2013年7月9日火曜日

消費者は広告を無視することで、ブランドをコントロールする力を得た~「ブランデッド・コンテンツ」が注目される背景

 http://markezine.jp/article/detail/17857

エージェンシー・オブ・ザ・イヤーに選出された「コンシューマー」

アメリカの有名な広告業界誌の一つに 「Advertising Age」があります。この業界誌では、毎年、前年に一番活躍した広告代理店を“エージェンシー・オブ・ザ・イヤー”として選出、表彰しています。JWT、 BBDO、DDB、ワイデン&ケネディなどと言った有名広告代理店が、その活躍具合を競うわけです。
しかし、この年、2006年のエージェンシー・オブ・ザ・イヤーは、多くの人に衝撃を与えました。選ばれたのは、どこの広告代理店でもなく、“コンシューマー(The consumer)”だったのです。これは、いったい何を意味しているのでしょうか?実は、こういった動きが、最近のブランデッド・コンテンツの注目につながっているのです。
 この年あたりから、消費者自らが創り手/送り手となるCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア)やUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)の台頭が大きな話題となっていました。
 受賞理由の中でも、「マーケティング界のリーダーたちは、コントロールすることをあきらめ、いまやコンシューマーたちが彼らのブランドをコントロールしていることを受け入れている」と述べられています。

広告を無視することで、消費者はブランドをコントロールする力を得た

では、なぜ、「受け手がブランドをコントロール」するようになったのでしょうか?それは、インターネットの発展、それに続くソーシャル・メディアの勃興、進展するモバイル・シフトによる、消費者やコミュニケーションの変化の影響に他なりません。そして、その影響は大きく分けて、2つの点が考えらます。
 ひとつは、消費者が受け取る情報量の爆発的増大(量的側面)で、もうひとつは、ブランド・メッセージと消費者の関わり方の特性(質的側面)です。
  量的変化についてよく引き合いに出されるのは、総務省による「情報流通センサス調査」です。例えば平成17年度の調査では、この経緯を“情報爆発”と呼 び、量的変化の甚大さについて述べています。この調査によると、1995年に比べると10年後の2005年には、消費者を取り巻く情報量(選択可能情報 量)が実に410倍に増加している、というのです。そして、実際に利用されている情報量(消費情報量)も13倍に増加しています。
しかし、410倍と13倍という差を見る時、そこには「無視される情報量の爆発的な増加」という状況が見てとれます。昔から広告は、トイレットタイムなど と言われ歓迎されない部分がありましたが、この“情報爆発”を受けて、さらに積極的に広告を避けようとする「Ad Avoidance(アド・アボイダンス)」という傾向に拍車がかかっています。そうなると、“従来型の広告”は無視されるリスクが、格段に高まっていると考えられるわけです。

コンテンツを見るか否か、それは消費者が決める

もうひとつは、この時代の、ブランド・メッセージと消費者の関わり方の変化(質的側面)です。
 たとえば、自社Webサイト上のコンテンツと、従来のいわゆる広告との違いについて、考えてみましょう。自社Webサイトの、メディアとしての特徴は、どんなことでしょうか?
 メディアとしての自社Webサイトは、1点を除いては、ブランド・メッセージを伝えるものとして完璧な媒体です。そこには、時間的空間的制約はなく、制作費を除けば、媒体費の制約もありません。では、完璧ではないただ1点とは、何でしょう?それは、たとえどれだけ有意義な情報であろうとも、誰も消費者まで運んでくれない、ということです。テレビやラジオの電波のように、もしくは新聞の配達員のように、誰も家庭まで届けてくれません。
Webサイトを訪れてそのコンテンツを見るかどうかは、消費者の手にまさしく握られています。自らクリックしなければ、彼らはけっしてやって来てくれません。新聞広告・雑誌広告やテレビCM・ラジオCMは、広告が自然に目に入ってくるメディアです。それに対して自社Webサイトは(そして多くのネット上のコンテンツは)、「見に来てもらう」メディアです。

ブランド・メッセージはコンテンツにならざるを得ない

さらに、従来の広告メディアと自社Webサイトが、決定的に異なる点があります。人々は、有用だったり楽しませてくれたりする番組や記事を見るために、テレビを見たり新聞を読みます。広告はメディア費を払って、そこに載せてもらう(便乗させてもらう)わけです。
ところが、自社Webサイトには、魅力的な番組や記事があらかじめ存在しているわけではありません。そこに置かれているコンテンツ自身に魅力がなければ、消費者はクリックを繰り返し、何かを打ち込むという面倒なことをしてまで、わざわざ「見に来て」は、くれません。
 だから、自社Webサイトなどネット上を主な舞台とするブランド・メッセージは、テレビ番組や新聞記事と同じ意味合いでの“コンテンツ”にならざるを得ないのです。ここに、ブランデッド・コンテンツが隆盛する背景があります。
 

消費者がわざわざ見に来るコンテンツとは?

さて、少し理屈っぽい話が続いてしまいました。せっかくなので、ここで、僕が大好きな、そして、ブランデッド・コンテンツの草分けと言える名作を、ご紹介しましょう。
坂をころげ落ちる、数えきれないほどのスーパーボール(小さな弾むカラーのボール)。時にアップになり、時にスローになり、門柱のうしろに隠れる少年や、 倒れるゴミ箱、排水口から飛び出るカエル、道路を埋め尽くすスーパーボールなど、一遍の映像詩とも言えるようなビジュアルが、叙情的な歌とともに映し出さ れます。メッセージは、「他のどこにもない色(Colour like no other)」。ソニーUKの大画面テレビ、ブラビア(BRAVIA)のテレビCMです。
このテレビCM「弾むボール(Bouncy Balls)」は、2006年のカンヌ国際広告祭フィルム部門金賞受賞。僕から見ると、ブランデッド・コンテンツの草分け的な存在です。まず、コンテンツとしての魅力に溢れています。テレビCMとして放映しただけではなく、自社Webサイトでも積極的に公開しています。
  そして、撮影手法についても、CGを使っているのか、まさか本当にボールを落としたわけではないよね、などの噂を醸成しました。メイキングも公開し、そこ には、何十万個というスーパーボールをサンフランシスコの坂にバズーカ砲のようなもので落とし、機動隊が持つような透明な盾で自らの身を守りながら撮影に 臨むクルーが映し出されています。
何度もできる仕掛けではありません。一度きりの撮影チャンス。撮影隊のドキドキまで伝わってくるようです。撮影の成功に、歓声をあげる撮影隊。
 噂が噂を呼び、ユーチューブでも、当時の作品としては記録的な視聴回数を達成しています。これだけの魅力のあるコンテンツであれば、人々は、わざわざ「見に来る」のです。当時、そんなことに気付かされた1本でした。

一大勢力となりつつあるブランデッド・コンテンツ的なもの

こんな風に、インターネットの発達、さらにはソーシャル・メディアやモバイル・シフトなどの要素が加わって、ブランデッド・コンテンツ的な作品/施策は、広告界/マーケティング界において、一大勢力とも言える存在になっていきます。
 次回は、ブランデッド・コンテンツの特徴を、従来の広告との相違に注目してひも解いていきたいと思います。また、そうすることで、「有効なブランデッド・コンテンツ制作のためのヒント」にまで迫ってみたいとも考えています。こちらも、どうぞご期待ください。
 

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