2013年1月9日水曜日

リアルいいね!でネットいいね!が10倍のケースも :O2Oを加速するNFCの先進事例と新ビジネスの可能性

■最近長文記事が多いのですが、いい記事だったのでご紹介いたします。(担当:i)


リアルいいね!でネットいいね!が10倍のケースも

NRI 藤吉栄二氏:O2Oを加速するNFCの先進事例と新ビジネスの可能性

  

米iSuppliの調査によれば、2015年頃には全世界の携帯電話の3割に「NFC(Near Field Communication:近距離無線通信規格)」が搭載されるという。急速に広がりを見せるNFCだが、特にネット(オンライン)とリアル(オフライン)を結びつける「O2O(Online to Offline)」の分野でのマーケティング活用に期待が寄せられている。今後、NFCはどのようなビジネスを生み出すのか?野村総合研究所 イノベーション開発部 上級研究員の藤吉栄二氏が、NFCの基本機能をはじめ、普及の課題や業界ごとの適用領域、今後の可能性について解説。また、自動車大手のBMWや化粧品のREVLON(レブロン)、米Social Passportなど、海外企業の幅広い先進活用事例について紹介した。
執筆:井上 猛雄

2012年は、日本におけるNFCの胎動の年

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野村総合研究所
イノベーション開発部
上級研究員
藤吉栄二氏
2000年代から、RFIDや非接触ICカードのような近距離無線通信技術が普及しはじめた。これらは、利用者やサービスごとに異なる仕様の規格であった。それがNFCの時代になり、どのように変わったのだろう?野村総合研究所の藤吉栄二氏は「NFCには、狭義(無線通信の部分)と広義の(推進団体が策定する仕様)において2つの定義がある」と説明する。 

 まず狭義の意味では「NFCは国際標準規格として承認された、13.56MHzの近距離無線通信技術である」ということだ。一方、広義の意味は、狭義のNFCを用いたシステム構築に必要な機能や仕組み全般を示すものであり、「NFCフォーラムなどの推進団体が策定するプロトコルやデータフォーマットも含めた仕様」ということになる。 

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狭義のNFCと広義のNFC
(出典:野村総合研究所)

NFCは、技術的な黎明期を経て、いよいよビジネスへの検討段階に入ったといえる。この9月にはJALが“おサイフケータイ/NFC”に対応した「JALタッチ&ゴー」をスタートし、また10月にはNTTドコモとマスターカードが世界41ヵ国でNFC決済サービスに向けた業務提携に合意した。 

 藤吉氏は「2012年は、日本におけるNFCの胎動の年になるだろう。この動きは日本に限ったものではない。世界では2015年までに、30%以上の携帯電話にNFCが搭載され、決済や交通乗車券、電子チケット、クーポン、アクセスコントロールなど、従来のおサイフケータイのようなサービスが可能になる」と説明する。 

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NFC搭載携帯の割合
(出典:野村総合研究所)

 今後は、世界の主要スマートフォンにもNFCが搭載される予定で、ガートナーは2015年に全世界のスマートフォンの50%程度がNFC搭載機になると報告している。そしてNFC搭載スマートフォンでは、SNSとの連携サービスや、M2Mを利用した機器コントロールなども大いに期待されるところだ。 

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世界のスマートフォン普及率
(出典:野村総合研究所)

 実際の企業利用も広がっている。藤吉氏は、NFC搭載スマートフォンによる最新の活用事例として、期間限定のカフェ「REVLON Beauty & Love Museum」で実施されたイベントについて紹介した。この来場者は、会場で配布されたNFCタグ内蔵リストバンドを装着する。もし、お気に入りの展示物があれば、その横にあるNFCスマートフォンにリストバンドをかざす。するとFacebook上のREVLONページに「いいね!」がカウントされ、個人ページにもコメントが投稿される仕組みだ。これにより、通常よりも「いいね」が10倍も増え、Facebookのリーチも23万人弱まで伸びたという。 

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化粧品メーカー「REVLON(レブロン)」の事例
(出典:野村総合研究所)

 もう1つの事例は、NFCを利用した海外での決済サービスだ。米国、英国、オーストラリア、シンガポール、ポーランドなど、全世界でサービスが拡大しているという。 

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海外のNFCを利用した決済サービス
(出典:野村総合研究所)

 ただし、決済サービスは「NFCのキラーコンテンツになるかもしれないが、まだ普及というところまでは至っていない。今後、本格的な普及となるか、注視していく必要がある」(藤吉氏)とした。 


カードエミュレーション、リーダー・ライター、P2PモードでのNFC活用法

 では、NFCの特徴と利用シーンにはどのようなものがあるのだろうか? 

