2013年5月28日火曜日

「ユニクロ」とパナ・シャープを分けるもの アパレルの雄が示す家電再生のヒント

「もっと携帯に便利だとか、身に着けていて疲れないだとか、暖房の費用が助かるだとか、そういう風にライフスタイルを快適なものに変えていくような“道具”を開発していきたいと考えています」
 今年4月、過去最悪の赤字に落ち込んだパナソニックやシャープなど家電メーカーの取材に奔走していた筆者は、その3カ月前に対面したファーストリテイリング、柳井正会長兼社長の言葉を思い出していた。「ヒット商品やオンリーワン商品が必要だ」「技術をテコに新しい需要を創造しないといけない」といった家電メーカーの問題意識が、低価格衣料品店「ユニクロ」のそれとオーバーラップしたからだ。
 衣料品SPA(製造小売り)の代表格であるユニクロは、上流工程にまで踏み込んだ商品開発や品質管理で知られる。「ヒートテック」や「ウルトラライトダウン」など中核となるヒット商材の有無で売上高が増減する事業特性には家電メーカーと似ている面がある。
 昨年秋に、画期的な機能性と普遍的なデザイン性を備えた「究極の普段着」の研究開発を目的に「ユニクロイノベーションプロジェクト」を立ち上げるなど、モノづくりにかける意欲も高い。中国などアジア地域での大量出店で2015年には国内と海外でユニクロの売上高を逆転させる計画といい、グローバル展開のスピード感でも引けをとらない。
 収益性や成長性といった指標で見ると、ファストリと家電各社の状況は対照的。2012年3月期にパナソニックが7721億円、ソニーが4566億円、シャープが3760億円の最終赤字を計上したのに対し、2012年8月期にファストリは連結純利益が815億円と過去最高を更新する見通しだ。時価総額も1兆8000億円で、4000億円強のシャープは言うに及ばず、1兆3000億円のパナソニックや1兆1000億円のソニーをもしのぐ。
 消費者を引き付けるモノづくりでグローバル展開を目指すという方向性は共通する。ファストリと家電メーカーの明暗を分けているものは何なのか。
ユニクロはグローバル展開も加速する。上海にも大型店を開設している
 不振の家電メーカーが海外勢との価格競争や円高といった逆風に直面しているのは事実だが、経営の差が両者の業績の違いになっている面が大きいのではないかと筆者は感じている。具体的には、経営判断のスピードと合理性を突き詰めたシンプルさの有無だ。

軌道修正できるかどうか

 判断のスピードは、経営環境が悪化した時の方向転換の素早さ、と言ってもいい。
 あるファストリ関係者は「柳井は会議で店長を叱り飛ばすこともあるけど、自分が間違ったときは素直に認めて謝りますね」と話す。同社は過去にも「スポクロ」「ファミクロ」といった新業態や、野菜事業のような新規分野に挑んでは、うまくいかないと分かればあっさりと撤退してきた。
 ここ1~2年のユニクロの商品政策を見ても、方向性を誤ったと見るや素早く軌道修正するやり方が見てとれる。ファッション性を強化したかと思えば定番品重視に転換し、逆に商品を絞りすぎたといってはトレンド品を増やすといった具合に、方針はコロコロ変わる。
 柳井会長は、「頭で考えていることはほとんど机上の空論ばかりです。だから、失敗がどこに潜んでいるのかを早くつかんで修正する必要がある。大失敗したくはないですから」と話す。
 一方の家電メーカーはどうか。
 プラズマテレビの市場性に早くから懐疑的な見方があったにもかかわらず、最新鋭工場への巨額投資をパナソニックは止めなかった。シャープは大型テレビの需要を読み誤り、台湾企業に出資を仰がねばならないほど財務を悪化させてしまった。ソニーも、8期連続で赤字を計上するテレビ事業をいまだに軌道修正できないでいるように見える。
 有望な製品に経営資源を集中する判断が間違っているとは言えない。だが、テレビ事業に対して手を打つのが遅れたことが、家電メーカーの記録的な赤字の主要因であることも確かだ。
 現実に、筆者が家電メーカーについて取材する間、「テレビ事業で全盛期を築いた一部の経営トップが長く実権を握っていたせいで、方向転換ができなかった」との指摘を何人もから耳にした。

