2013年7月10日水曜日

イチローの現在地、そして今後の立ち位置 スポーツライター 丹羽政善

6日、オールスターゲーム(16日・ニューヨーク、シティ・フィールド)の出場選手が発表されたが、今年もイチローの名前はなかった。
今年のオールスターゲーム出場選手に選ばれたダルビッシュ(左)。イチローは残念ながら選ばれなかった=共同
今年のオールスターゲーム出場選手に選ばれたダルビッシュ(左)。イチローは残念ながら選ばれなかった=共同
 2001年から10年連続で出場し、2000年代のオールスターの記憶はすべてイチローとつながっているが、もう、選ばれなくなって3年がたつ。
 いくらかこれまでの実績があったとしても、成績が伴わなければやはり無理ということか。
今年もオールスターに選ばれず
 オールスターのファン投票が締め切られたのは4日。その日の試合前の時点で、イチローの成績は打率2割7分4厘、出塁率3割1分3厘、5本塁打、19打点、31得点だった。
 ア・リーグの外野手の中で見ると、打率は12位、出塁率は25位、本塁打は38位タイ、打点は43位タイ、得点は32位タイ。また、代替選手と比べて、どれだけ勝利に貢献したかを示すWARという指標も1.3で20位と低かった。
 例年、オールスターの外野手枠は、6から8。
 本塁打や打点が低くとも、それはイチローを計る物差しとは言えないが、イチローがアピールすべき打率、出塁率、得点がこの数字では、ファンに訴えるものが少ない。
評価、ヤンキースの条件で明確に
 様々なデータを公表し、さらにはそれを詳しく分析することで知られる「fangraphs .com」が、月に一度、その選手の成績を多角的に評価し、部門ごとのランキングを発表している。
 今年最初に発表された5月のア・リーグ外野手部門のランキングは7段階に分けられ、イチローは5番目だった。6月は8グループ中7番目。そして、最新の7月は、8つのグループのうち、最低ランクだった。
 やや極端にも映るが、今の成績ではさすがに、上位グループに入ることはないだろう。ちなみに、全3回で3回とも1番目のグループに入ったのはエンゼルスのマイク・トラウトだけである。トラウトはア・リーグの外野手のうち、打率、WARでトップだ(5日現在)。

かくも低く見られているイチローの現在地そのものは、昨年のトレードのときにヤンキースが出した条件が明らかになったとき、明確に知れた。
6月25日のレンジャーズ戦でサヨナラ本塁打を放ち、ナインの祝福に笑顔を見せるイチロー=共同
6月25日のレンジャーズ戦でサヨナラ本塁打を放ち、ナインの祝福に笑顔を見せるイチロー=共同
打率の低さ、ニュースにならず
 「打順は下位、相手先発投手が左の場合は、スタメンを外れることもある」
 マリナーズではそれまでの功績もあって上位を打ったが、それが他チームによる現実的な評価だったのだ。
 移籍後、3割2分2厘という打率を残して厳しい声にあらがったものの、今年、スロースタートを切ると、取り戻したはずの何かを失った。
 少し寂しいのは、イチローの不振を大きく記事にしたり、その原因を探ったりするような動きがないことか。初めて打率が3割を切った11年は、それこそ多角的に分析され、その原因を究明する動きがあった。
 残念ながら今、そういう記事は見当たらない。もう、イチローの打率が低いことなどニュースではない。むしろ、打てば話題になる。これまでとは逆になっている。
「同じように準備して臨むだけ」
 ただ、周辺の状況が変化しても、変わらなかったのは、イチローの試合へのアプローチだ。
 6月19日のドジャース戦で本塁打を放ち、さらに25日のレンジャーズ戦でサヨナラ本塁打、その翌日もホームランを記録すると、米メディアから散々聞かれたそうである。「これまでと何を変えたのか?」と。
 ただその時、イチローはこう繰り返したそうだ。
 「何も変えてません」
 どこかふに落ちない表情を見せる米メディアに向かって、さらにこう説明したそうである。
 「もしこれが100メートル競争で、毎日同じ練習をしてもタイムが伸びないのなら何かを変える必要があるでしょう。でもこれは、野球なんです。違うんです」
 「知りたがるのは理解できますけど、毎日、違う投手と対戦して、キャッチャーが毎日、違う攻めをしてくる。そうなると、自分にできるのは、同じように準備をして、試合に臨むことだけです」

もちろん、ひとつに固執するわけでもない。かつては試合前の早い時間にグラウンドに現れて一人でストレッチをしていたが、それはもうやめて久しい。キャンプでの調整も、毎年違う。
1日のツインズ戦の8回、バント安打を決めるイチロー=共同
1日のツインズ戦の8回、バント安打を決めるイチロー=共同
強みは状態に応じた柔軟さ
 その時、その時の状態で、柔軟に対応できる。そこにイチローの強みがある。
 結果が出なくても、試合前の準備への向き合い方は変わらない。そうしているうちに結果が伴ってきた。
 6月25日から7月4日までの10試合では、39打数14安打(3割5分9厘)、2本塁打、6打点、8得点。これだけ打ったとしても、3年前までのイチローなら、当たり前のレベルだが、それ以上に印象に残る1本が多い。
 レンジャーズ戦でのサヨナラ本塁打に続き、7月1日のツインズ戦では1点を追う8回、無死二塁で打席に入ると、絶妙なバント安打を決め、逆転につなげた。
 3日のツインズ戦では、2点ビハインドの6回、無死一塁の場面で二塁打を放ってチャンスを広げると、ヤンキースはこの回、3点を奪って逆転。ここでもイチローのヒットが大きな役割を果たしている。
 イチローといえばこれまで、今日も2本打った、3本打った、というとらえられ方をすることが多かった。対照的にこのところは、そのヒットがどんな意味を持ったか、という報じられ方をしている。
 言ってみればそれが、イチローの現在地か。
ファンの記憶に何を残すか
 6日現在、81試合に出場して、81安打。これでは今年も200安打には届かない可能性が高い。首位打者のタイトルも、争いそのものから遠ざかって久しい。
 その日仮に、5打数1安打ならば、打率は2割だ。ただ、その1本にどう価値を持たせられるか。
 冒頭で紹介した数字だけで判断すれば、彼の評価は決して高くない。しかし、数字には表れにくいディフェンス、犠打、走塁でどう存在感を示せるか。さらに言えば、圧倒的な数字を残すというより、ファンの記憶に何を残すか。
 求められるものが変わり、勝負するところが変わる中、今後イチローが何を見いだすのか興味深い。

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