2013年1月4日金曜日

2013年はマルチデバイスの年? MSの新戦略に注目? 今年の通信業界を占う新春座談会

2013年はマルチデバイスの年? MSの新戦略に注目? 今年の通信業界を占う新春座談会



iPhone 5の発売、ソフトバンクによる米スプリント、イー・アクセス買収と、話題に事欠かなかった2012年の通信業界。では2013年の通信業界にはどのようなトレンドが訪れるのか。そこで、情報通信総合研究所の4人の研究員と共に2012年の通信業界を振り返り、2013年を予測する座談会を実施した。
(司会、構成は堀越 功=日経コミュニケーション
今年の通信業界を占う新春座談会
まずは2012年の通信業界でインパクトのあったニュースをそれぞれ3つあげてほしい。
岸田:年末に公開したITproの記事「私が選んだ2012年の十大ニュース」でも触れたが、1位が「ソフトバンクが米スプリントを買収へ」、2位が「iPhone 5発売を機にKDDIとソフトバンクがLTEを開始、テザリングも解禁」、3位が「ソフトバンクがイー・アクセスを買収へ」だ。理由は2012年は米アップルにみなが振り回された1年と言えるからだ。
写真●情報通信総合研究所 主任研究員 岸田重行氏
国内外の携帯電話市場に関して、サービス動向から企業戦略まで幅広く調査研究を行っている。
 iPhone 5がLTEに対応したことで、これまで各地域や事業者でバラバラだった通信方式の違いを克服できるようになった。1位のソフトバンクのスプリント買収は、これによってスケールメリットが見込めるようになったからこそ実現したと言える。
 2位のKDDIとソフトバンクのLTE開始も、特にKDDIはiPhone 5の登場に合わせてLTEの展開を前倒しし、当初は予定していなかった2GHz帯でのLTEの展開を慌てて準備した。
 3位のイー・アクセスもiPhone 5が同社の持つ1.7GHz帯に対応したからこそ、買収の動きになったと言える。
 あともう一つ付け加えると、2012年11月の「ドコモ、純減」(関連記事)のインパクトも大きかった。これもiPhone 5の影響と捉えられる。
 はっきり言ってしまえば、多くの人がアップルに迷惑をしているように見える。通信事業者や規制当局を含めて主導権を握れなくなっている状況だ。
中村:私は「米AT&Tなど通信事業者によるAPI開放の取り組み」(情報通信総合研究所の記事)、「米マイクロソフトの新戦略」、そしてやはり「ソフトバンクによる米スプリントの買収」を挙げたい。
 日本ではあまり目立っていないが、通信事業者によるAPI(Application Programming Interface)開放の取り組みは、米AT&Tやスペインのテレフォニカなど海外の通信事業者が積極的に進め始めている。これまで通信事業者は、ユーザーにいかに使ってもらえるのかという視点で自社のサービス開発に力を入れてきた。それに対し海外事業者が進めるAPIの開放は、いままで自社に閉ざされていたネットワークの機能をいかに開発者に使ってもらえるのかという視点で進められている。

写真●情報通信総合研究所 主任研究員 中村邦明氏
米国育ちのガジェット好き研究員。モバイルデバイスおよびモバイルコンテンツを中心に携帯電話市場の動向を幅広く調査研究している。

中村:特に米国のAT&Tは率先してこの動きを進め、エコシステムの考え方がガラリと変わりつつあるように見える。通信事業者のネットワークが持つ機能の中では、SMS(short message service)などプッシュ関係のAPI、課金系のAPIなどが開発者にとって魅力的になるのではと言われ始めている。
 あるところでは「APIはデジタル時代の通貨になる」とも言われている。実際のお金は動いていないが、開発者を集めるネタという意味での“通貨”だ。APIの提供で直接収益を得ようというのは短絡的であり、エコシステムをうまく形成することで、新たな利用シーンを作っていくという方向性だ。AT&Tなどは、開発者にぜひ使ってもらいたいということで営業しにいっている。
 AT&Tは、自社で開発した「watson」という音声認識技術を持っている。ドコモの「しゃべってコンシェル」のようなものだ。通常ならば、自社のサービスの差別化要素として囲い込むところを、AT&TはwatsonのAPIを公開し、積極的に外部の開発者に使ってもらおうとしている。
 もう一つは、米マイクロソフト(MS)の新戦略。昨今、Windows 8が発売される中でMSは面白いサービスを始めている。Xboxのエンタテインメントプラットフォームを一本化し、「Xbox SmartGlass」というHTML5のハイブリッドアプリを使って、Windows OSからWindows Phone、さらにはAndroid、iOSまで、すべて同じ体感で、複数の画面を連携して使えるようにした動きだ。
 ゲームはもちろん、メールやSMSなど多くのことがこの画面上でできてしまう。これまでMSはソフトウエアのライセンスモデルのビジネスを進めてきたが、ここにきてネットのOTT(Over the Top)プレーヤーと同じような動きをし始めている。OSに被せて、OSの違いを吸収してしまうという意味では、まさにOTTそのものだ。
 ソフトバンクとスプリントの件については岸田と同じ意見なので割愛したい。
写真●Windows OSからWindows Phone、Android、iOSまで、すべて同じ体感で、複数の画面を連携して使えるようにした「Xbox SmartGlass」
 
