2013年1月8日火曜日

「ゴールドラッシュ」終わる日本のソーシャルゲーム市場 ゲームジャーナリスト 新 清士

■iPhoneとApp Store、Googleとandroid、AmazonとKindleといった、強力なビジネスモデルとは違いデバイスを限定しない。デバイスをもたいないだけに、戦略も違い面白い。市場にのっかりやすい半面、廃れるのも早いのだろう。。。アプリ、コンテンツでの勝負は、これらゲーム同様、短期的にリリースを繰り返すことが、ゲームのビジネスモデルと考えると、開発側が疲弊しそうだ。。。 (担当:i)

 

「ゴールドラッシュ」終わる日本のソーシャルゲーム市場 

ゲームジャーナリスト 新 清士

 

 

ソーシャルゲーム市場はこの一年で様相が一変した。フィーチャーフォン中心だった市場は急激にスマートフォン(スマホ)にシフト。主にスマホ向けに提供されるネイティブアプリと呼ばれるゲーム中心へと向かうことが決定的になった。
 これは、今まで主流だったHTMLベースで開発するゲームに比べて、求められる技術が格段に高度化することを意味する。今のソーシャルゲームの開発水準は家庭用ゲーム機向けゲームとあまり差がなくなりつつある。
■「ガチャ」の偶然性を好む日本人
「あやかし陰陽録」アンドロイド版ページ
「あやかし陰陽録」アンドロイド版ページ
 新しいイノベーションが登場したとき、その恩恵を得て少人数の体制でも企業が急成長できる期間は限られている。とりわけ現在のコンピューター環境は変化するペースが加速しており、製造業中心だった20世紀より企業の急成長期間は短くなっている。
 数人が携わるだけの低予算の開発体制で高収益を容易に得ることができたソーシャルゲーム「ゴールドラッシュの時代」は、同ゲームの登場から5年が経過して終わりが明らかになってきた。こうした環境のなかで打ち勝っていくために、ソーシャルゲーム企業には人材や開発スピードのみならず、資本力が求められる時代になろうとしている。
 日本のソーシャルゲームの成長には、世界にない特異な部分がある。「ガチャ」と呼ばれるクジを利用した仕組みだ。このブームが昨年と今年の市場成長をけん引したといってもいいだろう。1回300円と高い価格設定にもかかわらず、なぜ日本人はガチャに熱中するのだろうか。
 11月21日に開かれた東京大学のコンピュータ産業研究会で、講演したジンガジャパン社長CEOの松原健二氏が興味深いことを述べていた。ジンガジャパンは世界最大のソーシャルゲーム会社である米ジンガの日本での開発スタジオで、日本で開発したカードバトルゲーム「あやかし陰陽録」を6月からスマホ向けに提供している。
ジンガジャパン社長CEOの松原健二氏
ジンガジャパン社長CEOの松原健二氏
 このゲームで、開発チームはガチャシステムを超える課金方法を探るため、様々な課金方法をゲームデザインに盛り込んで実験してみたという。しかし、様々な実験の後、ガチャの仕組みを入れると売り上げが跳ね上がったという。開発チームのメンバーたちが「これまでの工夫はなんだったのか」と拍子抜けするほどの勢いだった。やがてバーチャルなカードを獲得するために、1回300円のガチャを300回もするユーザーまで登場した。
 松原氏も「ガチャに代わるよい方法は見つからなかった。ユーザーにお金を払っていただくにはガチャがいい」と結論づけていた。このカードバトルゲームはジンガジャパンが開発したゲームで最もヒットしている。
 松原氏は日本人がガチャの仕組みを好む理由として、国民性が深く関係していると考えている。日本を含めてアジアの人々は「偶然性」に対して楽しみを見いだす傾向があるという。例えば、おみくじ、福袋、福引といった形で一般の人々にも浸透している。

