2013年7月22日月曜日

2013年カンヌ広告祭に見るトレンド(後編)――デジタルメディアがブームの起爆剤になる

http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1307/19/news004.html



メディア特性の最大化

 カンヌライオンズの各部門構成をもう少し掘り下げてみよう。カンヌライオンズは19の部門から成り立っている。部門の大半が、クリエイターの専門領域ごとに分けられ、また、その領域はメディアと関連しているので、各部門をメディア別の部門と考えてもいい。カンヌ公式ページの記載順に専門領域を追ってみると、サイバー(インターネット)部門、デザイン部門、ダイレクトマーケティング部門、フィルム部門、フィルム・クラフト部門、モバイル部門、アウトドア部門、PR部門、プレス部門、プロモーション&アクティベーション部門、ラジオ部門となる。言い換えると、カンヌライオンズの各部門賞というのは、それぞれのメディアの特性を最大限に活用して効果をあげた広告作品に贈られる賞であるとも言える。オグルヴィ・アンド・メイザー・フランスが手掛けた、IBMの“Smart Ideas for Smarter Cities.(スマート・アイディア・フォー・スマート・シティ)”屋外広告キャンペーンは、アウトドア部門でグランプリを受賞した。
 現代アートのトレンドはシンプルなフォームに向かっている。フランスらしい中間色を基軸にした落ち着いた色合いは、現代アートと比べ遜色ないレベルだ。このような「芸術性」が、ブランドをさらに引き立たせる結果となっている。
 「解決策としてのアイディア創出力」も際立っている。IBMは2008年から「スマータープラネット」というビジョンを提唱しており、都市をよりよく、スマートにしていく「スマーターシティー」の提案活動を行っている。
 このブランドメッセージを市場に浸透させるべく、「IBMが提供する価値は、決して快適だとは言えない都会の生活をより快適にする=シェルター」という広告が制作された(スマートな都市)。
 そして、何よりもこの作品が評価されたのは「メディア特性の最大化」だ。屋外広告がテレビや新聞、インターネットの広告と大きく異なる点は、3次元の空間で人が実際に接することができるメディアという点であろう。この作品は、この特徴を最大限に活用し、IBMのブランドポジションを、都会の中のシェルターという卓越したアイデアで表現した。「芸術性」と「解決策としてのアイディア創出力」、そして「メディア特性の最大化」という3拍子が揃った点で、アウトドア部門の最優秀賞に選ばれたと考えられる。
 サイバー部門に目を向けてみよう。
 「メディア特性の最大化」という観点からみるサイバー部門受賞作品の共通点は、「365コネクト」だ。
 テレビ等のトラディショナル媒体と比較し、デジタル媒体が明らかに違う点とは、ブランドとオーディエンスが、時空を超えて双方向にコミュニケーションができるという点、つまり、「365コネクト」だ。さらにオーディエンス側も情報発信をする。ブランドとオーディエンスとの双方向性コミュニケーションがサイバーメディアの最大の特徴である。サイバー部門の受賞作品を見てみよう。
 マクドナルドがカナダで展開した「OUR FOOD YOUR QUESTIONS(あなたの質問にお答えします)」キャンペーンはインターネットの双方向性のメリットを最大限に活用している。
 マクドナルドは商品の説明、特にお客さまが疑問に感じている点についてはきちんと説明する必要があった。そこで、消費者からの質問をWebサイトで受け、それに対して、実際の取材を交えた動画などを織り交ぜながら、丁寧に説明した。商品の質問に対する受け答え集をまとめるだけではなく、インターネットの双方向性を活かした「365コネクト」という特徴を最大限に活かし、このQ&Aをキャンペーンとして展開、ブランディング手法としても成功できる点を証明した。 
 ノルウェーに拠点を置くシューズ・メーカーGeoxの「THE ULTIMATE WATER PROOF TEST(ウルトラ防水テスト)」はまさに、インターネットの「365コネクト」の特徴を活かした仕組みである。
 Geoxは、主に都市での利用を想定した靴を作っているシューズメーカーだ。今回発売された商品は完全防水機能、通気性に優れている。この「完全防水機能」と「優れた通気性」を併せ持ったシューズの価値を市場に浸透させるべく、ウルトラ防水テストキャンペーンを打ち出した
 Facbookのファンから数名を選抜し、「地球で最も雨の多い場所」として知られるインド北東部のメーガーラヤ州チェラプンジ地区でのハイキングツアーを実施した(1994年に近隣のマウシンラムが降雨量記録を塗り替えた)。その様子はライブ中継され、ネット上で話題となった。結果、同社のブランドメッセージを市場に浸透させ、かつ、大きく売り上げに貢献することとなった。 
 キャンペーンの展開から1週間でのべ70万人が同社のサイトを訪れ、12万人の新しいFacebookファンを獲得した。録画版として配信された動画は、YouTubeで110万回の閲覧を記録。わずか2カ月間で秋/冬のコレクションを全て売り切っている。 
 「365コネクト」を革新的な技術でリードした作品も紹介しよう。米国の高級自動車メーカー、リンカーンの「HELLO AGAIN」キャンペーンだ。
 リンカーンはブランドイメージの革新を必要としていた。年配の世代が乗る車としてのイメージが定着し、最も車を購入する層のブランドへの親和性が低くなっていたのである。「リンカーンは再びカッコよくなれるか?」のスローガンのもと、「HELLO AGAIN」キャンペーンを担当したのはニューヨークのHUDSON ROUGE (ハドソン・ルージュ)だ。