 LINEのようなメッセンジャーアプリは、日本だけでなく世界的にダウンロードが増えている。それに伴って、ユーザーがこれまでIDとして使っていた、電話番号とかキャリアメールから束縛されない時代が来た感がある。
 もともと海外ではプリペイドの利用が多く、ユーザーはキャリアに固執していない。キャンペーンによってユーザーがSIMカードを乗り換えることも頻繁で、そのためSMSが届かないことがよく起こっている。LINEのようなメッセンジャーアプリを使うことで、このような問題が解消される。
 キャリア自身も自社の電話番号やキャリアメールに縛られない動きが出てきている。例えばテレフォニカが「TU Me」、米T-Mobileは「Bobsled」といった自社のメッセンジャーアプリを提供し、自分の回線のユーザーに縛られずにサービスを提供する方向へ舵を切り始めた。
 M2Mについては、2012年の一番のバズワードになった感がある。キャリアが新たな収益源をいよいよ考えなくてはならないということで、一気にその方向へ走り始めた。その背景には、世界的にLTEへの方向感が定まり、その次の取り組みを考えられるステイタスになったからではないか。
 ノキアの転落については、2012年に初めて端末出荷台数でノキアが韓国サムスン電子に抜かれた(関連記事)。スマートフォンで後れを取ったノキアは不調が続いていたが、この14年間、端末出荷台数ランキングでずっと1位を保ってきた。それがついにその座を明け渡してしまった。携帯電話のコモディティー化が進み、ますます端末メーカーは厳しい時代に入っていることを示している。
三本松:私は「LINEのようなメッセンジャーアプリのプラットフォーム化」、あとは「アップルさえも失敗したiOS 6の地図アプリ」、それと「米グーグルの米国での光ファイバー事業」を挙げたい。
 LINEは広告のプラットフォームとしても志向し始めた。はたして今後、このようなモデルが定着するのかに興味がある。
 iOS 6の地図アプリでは、「パチンコガンダム駅」のような表示が出てくるなど、アップルでさえこのような大きな失敗をすることが驚きだった。逆にアップルがこれで何をしたかったのかを考えると、iPhoneやiPadが先進国では行きわたり、これから端末で稼ぐのが難しくなることを見越した動きだったのではないか。地図プラットフォームの上で広告ビジネスを狙うなど、販売から利用に軸足を移す動きだったと考えられる。

三本松:最後のグーグルの米国における光ファイバー事業は、これまで自治体と組んだ試験的なサービスと言われてきた。2012年11月13日から実際に始まったが(関連記事)、その様子を見る限り、かなり本気でやろうとしていることが伝わってくる。
 例えば開設工事についても、午後1時から3時の間に工事に行くというのではなく、1時半なら1時半といった指定された時間に行くといった手厚い体制を築いている。さらに設置に来た人は、単に設置するだけでなく「これで何ができるのか」といったユーザーの質問にその場で答えてくれる。コールセンター並のトレーニングを受けたスタッフを配置しているという。これだけ見ても、試験サービスとは思えないような、かなり充実した体制を築いている。
 私は最初は、グーグル自らが光ファイバー事業を進めることで、周りのキャリアにプレッシャーを与えたいだけだと思っていたが、どうやら本気でビジネスになると考えているようだ。