日本大学経済学部の佐々木一彰専任講師は、日本人は「イリュージョンスキル」を感じやすい傾向があると指摘する。これは「努力によって運を引き寄せることができる」という錯覚のことをいう。例えばサイコロを振る場合、自分の思いを込めて振れば、狙っている目が出やすくなると信じているというものだ。現実には、サイコロの特定の目が出る確率は人間の思いに関係なく6分の1なのにもかかわらずだ。「自分は優れたカードを引き当てる自信がある」という感覚が、ガチャに熱中させやすい傾向を生みだしているのかもしれない。
 欧米人はこうした偶然性に楽しみを見いだす文化を持っていない。欧米では「ガチャはゼロではないにせよ、売り上げはあまり伸びない」(松原氏)。欧米圏の人々はゲームでアイテムを購入するとしても、それにより得られる効果が明確でないと、出費しない傾向があるという。ジンガの本社がある米国でも、ガチャがなぜ面白いのかはなかなか理解されないようだ。
 ジンガジャパンは21日、来年1月末で解散すると発表した。すでに「あやかし陰陽録」は国際展開されて収益が出ているにもかかわらず、米本社の評価は必ずしも高くなかった。一度はサービス中止も検討されたといい、最終的に中国のチームが継続的に運用することが決まった。
 こうしたことから、日本の携帯電話を中心としたソーシャルゲーム市場の成長には、日本人の国民性が深くかかわっていると考えていいのかもしれない。
■「半年後の未来は予測できない」
ポケラボ公式ページ
ポケラボ公式ページ
 一方、ソーシャルゲームで成長してきた企業も、今の変化に対応すべく必死だ。そこにも日本的な特性が顔を出す。
 今月12日に東京で開催されたセミナー「ソーシャルトップランナー」で、ポケラボの創業者でシニアプランナーの後藤貴史氏が同社の現在の戦略を紹介した。07年創業の同社はソーシャルゲームブームに乗り急成長した新興企業で、10月に138億円でグリーに買収された。最近はネイティブアプリに注力し、セガと共同開発した「運命のグランバトル」や「三国インフィニティ」といったカードバトルゲームがヒットしている。
 現在の戦略の大前提として後藤氏は「1.5カ月に1タイトルリリースを目標にしている」という。1タイトルで勝負するのではなく、多数のアプリを早期に投入して「アプリ群で勝つという戦略を掲げている」と述べた。
 同社がスピードを重視した開発にこだわっているのには理由がある。1年前にソーシャルゲーム市場が現在のような状況になることが予測できなかったのに、「半年後の未来を予測できますか」(後藤氏)と考えているからだ。