無駄をそぎ落とす力

 次は合理性に基づくシンプルさだ。もう少し詳しく説明すると、企業が中長期的に目指す方向性を示し、実現に向けて最も合理的な手段を選ぶという意味になる。ファストリの事業運営の方法には、しばしばこうしたシンプルさを感じることがある。
 例えば、ファストリが事業戦略説明会などで使うプレゼン資料が象徴的だろう。パワーポイントの無意味な美しさに労力を割くのを嫌うという柳井会長の主義もあり、同社の資料は図版や色使いは至って簡素。その代わりに、「世界一のカジュアル企業グループになる」「アジアで圧倒的ナンバー1になる」といった目的を明確に示すフレーズが並ぶ。
 こうしたメッセージは、ことあるごとに「最終的にはグローバルプレーヤーしか生き残れない」と語る柳井会長の信念を明確に反映している。こうと決めた後のブレのなさもファストリらしさなのかもしれない。
 目標設定だけでなく、実現する手段も合理的だ。それは、同社がそもそも中間流通を省略するSPAモデルで経営効率を高めているということだけではない。

 海外での事業拡大に人材が不足していると判断すれば、大学1年生でも採用内定を出し、英語を社内公用語化し、大量の外国人を採用することも躊躇しない。自社の服を世界中のあらゆる人が着ることのできる「部品」と割り切っているために、10代の若者しか着ないような流行色の強い商品には手を出さない。
 翻って家電各社を見れば、将来のビジョンについて腰を据えて考えるよりも、まずは社内のリソースを集めて急場をしのぐ収益源を確保するので精一杯という状況ではないか。リストラを進める中で、革新的な商品の登場も減っている。
 シャープが手がける60インチ超の大型液晶テレビは、国内外ともに台数シェアが数%にすぎないニッチ市場での戦いを迫られている。背景には、需要の有無は不透明でも、ボリュームゾーンの30~40インチでは利益が出ないうえ、大阪府堺市の最新鋭工場の稼働率を上げなければならないという、消極的な事情がある。
 パナソニックは、自社の製品やサービスを顧客にトータルに提供する「まるごと戦略」を打ち出している。しかしこれに対しても、「メーカー視点のネーミングで、顧客にどんなメリットがあるか伝わらない。利用者はどのメーカーの製品であろうが気にしない。良さが伝わらなければ意味がない」(電機OB)との声が上がる。
 「社内の意思決定は何につけても役員全員の印鑑が必要」、「会長と社長がメディアでの発言を巡って言い争っている」(大手家電メーカー関係者)と言った指摘も聞かれる。巨大組織ゆえの非効率さといえばそれまでかもしれないが、現状に甘んじる余裕はないはずだ。

アップルに近いのはユニクロ

 「ファストリがアップルと提携したら面白いんですけどね。だって、『ユニクロ』ってアップルっぽくないですか?」――。今春、外資系証券の小売りアナリストに、ファストリが海外のどんな企業と手を組んだらメリットがあるかについて尋ねると、こんな意見が返ってきた。
 海外展開がようやく離陸した段階の日本のアパレル企業と、世界を舞台に戦う家電メーカーを比較して考えたことはなかったため、一瞬面食らった。しかし、商品の価値を高めるためにはあらゆるしがらみを排するというシンプルな発想や、狙いを定める市場の大きさという意味では似ている面もあり、納得感もあった。東京・銀座の目抜き通りに並ぶ両社の巨大な店舗を見比べると、目指しているブランドイメージも意外と近いのかも知れないと感じる。
 アップルの提携相手としてユニクロの方がしっくりくるほど日本の家電大手の存在感が薄れているわけだ。家電メーカーは、この事実を受け止める必要がある。

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