2013年7月9日火曜日

絶対の正解は存在しない?ブランデッド・コンテンツの作り方の秘訣

 http://markezine.jp/article/detail/17942

ブランデッド・コンテンツの作り方に絶対の正解は存在しない

「ブランデッド・コンテンツ」について語ってきた連載も、今回が最終回です。第1回目では、「ブランデッド・コンテンツ」とはいったい何を指すのかに ついて、紹介しました。簡単に振り返ると、従来の広告という枠を越えて、ブランドの価値を高めるために、ソーシャルで話題化されるバイラル・フィルムでも 良いし、夕方のテレビ・ニュースで取り上げられるイベントを仕掛けることでも良いし、なんらかのコンテンツを企画/制作/実施すること、またはその作品/ 施策です、ということでしたね。
 そして、第2回目では、「ブランデッド・コンテンツ」が必要とされ注目されるようになった背景に ついて、説明しました。復習すると、デジタル/ソーシャル/モバイルの発達によって、送り手であるメーカーや広告代理店が主導権を握っていた時代は過ぎ去 り、受け手である消費者が“ブランドをコントロール”ようになったのが、主要な背景です。そして、それは消費者が受け取る情報量の爆発的増大(量的側面) と、ブランド・メッセージと消費者の関わり方の特性(質的側面)の2つの側面から分析できることも、お伝えしました。
ここまで読んでいただいた皆さんは、では、どうやったら効果的な「ブランデッド・コンテンツ」をつくることができるのか?そして「ブランデッド・コンテンツ」をつくる時に気を付けるべきポイントは何か?といったことに興味を持っているのではないかと思います。
 正直に言えば、絶対の正解は存在しないし、簡単なハウツーもありません。「ブランデッド・コンテンツ」は、映画や動画や記事や小説などとも競争しなければならないコンテンツです。ということは、効果的な「ブランデッド・コンテンツ」つまり魅力的な「ブランデッド・コンテンツ」をつくるということは、大ヒットする映画や小説と同様の才能やスキルや努力が必要になるということでもあります。
 しかし、それでもやはり、気を付けるべきポイントは、存在します。筆者は、論文でも既にその点について考察しています。論文での考察をもとにして、これから幾つかのポイントをご紹介して行きましょう。

ブランデッド・コンテンツ制作のヒント

「ブランデッド・コンテンツ」と呼ばれるものの第一の特徴は、従来の広告の枠を越えていることに他なりません。だからこそ、従来の広告の作り方や常識とは、大きく異なるポイントが存在します。ここでは、従来の広告の考え方と対比させる形で、効果的な「ブランデッド・コンテンツ」制作のヒントについて、見て行きましょう。
 従来の広告では、「どのブランドが、何をメッセージしているのか、明確に伝わることが良い」とされて来ました。しかし、「ブランデッド・コンテンツ」では、「メッセージが明示的に伝わらない=広告らしくない」ことが、返ってプラスの要素となりえます
別の言い方をすると、いままではひとつの広告の中で、ブランドのメッセージとしてきちんと完結している必要があったのですが、「ブランデッド・コンテンツ」では、むしろ一見未完成の状態で消費者に手渡された方が効果的なケースが多いのです。この部分のアタマの切り替え、態度の切り替え、体質の切り替えみたいなことは意外と難しいので、あなたの広告でのキャリアが長ければ長いほど、注意が必要だと思います。

伝える視点と受け取ってもらう視点の違い

また、従来の広告では、複数のメディアを活用する場合、ひとつのビジュアル要素(One Look)とひとつのメッセージ(One Voice)が望ましいとされて来ました。いちばん単純なやり方で言えば、テレビCMも新聞広告も駅貼りポスターも、同じタレントの同じ笑顔があり、同じ コピーが同じ書体で書かれている、といったことです。
 それに対して「ブランデッド・コンテンツ」では、コンセプトあるいはメッセージの中身の統一は必要ですが、一方で接点(メディア)ごとに最適なコンテンツを作り出すことが必要だと考えられます。そして、接点ごとに最適なコンテンツを作り出すためには、はっきりした統一性はむしろマイナスとなるのです。
従来の広告では、いかに効果的にメッセージを消費者に伝えるかと考えて来ました。それに対して、「ブランデッド・コンテンツ」では、いかに効果的にメッセージを消費者に受け取ってもらえるかと考えます。 「ブランデッド・コンテンツ」の考え方では、コミュニケーション上、徹底的に受け手が優位だと捉えるわけです。言葉を変えれば、第2回目で触れたように、 情報の送り手がブランドをコントロールするというコミュニケーションの考え方ではなく、受け手がブランドをコントロールするという考え方に立っていると言 えるでしょう。

売上前年比9%アップを記録したブランデッド・コンテンツの成功事例

さて、今回も、具体的な事例をひとつ、ご紹介しましょう。2008年カンヌ国際広告祭フィルム部門グランプリ受賞作で、各方面で物議を醸し出した作品です。テレビCMとしても放映されましたが、充分に「ブランデッド・コンテンツ」と呼んで良い事例です。
「Cadbury's Gorilla Advert」You Tubeより 
それは、簡単に言ってしまうと、ゴリラがドラムを叩いているだけの90秒の動画で す。商品はキャドバリー・デイリーミルク(Cadbury Daily Milk)というチョコレート。長い伝統を誇る商品で、日本で言えば、明治ミルクチョコレートやロッテ・ガーナチョコレートのような存在だと思われます。 メッセージは一応明示されてはいるのですが、商品スローガンでもある一杯半たっぷりの楽しさ(a glass and a half full of joy)だけになります。分かったような、分からないような?そんな感じがしませんか。
 この商品スローガンが意味するのは、商品パッケージにも描かれているミルクのこと。一杯半たっぷりのミルクを使ったおいしいチョコレートだ、というメッセージのようです。
ゴリラが気持ちよさそうに、ドラムを叩いています。
この動画は、ドラマー兼シンガーとして有名なフィル・コリンズの名曲に乗って始まります。最初に「a glass and a half full production」の文字。商品スローガンをもじった架空の制作会社によるショートフィルムであるかのようなつくりになっているわけです。次に映し出 されるのは、ドラムセットに陣取ったゴリラ。瞑想するように、息を吸い込みます。曲が盛り上がり、ドラム演奏が始まるちょうどそのタイミングで、おもむろ にドラムを叩き出すゴリラ。カメラは、気持ちよさそうにドラムを叩くゴリラを捉えたままエンディングへ。商品スローガン「a glass and a half full of joy」とチョコレートの商品パッケージが映し出されて終了。全体で、全部で、これだけです。
ぬいぐるみのパロディー版、かわいいです。
ただこれだけの動画が、YouTubeやメーカーの自社ウエブサイトを中心に大きな人気を博し、またたくさんのパロディが登場することで話題化、商品の売上げ自体も、この手の定番商品としては異例の、前年比9%アップを記録しました。「ブランデッド・コンテンツ」の大成事例と呼べるでしょう。
 そして、この事例は、先ほど提示した「ブランデッド・コンテンツ」のポイントを、ことごとく満たしていることに、もう皆さんもお気づきのことと思います。
 3回にわたって、「ブランデッド・コンテンツ」についてお伝えしました。「ブランデッド・コンテンツ」の活用は、これからのマーケティング・コミュニケーションにとって、不可欠の要素だと思います。この連載が、皆さんの「ブランデッド・コンテンツ」の理解と制作のヒントに、少しでもなり得たことを切望しています。

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