後藤氏は市場を予測できる限界点は「3カ月後」までとしている。その間にできることを考えると、開発スピードの最大化を行うしか手がないというわけだ。そのため明確な哲学を持ち、「自分たちで確実な未来をどうつくりあげるのかが大事」といった姿勢でゲームを開発するのでは、目先の変化に適応できないと説く。
後藤氏は「市場を予測できる限界点は3カ月後まで」と主張した(講演スライドより)
後藤氏は「市場を予測できる限界点は3カ月後まで」と主張した(講演スライドより)
 ガチャで成功すれば、ガチャを使った自社内のプログラムを再利用し、グラフィックスを変更したりして別のゲームに展開する。こうしたやり方は、現在のソーシャルゲーム会社が成功を継続するための基本戦略だ。そうでなければこれだけのペースで新作タイトルの投入は難しい。
 後藤氏は、ソーシャルゲームの人気ゲームは4~6カ月もすると次の世代に代わっていくだろうとみている。そうしたペースでの急激な進化はこの数年間止まっていないからだ。ポケラボで現在ヒットしているタイトルもすぐに陳腐化する可能性があるとも認めている。ただし、この2年余り、同社はどのゲームでもガチャを採用している。
 興味深いのは、後藤氏が「自分にとって面白いものをつくろうと思っていない。ユーザーにとって面白いものをと思っている」と言い切った点だ。ユーザーが喜んでいるかどうかは、ユーザーのログデータを解析するゲームシステムに沿った独自の計量基準「アクションKPI(業績評価指標)」を分析してつかみ、その結果に基づいてゲームの改良を続けるという、ソーシャルゲームの運営では一般的な方法を徹底するしかないと考えているようだ。
■資本力が勝負の時代に
 一方で、後藤氏は現状のソーシャルゲームの限界も感じている。
ポケラボ創業者の後藤貴史氏
ポケラボ創業者の後藤貴史氏
 現在、無料のソーシャルゲームは多くのユーザーに参加してもらうことは難しくない。しかし、「長期間にわたってユーザーに課金しながら遊び続けてもらうことは難しい」(後藤氏)という。ユーザーの毎日の継続率が高いゲームは、1人当たりの月次の課金金額は低い傾向がある。課金金額を高めるようなゲームにすることは可能だが、そうすると継続率は低下する。後藤氏は「今のゲームモデルでは、中長期に幅広いユーザーに満足していただくことは非常に難しい。瞬間の楽しさだけではない価値あるサービスをつくりたい」と述べた。
 これは多くのソーシャルゲーム会社が望んでいる方向だが、ガチャに依存する以外の収益方法が見えていない現状では、答えがまだ出ていない難しい課題でもある。
 ソーシャルゲームが資本力の時代に入ろうとしていることを示す象徴的な出来事も起きている。昨年の今ごろはソーシャルゲームのテレビCMが大量に流れていた。そうした広告戦略は今年の年末は大きく変化している。


 今、スマホのブラウザーで何かのページを開くと、ソーシャルゲームへと誘引する大量のバナー広告が目に付く。特に、ディー・エヌ・エーの積極的な展開が目立つ。業界関係者によると、ユーザーがゲームをダウンロードして起動するまでを「ユーザーの獲得単価」と呼ぶが、その価格が急上昇しているという。同単価は1人当たり実に数千円まで跳ね上がっており、ゲームによっては1万円近い獲得単価が投入されているようだ。ユーザーの獲得コストは米国でも1人当たり約2ドルまで上昇しているとみられているが、それと比較すると、日本のソーシャルゲームの獲得単価は飛び抜けている。
■市場の成長支えるユーザーの支持
 日本ではゲームの開発費を広告宣伝費がはるかに上回っているといわれる。広告を大量に投下して無料で遊ぶユーザーを集め、その母数が増大すれば、課金ユーザーの数も増える。それにより広告費は回収できるというもくろみだ。
 しかし結局、ガチャを使って多額の課金を受け入れるユーザーをどれだけ得られるのかが収益を左右するという現状からは抜け出せないままだ。後藤氏が期待しているような長期間楽しんでもらえる環境を今すぐに生み出すことは難しいだろう。
 日本でソーシャルゲーム市場が誕生してまだ5年余り。ただ、市場での勝ち負けは明確になり、新しい企業の偶発的なヒットが起きる可能性は極めて小さくなろうとしている。
 しかし、この現象は過去に新型ゲーム機が登場し、イノベーションが引き起こされたときにも繰り返されてきたことだ。1983年に任天堂から「ファミリーコンピュータ(ファミコン)」が登場した直後は、数人でゲームを開発して100万本もの大ヒットを生み出すことができた。しかし、90年に表現能力が向上した「スーパーファミコン」が登場すると、そんな少人数で作ったゲームが大ヒットする可能性はどんどん小さくなっていった。
 今後、ソーシャルゲームの開発費や宣伝費は収益が上げられる限界まで上昇していくだろう。ただ、はっきりしているのは、ガチャのシステムに課題が存在しようとも、ソーシャルゲームが進化し市場が成長しているのはユーザーの支持が続いているからこそ。それは紛れもない事実だ。
新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部および環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。グリーが設置した外部有識者が議論する「利用環境の向上に関するアドバイザリーボード」にもメンバーとして参加している。

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