スマホの新たなコントロール手段に注目

続いて、2013年に注目する動きを挙げてほしい。
写真●情報通信総合研究所 主任研究員 三本松憲生氏
海外のOTT(Over the Top)プレーヤーの戦略、サービス動向やSNS利用者の消費動向に関する調査などに従事している。
[画像のクリックで拡大表示]
三本松:私は、アップルのSiriやグーグルの音声入力など、スマートフォンの利用の仕方が変わってくることに注目している。ユーザーに意識させずに、情報が得られるようになるような新たなインタフェースの動きだ。
 これまでのタッチ入力は、言ってみればまだまだ単純だった。それがもう少し複雑化し、現実世界に近くなるのではないか。例えばディズニーの研究所なども、新たなタッチセンシングの研究などインタフェースの開発を行っていて面白い(ディズニーのタッチセンシングの研究についての動画)。あるいは、端末がユーザーのいる場所の意味などを理解し、情報を用意するといった動きもあるだろう。
中村:2012年1月に開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では、人の目線でデバイスをコントロールするような動きも目立っていた。これらはかなりの精度でできるようになってきている。CESでもう一つ、中国メーカーでは脳波をキャッチするというデモもあったが、さすがにこれは早すぎた感がある。


LINEなどのメッセージサービスは集約化? キャリアは土管化してもいい

佐藤:日本だけでなく世界を見渡してみると、メッセージサービスはLINEやカカオトーク、WhatsAppなど様々なサービスが乱立している。コミュニケーション手段が従来の電話、メール、SMSから多様化してきた。ユーザーは用途や相手に応じて、それらのサービスを使い分けている。2013年は、これらのメッセージサービスがより一般化し、さらには現在の乱立状態から集約化されるのではないかと見ている。どんな新しいサービスが出てきて、どのサービスが生き残るのかに注目している。
 そのような環境の中で国内外の通信事業者の位置付けも変わってきている。海外の事業者は特に新興国になればなるほどダムパイプ化(土管化)することをあまり気にしていないように見える。
岸田:通信事業者はダムパイプという言葉に悪いイメージを持ちすぎの感じがある。土管あっての通信事業者であり、ダム(dumb:単純・単機能といった意味)かどうかは結果論。どんなに良い付加価値サービスをキャリアが提供したとしても、ユーザーに使われなければダムパイプになる。iモードも、実際はサービスやコンテンツで大きく稼いでいたわけではない。販売促進やつなぎとめの効果が高く、回線の部分で稼いでいた。
佐藤:特定の通信事業者のユーザーしか使えないサービスではなく、キャリアフリーのサービスは今後どんどん増えていくだろう。通信事業者の縛りだけでなく、OSプラットフォームの縛りも薄れている。人気アプリはiOS版、Android版それぞれ作られている。デバイスフリーの動きも加速する。
中村:そうなると差別化が難しくなる。通信品質の違いは抽象的で伝わりにくく、最終的に効いてくるのは値段。体力勝負という形になるのではないか。
岸田:通信品質の違いなどをどう伝えるかは、ユーザーの主観をどのようにコントロールするのかというマーケティングの世界になる。これは技術オリエンテッドな通信事業者のDNAには、フィットしにくい。

2013年はデバイスフリー、OSフリー元年?

中村:私は2013年には「パーソナライゼーション」に注目したい。これまでは「フリー」「シェア」という流れが目立った。これは流れとしては拡販であり、より多くのユーザーに触れさせようという動きだ。ある程度ユーザーに広まったので、今後は、それぞれのカスタマイズされた情報などがそれぞれの端末に行くようなパソナライゼーションがキーワードになるのではないか。そこでツールとして出てくるのが「ビッグデータ」だ。
 例えば特定の場所に行ったら、特定のコンテンツが自動的にダウンロードされたり、場面に応じてカスタマイズされた情報が提供されていくといった動きが注目されるのではないか。
 もう一つ、デバイスフリー、OSフリーの流れが2013年には決定的になるだろう。そしてそのツールとして出てくるのが「ハイブリッドHTML5」だ。どんなデバイスであろうが、どんなOSを積んでいようが、共通して同じコンテンツが連動できるようになるサービスが基本になると思う。これがアプリの中心になると思っている。
 あともう一つ、リビングルームのプラットフォーム戦争が2013年は激化すると考えている。アップルは「Apple TV」、MSは「Xbox」、グーグルは「Google TV」といった取り組みを進めており、いよいよそれが本格化しそうだからだ。

三本松:スマートフォンのようなパーソナルな端末が増えくる中、アップルやグーグルがテレビのような大きな画面へ揺り戻しが起きているような状況を、少し不思議に思っている。今の生活シーンの中で本当にテレビのような大きな画面を、みんなで見るのかどうか疑問もある。
岸田:テレビを語るときに必ずこの疑問は出てくる。様々なICT機器はパーソナル化という方向でこれまで発展してきた。テレビはこれまで家族の共有物としてのものだったが、今起きているのは「家庭内に残された大きなモニター」という側面だと思っている。このモニターをどのように使うのかは、人によって違う。だから、なんとなく議論や方向感が見えづらい。