「これまで国内ではNFCというと、ソニーのFeliCaがデファクトスタンダード(Type3)になっていた。今後はFeliCaに加え、Type A/Bも使われるようになるだろう。特にType Aは欧州で普及している。大規模導入によってカードやタグのコストも低減する。Type Aのリーダーも100ドル台から調達できるというメリットもある。」(藤吉氏)という。 

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国内の近距離無線通信技術
(出典:野村総合研究所)

 NFCフォーラムで規定されているNFCには、3つの動作モードがあることが大きな特徴だ。従来の非接触ICカードモード(カードエミュレーションモード)に加えて、リーダー・ライターやピア・ツー・ピア(P2P)のモードがあり、その活用方法も異なる。 

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NFCフォーラムで規定される3つの動作モード
(出典:野村総合研究所)

 NFCのカードエミュレーションモードは、クレジットカードや電子マネー決済などを想定し、すでに国内で利用されているものだ。しかし、藤吉氏は「今後はモバイルや携帯電話の分野で、海外のNFCとの互換性に問題が出てくるかもしれない。GSMA(GSM Association:携帯通信事業者の業界団体)では、FeliCaの採用が見送られている。日本はNFC(FeliCa+TypeA/B)だが、海外ではNFC(TypeA/B)が主流。次期iPhoneにNFCが採用されたとしても、TypeA/B対応に留まる可能性がある。その場合、既存の決済端末を交換したり、バージョンアップする必要がある」と注意を促した。 

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海外のNFCとの互換性確保が課題
(出典:野村総合研究所)

 一方、NFCのリーダー・ライターモードは、NFCを読み取り・書き込み機として利用しようというもの。これまでスマートフォンで2次元バーコードを読み取るには、カメラアプリを起動し、カメラの焦点を合わせ、シャッターを押すという手順を踏んだ。NFCのリーダー・ライターモードを使えば、端末をかざすだけで、グーグルが言うところの「ゼロクリック」を実現できる。操作の手間が軽減され、商品選択やサービスの検討がスムーズに行えるわけだ。 

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NFCのリーダー・ライターモードの活用
(出典:野村総合研究所)

 フランスでは、NFCのリーダー・ライターモードを利用した先進的な事例がある。「リヨンのCasinoスーパーマーケットでは、全商品タグをNFC化しており、スマートフォンでタグをタッチして商品情報を閲覧したり、購入したい商品情報を登録することで、事前精算の確認が可能になった。この12月までには、レジのNFCリーダーをタッチして、決済完了までできるようにする。また同社は、屋外に設置した“order-wall”というスマートポスターにタッチして商品を注文し、店頭で受け取れるサービスを10月から開始している」(藤吉氏)という。 

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仏リヨンのスマートフォンとNFCを組み合わせた事例
(出典:野村総合研究所)
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スマートポスターを活用したリヨンの事例
(出典:野村総合研究所)

 NFCのP2Pモードでの新しい活用例も登場している。NFCを搭載した家電やセンサー機器と接続して利用するもので、自動車や医療、ヘルスケア分野でのM2M活用が期待されている。オムロンでは、血圧計などの健康機器からNFC対応スマートフォンにデータを転送し、健康管理サービス「ウェルネスリンク」のWebサイトでログや健康診断結果を確認できるサービスをスタートさせた。 

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ピア・ツー・ピアモードの活用
(出典:野村総合研究所)

 また海外ではBMWやWeSCなどの事例もある。BMWはVingCard Elsafeと共同で、自動車とカーナビを連動させ、ホテルにそのままチェックインできるサービスを推進中だ。カーナビからホテルを予約すると、クルマの鍵に部屋のキーがダウンロードされるので、ホテルに到着したら、フロントで待たずにすぐに入室できるようになる。 

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BMWの活用事例
(出典:野村総合研究所)

