携帯3社の第1四半期の決算が出そろった。KDDIとソフトバンクが大幅な増益となる一方、NTTドコモだけが減益となり(表1)、ドコモの“独り負け”の構図が変わっていないことが鮮明となった(関連記事1:
、関連記事2: 、関連記事3: )。
表1●NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの2013年度第1四半期決算の主要数値
NTTドコモ | KDDI | ソフトバンク | |
---|---|---|---|
売上高 (前年同期比) | 1兆1136億円 (3.9%増) | 1兆24億円 (16.3%増) | 8811億円 (21.4%増) |
営業利益 (前年同期比) | 2475億円 (5.8%減) | 1787億円 (89.6%増) | 3910億円 (92.3%増) |
純利益 (前年同期比) | 1580億円 (3.8%減) | 682億円 (32.9%増) | 2383億円 (125.7%増) |
1Q純増数 | 8.7万 | 66.9万 | 81万※ |
MNP純増減数 | -40万8100 | 24万1300 | 16万1900 |
携帯解約率 | 0.86% | 0.56% | 0.99% |
KDDIやソフトバンクの業績は、子会社化したジュピターテレコム(J:COM)やガンホー・オンライン・エンターテイメントが寄与した部分も大きい。その一方で、好調な純増数と、スマートフォンへの移行によるデータARPU(Average Revenue Par User)のジャンプアップ効果の掛け算で、通信料収入が伸びていることも好業績のベースにある。
それに対してドコモは、4~6月の第1四半期の純増数はわずか8.7万。MNP(携帯電話番号ポータビリティー)による純増減数はマイナス40万8100と、ドコモが草刈り場となり他社へユーザーが流出している。
現状打開のためにドコモは5月、夏モデルのうちの「Xperia A」(ソニーモバイルコミュニケーションズ製)と「GALAXY S4」(韓国サムスン電子製)の2機種をドコモのお奨め機種としてプッシュし、実質価格面でも優遇する「ツートップ戦略」を打ち出した。しかしツートップ戦略は従来型携帯電話機(フィーチャーフォン)ユーザーの移行を促す上では効果が出たものの、「MNPにおける他社からドコモへのポートイン数は想定よりも少なかった」(NTTドコモの加藤社長)と、ドコモ自身も誤算を認めている。
そんなドコモが考える次の一手は何か。筆者が先日、情報通信総合研究所の研究員5人とともに実施した座談会でも、ドコモの次の戦略について熱い議論になった。ここでの議論では、巷でよく言われるような「iPhone」の導入よりも、「サブブランド戦略」が有効ではないか、という結論に達した。そこで当記事では、ドコモがサブブランド戦略を取った場合の効果について、さらに踏み込んで考えてみたい(関連記事:
)。海外では「サブブランド戦略」は一定の成功例
サブブランド戦略とは、例えば「NTTドコモ」というメインブランドのほかに、新たに若者向けや普及層向けのブランドも追加で設けるような戦略だ。いわば、アパレル業界におけるデザイナーズブランド(メインブランド)とセカンドライン(サブブランド)の関係に例えられるだろう。
日本ではあまり馴染みがないが、サブブランド戦略は海外の携帯電話業界では既に一定の成功を収めている戦略でもある。少し古い例ではあるが、例えば2005年当時のドイツにおいて、同国第3位の携帯電話事業者である「E-プルス」がターゲット別のサービスを柔軟に進めるために、低料金を売りにした「simyo」や「BASE」など4つのサブブランドを投入した。2005年当時で既にドイツの携帯電話市場は普及率100%近くの飽和状態に達していたにもかかわらず、E-プルスは数年後には、メインブランドとサブブランドの加入数が逆転するなど成功を収めたという(関連記事:
)。
E-プルスの動きに対し、ドイツでの最大手の通信事業者である「ドイツテレコム」も「Congstar」という若者向けサブブランドを投入して対抗。ドイツ国内で波及効果も生んでいる(関連記事:
)。
携帯電話事業者自身のサブブランド戦略は、単なるMVNO(仮想移動体通信事業者)ではなく、MNOによるMVNO的な取り組みとなる点がポイントになる。MVNOは一般に販路が貧弱であるため、ニッチな存在を脱し切れない場合が大きい。その点、携帯電話事業者が取り組むサブブランド戦略は、事業者が抱える既存の販路を活用できる。そのため上記のE-プルスの例のように、場合によってはメインブランドを逆転するほどの効果を発揮する可能性があるわけだ。
