー名と、ツイートの内容は現時点では公開されていないと述べた。「ありのままの歴史的記録は、介入や研究を通して、より大きな人々にとって有益な価値を持ちうる」

Microsoft、米政府に透明性向上を求める取り組みでGoogleと結束

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20130902/501482/?mls

米Microsoftは現地時間2013年8月30日、米Googleと結束して情報開示要請に関するデータの公表許可を米政府に求めていくと発表した。Microsoftの言葉を借りれば「両社は長い間距離を置いていた」が今後は協力し、裁判などを通じて透明性向上に取り組むとしている。
 米政府の個人情報収集活動が明るみに出て以来、米国IT企業はユーザー情報の提供で批判を受けている。そこで米国IT企業は、情報請求への自社の対応を明確にしようと、国家安全および外国情報監視法(FISA)に関する情報開示要請の詳細なデータ公表を許可するよう政府に求めている。
 MicrosoftとGoogleはともに6月、米当局から受けた情報開示要請に関する公表禁止を解除または緩和するよう米外国情報監視裁判所(FISC)に正式に要求した(関連記事:Googleに続きMicrosoftも情報開示要請に関する公表禁止の緩和を正式要求)。いずれも米国憲法修正第1条で保障されている「言論の自由」を引用し、より多くの情報を民衆と共有する権利があると主張している。
 7月にもMicrosoftはデータ公表の許可について、米司法長官に個人的な関与を強く呼びかける書簡を送った(関連記事1)。MicrosoftおよびGoogleは、米政府に透明性向上を要求するIT企業と擁護団体の連合体にも参加している(関連記事2)。
 これまでMicrosoftが行っていた米司法省(DOJ)との交渉は結論に至らず、DOJは6度も回答を延期したという。DOJは8月29日に、国家安全に関する個人情報開示要請の年間総数を公表する意向を示したが、Microsoftはより詳細なデータを民衆に知らせるべきだとしている。

泣きましょう。たまにはデスクで。ひといき。


2013年9月4日水曜日

MSがノキア携帯買収 劇薬100ドルスマホに「最後の望み」

http://www.nikkei.com/article/DGXBZO59247380T00C13A9000000/?dg=1

■ここまできたか。。。(担当:i)


MSがノキア携帯買収 劇薬100ドルスマホに「最後の望み」 
ジャーナリスト 石川 温

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2013/9/4 7:10
 米マイクロソフト(MS)が失地回復に向けて大きな賭けに打って出た。3日、ノキア(フィンランド)の携帯電話事業を総額54億4000万ユーロ(約7140億円)で買収すると発表。両社は「スマートフォン(スマホ)の敗者連合」とも呼ばれていたが、本格的な事業の統合によって最後の巻き返しを図る。
 ターゲットとしているのはライバル各社が続々と100ドルスマホを投入している新興国などの激戦市場だ。かねて両社を苦しめてきた低価格機で形勢を逆転しようともくろむが、ここでの戦線拡大はMSの既存のビジネスモデルと収益力を破壊する劇薬になりかねない。
マイクロソフトとの提携を会見するノキアのエロップCEO(2011年2月)
マイクロソフトとの提携を会見するノキアのエロップCEO(2011年2月)
■取り残された2強が提携
 ほんの数年前まで「新興国の携帯電話市場に強い企業」といえば、迷うことなく「ノキア」が挙げられた。その牙城を崩したのが100ドルスマホに代表される低価格機だ。
 ノキアは携帯電話に自社開発のOS(基本ソフト)に「Symbian(シンビアン)」を搭載。圧倒的な低価格を武器に欧州だけでなくアジアやアフリカなどで巨大なシェアを獲得していた。
 だが、07年にはアップルがiPhoneを投入し、世界でスマホブームが起きた。米グーグルのOS「Android」を採用した価格の安いスマホも登場し、ノキアのドル箱だった中国やアジアの市場を席巻、同社はたちまち苦しい立場に追い込まれた。
 そんな2011年2月、MSとノキアは戦略的な提携を発表した。
 この時点で「敗者連合」と位置づけるのは少々酷であろう。11年2月時点のOS別シェアでは依然としてシンビアンが首位を維持。ただ、成長性という観点では雲行きが怪しくなっていた。ノキアはMSとの提携を通じて、シンビアンに代わる主要OSに「ウィンドウズフォン」を採用。スマホ「Lumia(ルミア)」の発売を決めた。
 MSにとっても、ノキアは残された最後のパートナーだった。
 10万円以上もする高価格なパソコンを、新興国に広めるのは難しい。だが、携帯電話端末、しかもノキアが強い低価格帯向けのラインアップであれば、新興国で影響力を及ぼすことも可能だ。MSが提携に踏み切ったのは、ノキアが世界中にもつ販売網が魅力的だったからだ。
 ノキアの最高経営責任者(CEO)であるスティーブン・エロップ氏は、提携を発表する5カ月前にMSから移籍したばかり。提携内容も「経営資源を統合し開発ロードマップを共有する」という、ほとんど事業統合に近い内容だった。MSはもともと早期に買収する計画を想定していたに違いない。
■端末台数が急減し売上高も半減
 しかし、両社はチャンスを生かせなかった。「ルミア」は当初の想定していたほど売れず、ノキアは引き続き苦戦を強いられることになる。
高機能モデルから低価格帯までいくつかの機種を用意したが、ハイスペック端末はiPhoneと直接競合し、全く勝負にならなかった。かろうじて、欧州やインド、中南米などの市場で売れたのが低価格帯のラインアップだった。
 結果、ノキアの端末出荷台数は携帯電話とスマートフォンのどちらも急減。売上高も右肩下がりとなり、2011年第4四半期には約60億ユーロだったものが、2013年第2四半期には約27億ユーロ強と半分以下に落ち込んでいる。
 MSのスマホ関連事業も鳴かず飛ばずだ。昨年11月に発売したスマホOS「ウィンドウズフォン8」では、優先開発パートナーとしてノキア以外に、韓国サムスン電子や台湾の宏達国際電子(HTC)、中国の華為技術(ファーウェイ)を迎え入れた。だが、いずれもAndroidスマホを主力製品としている会社だ。米国のマイクロソフトストアでもルミアとHTC製ウィンドウズフォンしか展示がなく、iPhoneやAndroidスマホに比べて存在感で大きく見劣りしている。
 今、端末メーカーの多くは第三のOSとして「ファイヤーフォックスOS」や「Tizen(タイゼン)」などに目を向け始めている。もはや、どのメーカーもMSには注目していない。富士通のように「ウィンドウズフォンはぜひやりたい」(大谷信雄執行役員常務)という企業もあるが、もはや多くの端末メーカーには頼れない。
2012年1月の米家電見本市会場で「ルミア900」を発表するマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO(左)、ノキアのスティーブン・エロップCEO(中央)、AT&Tのラルフ・デ・ラ・ベガCEO(右)=AP
2012年1月の米家電見本市会場で「ルミア900」を発表するマイクロソフトのスティーブ・バルマーCEO(左)、ノキアのスティーブン・エロップCEO(中央)、AT&Tのラルフ・デ・ラ・ベガCEO(右)=AP
■アップルになりたいMS
 そんななか「いちるの望み」として大勝負に出たのが今回のノキア買収である。
 MSは昨年から「デバイス&サービスカンパニー」を目指すと宣言している。目指すのは「メーカー」だ。「社内の経営方針資料を見ても、想定している敵はアップル。デバイスメーカーの立場でアップルと互角に戦おうとしている」(MS関係者)
 そこで一度は破談となった買収話を復活。スマートフォンやタブレット(多機能携帯端末)を開発する3万2000人の従業員をもつ企業を買収する決断をした。