タブレットの進展、マルチデバイスがキーワードになる

岸田:自分は、2013年はタブレットがどこまで伸びるのかという年と見ている。2012年秋以降、主戦場は7インチへと変わった。それまでアップルは7インチのタブレットを出さず、アップルを選ぶのであれば10インチのiPadを選ぶしかなかった。逆に言えば7インチというサイズ優先で選ぶ人は、アップルがそのラインアップを出していなかったため、Androidを選んだ。
 それがiPad miniが登場したことで、7インチの領域でiOSとAndroidの真っ向勝負が始まった。しかも7インチのタブレットは10インチのタブレットよりも安く、1万5000円から1万9000円ぐらいで手に入るようになった。スマートフォンよりも安い。これは数が出る。
 もっともユーザーや通信事業者にとってタブレットとはどんなユースケースをもたらすものなのか確立していない面もある。例えば、子供に最初に与える端末がタブレットになる可能性もある。まだまだ位置付けは揺れると思うが、これまでの家庭に1台というレベルを超えて、ひとり1台レベルまで広がる可能性がある。
 こうなるとユーザー目線では、マルチデバイスもキーワードになる。コンテンツやアプリは、デバイスフリー、OSフリー、そして固定や無線LANもシームレスに使えるということでネットワークフリーの環境で使えることが基本になる。そうでないサービスがあまり使われなくなるのかもしれない。
 マルチデバイスの環境下では、ユーザーを認証するためのIDが必須になる。今、様々な場面でIDをめぐる競争が起きているが、そこではどれだけユーザーの依存度を上げられるかの勝負になっている。これまではデバイス単位、ネットワーク単位ということでIDの範囲が切れていたが、これがマルチデバイス環境になるとひとまとめにされる。違う競争の領域に入り、便利なものへ依存度が増していく可能性がある。
 依存度を上げるためには、やはりデバイスフリー、ネットワークフリーのほうが有利だ。KDDIの「au ID」、ドコモの「docomo ID」、ソフトバンクモバイルのYahoo! JAPANとのIDの連携(関連記事)などは、まさにこのような動きを反映してだろう。

岸田:先ほど出てきたXbox SmartGlassも、まさにそれを狙ってだろう。MSのこの新戦略は、アップルやグーグルに席巻された中での賭けとも言われている。しかし何もしないよりはいい。通信事業者やメーカーにとっても大いに参考になる動きだ。
 あともう1点、2013年は通信料金面で動きが出てくる可能性があると見ている。そろそろユーザー向けの選択肢がもっと増えてもいいのではないか。
 今のモバイル向けのデータ通信プランは、7Gバイトや3Gバイトの上限のモデルがある程度。音声通話の時代にはあれだけ数多くプランを出していた。必ず細分化の道へ進む。ファミリープランのような形や、マルチデバイスを念頭に置いたプランが日本でも出てくるかどうかだ。いずれにせよ、料金プランはいろんな攻め方が残されている。
写真●司会を務めた日経コミュニケーション編集の堀越功
2012年は通信障害や無線LANオフロードも話題に上った。2013年はどうか。
岸田:通信障害の話は解決はしていないが、バランスが取れるようになったと認識している。また今後はHetNet(Hetrogeneous Network)のような新しい技術が入ってくることで、セルの密度、容量のケタが変わってくる。通信障害の話は当面表面化しなくなるのではないか。ただイタチごっこの側面もあるので、キャリアとしては悩ましい状況は続くだろう。
 無線LANオフロードについては、宅内については効果は高いが、公衆無線LANへのオフロードにキャリアがどっぷり依存することにはならないのではないか。
海外の話題が多かったので、日本市場に限った上で、2013年に注目する動きを教えてほしい。
中村:私は日本においては、KDDIの今後の動きが気になる。3M戦略(関連記事)がうまく回るのか、その取り組みがペイするのか、注目をしている。
岸田:自分は、1月から2月にソフトバンクモバイルがMNP(番号ポータビリティー)純減になるかどうかに注目している。
 2012年11月のMNP純増/純減数は、ドコモがマイナス21万件、KDDIがプラス16万件で、ソフトバンクモバイルはプラス約5万件だった(関連記事)。ソフトバンクモバイルはこの1年近くの間でMNP純減になりそうになった月が2回ほどあった。ソフトバンクに本当に勢いがあるのか。KDDIとの差は何なのか。ドコモに勢いが戻ってきた場合はどうするのか。注目している。



 

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