ドイツの事業者の例とはきっかけが少し異なるが、ウィルコム、イー・モバイルを傘下に収めたソフトバンクグループも、ここにきて意識的にサブブランド戦略を推し進めつつあるように見える。ウィルコムの宮内謙社長は「ハイエンドのソフトバンクモバイル、LCC(Low Cost Carrier)のウィルコムでブランドを明確に分けていく」と説明(
)。宮内社長はさらに「マーケットリサーチを共同で実施し、どのようなセグメンテーションができるのか検討している」と語る。
過去のカニバリゼーションが何%あったのかというデータも調べるなど、ソフトバンクグループは結構データセントリックな会社でもある。宮内社長は「3社がシナジーを出し、競合他社から乗り換えてもらうようにしていく」と話し、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル、ウィルコムという3つのブランドを戦略的に際立たせる考えも見せる(関連記事:
)。
さらに付け加えると、KDDIが展開する「iida」も、デザインを重視した一種のサブブランドといえるだろう。
ドコモの最大の課題はプロモーションの押しの弱さ
ではここでドコモが直面する課題をもう一度見ていこう。競争の面では、KDDIやソフトバンクモバイルへのユーザー流出に歯止めがかからない点が、ドコモの最大の課題と言える。
これは、KDDIやソフトバンクモバイルが、ドコモが持たないiPhoneを売っているばかりではなく、ドコモからMNPで転出するユーザーに対して数万円のキャッシュバックを付けるなど、手厚い料金施策を用意している点が大きな要因になっていると考えられる。
KDDIやソフトバンクモバイルにしてみれば、ドコモから確実にユーザーを奪えると見越して奨励金を積みましているのだろう。これに対し、ドコモはキャッシュバック施策については後ろ向きだ。市場シェアが首位の事業者が際限の無いキャッシュバック施策を打ちにくい理由もよく分かる。ドコモは6月に入って、ドコモへ転入してくるユーザーに対するキャッシュバックを控えたが、「その結果、(ツートップ戦略において)ポートイン数が思ったよりも伸びなかった。7月にはキャッシュバック施策を復活したため、今は手応えを感じる結果が出ている」(ドコモの加藤社長)。
実際、NTT持ち株会社の鵜浦博夫社長は、8月5日に開催した決算会見の席上で、「7月の純増はかなりの数を獲得できたとドコモから聞いている。この数字を見れば、ツートップ戦略の評価も変わるのではないか」と語っている。この点からも、「安いから、お得だから」という理由で、他社へ乗り換えるユーザーが案外多いことが見えてくる。
もちろんドコモがiPhoneを投入し、キャッシュバック施策を積み増せば、ドコモからそれなりの数のiPhoneが出て行き、他社への流出を抑えられるだろう(関連記事:
)。しかし短期的な効果はまだしも、3社が横並びになることから、長期的にはその勢いがどこまで続くのかは不透明な部分が多い。そして噂されるような米アップルとの販売台数のコミットメントが、在庫を抱えるというリスクとなって業績に跳ね返ってくる。
実はドコモの通信料金は、初期費用はまだしも、月額料金の面ではKDDIやソフトバンクモバイルには引けを取らない水準となっている。場合によっては、各種割引策を適用すると、最安値となるケースもある。先日実施した座談会では、「ドコモの安さが伝わっていないプロモーションの押しの弱さこそ最大の課題」「ドコモのブランドイメージと“安さ”が結び付かない」という話が出た。「高い」けど「つながる」といったドコモのどこか“高級感”あるブランドイメージが、料金施策に敏感に反応する市場の中で逆に不利になっているわけだ。
そんな中で、前述の座談会の中でドコモの現状打開策として出てきたのが、サブブランド戦略である。ドコモが低価格を売りにしたサブブランドを打ち出せば、従来のドコモのブランドイメージを保ったまま、今の競争上有効な、料金に敏感なユーザーを引き付ける施策になるのではというアイデアだ。
筆者を含め、座談会参加者の多くがこのアイデアについては可能性が多いにあると考えた。一方で「本当に低料金だけで今の時代、ユーザーを引きつけられるのか。iPhoneにはかなわないのではないか」という意見も出た。
確かに、新たにブランドを加えるのはリスクも大きい。例えば2008年当時、ドコモがかつて黒を基調としたロゴから、現在の赤をベースにしたデザインのロゴのブランドに変更したときは、販売店のデザイン変更を含めて約100億円の費用がかかったという(関連記事:
)。サブブランド戦略は、それなりの投資を伴う戦略でもあるわけだ。販売店における体制の変更も大きな作業となる。