8月末にMSのスティーブ・バルマーCEOが1年以内の引退を発表。スティーブン・エロップ氏がバルマー氏の後継CEOとなる可能性も模索する中で、買収が決まった可能性もある。
 MSは3日、ノキアとの共同会見で、今回の買収を通じて5年後の18年末に全世界で17億台と予測されるスマホ市場で15%のシェアを獲得する計画を発表した。
 数を追求するためには低価格のスマホで存在感を発揮する必要がある。ノキアのブランド力や販売網、技術力を生かしつつ、今後はタブレット端末「サーフェス」のように自社ブランドで攻勢をかける戦略をとるのが現実的な路線だろう。
ノキアとマイクロソフトはスマートフォン市場での挽回を図るために提携を発表した(2011年2月)=ロイター
ノキアとマイクロソフトはスマートフォン市場での挽回を図るために提携を発表した(2011年2月)=ロイター
■復活の鍵は「サーフェス・フォン」
 iPhoneが苦手とするのが、新興国を中心とする廉価版の市場だ。廉価版iPhoneが登場するという情報が広がっているが、端末販売で高収益を確保する必要があるアップルがiPhoneを100ドルにするのはさすがに難しい。
 膨大な資金を抱えるMSならば、利益を度外視した100ドルスマホ「サーフェス・フォン」(仮称)を市場に投入し、新興国市場を席巻する可能性もゼロではない。日本市場でもグーグル「ネクサス4」のように、「SIMロックフリーでサーフェス・フォンを売り出す」選択肢も出てくる。
 だが、ハードウエアビジネスは、これまでMSが強みを発揮してきたソフトウエアとは全く利益構造が異なる。利益率が50%近いウィンドウズや、70%近いオフィスと違って、薄利多売で規模を確保することが重要となる。
 これまで、共存共栄を築いてきたメーカーとの関係も変わってくるだろう。米モトローラ・モビリティーを買収したグーグルにも、Androidスマホを作るメーカーから「モトローラだけを特別扱いするのではないか」と不満の声が聞かれた。MSが独自タブレット「サーフェス」を販売する際にも、「自分たちの領域を踏み荒らすのか」と主張するメーカーがあった。
 そうした雑音を振り切って昨年10月に発売したサーフェスだが、6月末の決算で9億ドルもの巨額な評価損を計上したばかり。MSにとって、成功の道筋が見えないハード事業へのさらなる挑戦は既存のビジネスモデルを破壊することにもつながりかねない。
 3日の米株式市場ではMS株が前週末比4.6%安と急落、一方、ノキアの米国預託証券(ADR)は30%以上も急騰した。出遅れたスマホ市場での起死回生は可能なのか。可能だとしてもMSがパソコン時代に築いた収益モデルは崩れるのではないか。今回の買収が両社の経営に与える影響を市場は複雑な思いでみつめている。
石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。近著は、本連載を基にした「iPhone5で始まる! スマホ最終戦争―『モバイルの達人』が見た最前線」。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/channel/226)を配信中。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226

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