 一方、スウェーデンのファッションブランドであるWeSCは、NFC搭載シューズとSNSを連動させた仕組みを開発。NFCを搭載したボードを靴で踏むと、ユーザーを認識してメッセージを表示したり、FacebookやTwitterにチェックインしたり、カメラで撮影した写真をFlickrに投稿できるという。ボードを2人で同時に踏めば、Facebookで友達申請も可能だ。このように、NFCを活用し、SNSをネットだけでなく“リア充(リアルの充実)”的な新しいつながりとして支援するような動きも出ている。 

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スウェーデンのストリートファッションブランドのWeSCの事例
(出典:野村総合研究所)

小売のマーケティング活用で、NFCが大活躍する時代がやってくる

すでにNFCの活用は、金融、保険、小売、物流、ヘルスケア、自動車、家電など各分野で始まっている。たとえば金融業界では、NFCを利用した決済の関心が高い。支払い処理のスピードアップが図れるからだ。すでに日本では電子マネーサービスを提供し、世界に先んじているところだ。 

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企業にとってのNFCの利用シーン
(出典:野村総合研究所)

 中でも藤吉氏が特に注目するのが、小売のマーケティング活用だ。そのもっとも端的な例がO2Oだが、これもスマートフォンとの連携のしやすさがその背景にある。藤吉氏は「マーケティング活動では、商品の認知から、関心、購入、共有に至る各シーンにおいてNFCを活用することで、顧客体験を高められる」と指摘する。 

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マーケティング活動におけるNFCの活用
(出典:野村総合研究所)

たとえば「認知」のシーンでは、NFC搭載デバイスと顧客の接点をつくるものとして、スマートポスター、デジタルサイネージ、スマートTVなどが挙げられる。これらを日常の動線や目に付く場所に置いてタッチしてもらい、「関心・検討」へスムーズに移行させる。ただし、NFCはあくまで近距離通信なので、メール(3G/4G)やWi-Fi、Bluetoothなどを組み合わせる必要がある。 

 もちろん「顧客に商品ラベルなどをタッチしてもらった後の施策も重要だ。リアル環境下で商品への『関心』を高めたあと、『購入』を喚起する仕掛けを打たなければならない。商品紹介サイトやモバイルECサイトなどのネットチャネルへと誘導しながら、顧客を囲い込んでいくことも大切」という。 

 たとえば、店舗内でもモバイルECサイトを利用し、他店との比較情報を知らせるなど、チャネルのシームレスな連携環境を整えておく。いよいよ顧客が購入の段階に入ったら、シームレスな購入の仕組みで売り逃しを防ぐ。具体的には、NFCを利用してキャッシュレス化を図ったり、ワンタッチ支払いを実現して利便性を高めていくことなどが挙げられるという。 

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購入におけるNFCの活用
(出典:野村総合研究所)

 最後に重要な点は、SNS時代の情報共有だ。購入者のリアルな評価や感動は、より大きな購買力の喚起につながる。Facebookなどを利用し、知り合いに“リアルいいね”の情報を拡散してもらい、ファン層を拡げて、さらに顧客化するプロセスだ。このNFC活用として、藤吉氏は米国のベンチャーが提供する“ソーシャルパスポート(Social Passport)”を例に挙げて説明した。 

 「ソーシャルパスポートに契約した店舗は、店内にNFCタグ内蔵スマートポスターを貼り出す。顧客がスマートフォンの専用アプリケーションからタグをタッチして情報を読み取ると、画面にクーポン券が表示される。これだけだと普通のスマートポスターと変わらないが、ソーシャルパスポートの面白いところは、クーポン券がNFCのスキャン回数やSNSのフォロー状況などに応じて、割引率をリアルタイムに変更できることだ」(藤吉氏)という。 

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共有におけるNFCの活用
(出典:野村総合研究所)

 これは、ある種のゲーミフィケーション的な要素を取り入れた施策といえるかもしれない。このように企業にとって、NFCをどう取り込んでいくかという問題は非常に重要だと藤吉氏は指摘する。 

「特に小売業では、商品の認知から購買に至るシナリオをしっかり検討し、各プロセスにおける有効な活用法を導入することが、O2O時代を生き残るために肝要になってくるだろう。」(藤吉氏) 

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NFC活用のロードマップ
(出典:野村総合研究所)

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