またこれだけの投資をしたとしても、サブブランドを認知してもらえばければ、結局「安い料金プランがあるけれども、ユーザーには伝わらない」という現在の課題と変わらない結果に終わる。サブブランドの認知度をいかに向上するのかという点も課題になる。
上記のような課題があるものの筆者は、以下に挙げるさらに2つの理由からも、ドコモがサブブランド戦略を投入する価値は多いにあると考えている。
1つは2014年以降、段階的に引き上げられる予定の消費税増税の影響からだ。通信各社の増税による料金プランへの影響はまだ不透明だ。しかし、家計に占める通信費の割合が年々と増加する中、消費税増税を機会に契約中の通信料金を見直すユーザーは増えると考える。そうなると月額料金を抑えられるプランは、より競争力を持つようになるだろう。このようなニーズに、航空業界でいう“LCC”のような、低価格を売りにしたサブブランド戦略はぴったりとはまる。
もう1つの理由は、現状のドコモの契約者の年齢構成が、スマートフォーンユーザーと従来のフィーチャーフォンユーザーで大きく乖離してきており、とても単一のブランドイメージだけでは顧客接点を築けなくなっていると思うからだ。
ドコモは主にスマホユーザーが加入するspモードと、主にフィーチャーフォンユーザーが加入するiモードの契約者の年齢構成比を公開している。その最新データ(2013年第1四半期)によると、spモードのユーザーは20代が20%、30代が28%、40代が26%、50代が20%と満遍なく各年代で分布しているのに対し、iモードのユーザーは50代が51%と最も多く、40代と50代を合計すると70%に達するなど極端に高年齢層に偏っている(図1)。前年同期と比べると、その傾向は加速していることが分かる。
図1●2013年第1四半期のNTTドコモにおけるspモードとiモードの年齢構成比
ドコモにおけるスマホの普及率は、2012年度末で約3割を超えたところ。アーリーアダプター層からレイトマジョリティー層へとスマホへ移行するユーザーが移り変わっている最中だ。逆に言えば、通信モジュール(M2M)の契約数をここでは無視して単純計算すれば、ドコモのユーザー全体の約7割はまだフィーチャーフォンユーザーが占めていることになる。そんなフィーチャーフォンユーザーの大多数を占める40代~50代のユーザーを、いかにスマホへとシフトさせていくのかも大きな経営課題となっている。
かつてのフィーチャーフォン時代は、多彩な年齢層向けの顧客接点を担っていたのはターゲットごとに作りこまれた端末だった。しかしスマホの時代に入り、高齢者向けの「らくらくホン」、子ども向けの「キッズケータイ」を除けば、スマホの端末ごと違いは少なくなり、端末の均質化が進んでいる。とてもspモードとiモードユーザーのダイバーシティーを吸収できるような、端末のバリエーションが用意されているとは思えない。
そもそも、40代~50代のiモードユーザーの大多数をスマホへ移行させていくことが、本当にユーザーにとってメリットを生むことなのか。もう一度、問いなおす必要もあると感じる。
だとしたら端末ではなく、少なくともサービスや料金施策面で各ユーザーのタイプごとにサブブランドを用意することが、事業者とユーザーの顧客接点を再構築する、有効な手段につながるのではないだろうか。
ドコモ加藤社長は「アイデアはあるが、まだ真剣には検討していない」
さてここまで、外野から勝手にドコモのサブブランド戦略の有効性について考えてみた。では当のドコモはサブブランド戦略についてどのように考えているのか。
実は筆者は7月に、ドコモの加藤薫社長にインタビューさせていただく機会があった。実際のやり取りの詳細は日経コミュニケーション8月号のインタビュー欄を参照していただきたいが、筆者はそのインタビューの席で加藤社長に「ドコモの現状を打破する上でサブブランド戦略が有効だと考えているが、どのように思うか」と質問をぶつけてみた。
加藤社長の答えは、「(サブブランドのような)アイデアは出ることもあるが、まだ真剣には検討していない。様々なサービスにおいて、サブブランドのような打ち出し方はあるのかもしれない。ただもし仕掛けるとなると、既にMVNOもいて、我々のような事業者がいる中、どんな特徴的なサービスを出していくのかなど、様々なことを検討しなければならない」という回答だった。ドコモのサブブランド戦略導入に向けては、「やるつもり」とも「やるつもりはない」とも、どちらともとれるような発言だ。
もちろん、加藤社長はいたずらに将来の手の内を明かすようなことはしないだろう。実際に加藤社長と直面した筆者の感触では、ドコモがサブブランド戦略を導入する可能性は十分あり得ると感じている。
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