 車自体のデザインを変えることはできない。ロックバンドのコンサートをサイバー上で開催し、革新的な技術によって「慣れ親しんだものを新しい見方で見てみよう(そうすれば、今まで気が付かなかった新しい発見があるかもしれない。それは素晴らしい価値を持つものかもしれない)」というメッセージを送ることに成功した。
 従来のミュージック動画視聴は、視聴者が固定された場所から、収録されたサウンドを聴くものだった。が、リンカ―ンが主催したサイバーコンサートは、360度カメラを備え、視聴者が好きな視点からアーティストのパフォーマンスを楽しむことができる。そして、視聴者が選択した視点のサウンドを忠実に再現する仕組みを提供した。慣れ親しんできたネットでのミュージック動画が、革新的な技術の導入により、全く新しい体験として視聴者に届けられた。
 インターネットの技術はまだ発展途上の段階であり、日々新しい技術が生まれている。双方向性を支える技術をより革新的に利用した広告作品を積極的に評価をする文化がカンヌライオンズにはある。
 サイバー部門の金賞入賞作品の中には、技術的には目新しくないものの、作品の魅力が原動力となり、インターネットで拡散し、予期しなかった良い結果、つまりサイバー上でのムーブメントを起こした作品がある。今回PR部門で最優秀賞のほか、数々の賞で入賞し、カンヌライオンズでブームとなった地下鉄の自殺防止キャンペーン広告「DUMB WAYS TO DIE(間抜けな死に方)」をご紹介しよう。
 この作品は、年々増加する地下鉄での人身事故を防ごうという目的で制作された。取り組むテーマとは対照的なポップなトーン&マナー、誰にでも分かりやすい内容と軽快な音楽がインターネットで爆発的な話題を呼んだ。
 公共機関のキャンペーンとして、広告史上最もシェアされた作品となり、獲得したシェア数は300万。ターゲットの46%がこのキャンペーンを認知しており、当初目標としていた25%を大幅に上回る。ビデオ再生回数は4400万回。マス広告への露出は日本円に換算すると(1USドル=100円)60億円分になる。
 最も重要な地下鉄での死亡事故軽減率は、当初予定した10%を大きく超え、21%となった。このヒットを受け、スマートフォンでのゲームアプリの提供や地下鉄構内での掲示期間の延長など、広告主側による積極的なコンテンツの露出策もとられたが、それ以上に、このミュージックビデオに触発された視聴者がこの音楽を口ずさみ、演奏し、それをインターネット上で拡散したことがこのキャンペーンをさらなる成功へと導いた。
 今年のサイバー部門で最優秀賞を受賞した2作品は、コンテンツの魅力が人を誘い、大きなうねりとなってブームを起こした。共通して見受けられるのはマーケター側、広告制作者側が仕掛けたという点だった。
 最後に、サイバー部門の最優秀賞で、ブランデッドコンテンツ&エンターテイメント賞にも輝いた作品をご紹介しよう。
 インテルと東芝のTOSHIBAラップトップ(インテル入ってる)「THE BEAUTY INSIDE (ザ・ビューティ・インサイド)」キャンペーンだ。
 ブランドの目的はインテルのコピーである、「インテル入っている」のブランドイメージの定着とブランド強化だ。
 ブランドメッセージである「インテル入っている」を市場に認知させるべく、アレックスという登場人物を創作し、インターネット上でファンとのコミュニケーションを開始した。このアレックスには他の人とは違った特徴がある。毎朝起きると、前日とは全く違う容姿の人間になってしまうことだ。これは、中身(インサイド)は変わらないという、インテルのパソコンにおける商品的立ち位置を、主人公に重ねあわせたものと理解できる。アレックスという特別な特徴を備えた人物がある日、1人の女性に恋をした、というところから、このキャンペーンは始まる。
 イントロの動画は映画のワンシーンのように美しく、陰影描写が鮮やかで、人間の本質を鮮明に描き出している。それは、「人間の真価は外見ではなく、内面性で測られるべき」という普遍的な価値観に対して、強く訴えかけるメッセージである。
 「人間の真価は外見ではなく、内面性で測られるべきだ」というメッセージに共感した視聴者がデジタル上でつながった。そして、誰もがこのアレックスになり、物語の一役を担うことができた。視聴者は自らアレックスを演じ、テキストで、あるいは動画で投稿したのだ。動画コンテンツは約7000万ビューを獲得し、Facebookでは約10万人の新しいファン、1350万のリアクションを獲得、そしてインテルの売り上げは前年比率360%を達成した。
 以上、今回はカンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル受賞作品に見る広告のトレンドと今後の予想を考察した。広告の目的は広告主のビジネス課題をコミュニケーションで解決することであり、決して受賞が目的ではない。しかし、カンヌライオンズは、広告主のビジネス課題を解決する使命を負った広告制作者たちが主催している。評価基準を(時代と共に変化する)広告のトレンドに合わせて柔軟に変えながら発展してきた由緒あるコンペである。カンヌライオンズの受賞作品は、優れた広告と同義に捉えても差し支えないはずだ。
 とすれば、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルが評価する「クリエイティビティ」「創造性」「独自性」と並び、「芸術性」「解決策としてのアイディア創出力」そして、「メディア特性の最大化」は、広告を発注される側の方々にとっても、チェックポイントとして、ご参考にしていただけるポイントではないだろうか。
 デジタルというメディアは年々存在感を増し、今では最も重要なメディアであると言っても差し支えない状況が、今年の受賞作品から読み取れる。今後はデジタルの最大の特徴である「365コネクト」という要素を十分に発揮できるような仕組み作りという点が、デジタルの領域だけでなく、全ての広告宣伝活動においてキーとなってくるだろう。

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