2013年10月3日木曜日

iOS 7異説:「素人くさいアイコンをデザインしたのはだれ?」

http://japan.zdnet.com/cio/sp_12mikunitaiyoh/35033540/?ref=yj


 The Next Web(TNW)というIT系のブログに、「iOS 7が(iOS 6)とあれほど違ってみえるのはなぜ?」というタイトルの記事が出ていた(註1)。この記事の中に「新しいアイコンの多くは、Apple社内の主にマーケティングやコミュニケーション担当部門のメンバーがデザインした」という一文があるのをみて、「なるほど」と思わず膝を打ってしまった。膝を打ってしまったのは、その少し前にiOSの新しいデザインを酷評したThe Vergeの記事(註2)などを目にしていたからだが、その批判についてはいったん脇に置くことにしたい。
 このTNW記事によると、2012年11月からUI(を含む、Human Interaction)全般を見ることになったJony Iveは、社内で印刷物やウェブマーケティング関連の仕事をしているデザインチームのメンバーの力を借りて、iOS 7のルックスやアイコン用のカラーパレットを決めた後、その結果をiOSのアプリ・デザインチームに持って行き、「内側」をデザインさせたらしい(註3)。「内側」については"interior"としか記されていないが、おそらくアプリを選択し、立ち上げてからの各画面や要素のことと思われる。
 The New York Times(NYTimes)のBitsブログ(註4)で紹介されていた、Sebstiaan de Withという人物のツィートには「これ(iOS 7のデザイン)はグラフィック・デザイナーの手になるもの。インタラクション(操作)の手がかりも見つかりづらく、アイコンのつくりは極めてお粗末で、タイボグラフィーはHelveticaの使い過ぎ」という指摘(註5)があるが、この指摘と上記のTNWの話の内容とは妙に辻褄が合う。
 また、日向(ひなた)での視認性の悪さを指摘した別のツィート(註6)も紹介されているが、こちらの発言者はTwitterで主席デザイナー(Principal Designer)として働くJohn Brewerという人物だという。いずれにしても、その筋の玄人がみれば一目で「素人の仕業」とわかる代物、ということだろうか(パッケージや印刷物といったいわゆる「紙」のデザイン、あるいはパソコンモニターでの表示が中心と思われるウェブデザインの専門家を、「モバイルOS・アプリのデザインについては素人」と言い切ってしまうことには抵抗があるが、それでもやはり「勘所の押さえ方」のような部分で大きな違いが出そうなことは想像がつく)。
 長らくiOS開発部門を(半ば自治領のような形で)取り仕切ってきたとされるScott Forstall(スコット・フォーストル)の失脚が2012年の10月末。そこから数えて、多めに見積もっても約7カ月強という短期間で、ここまで大きな変更を形にしてきたJony Ive。今回の基調講演でだいぶ評判を上げたCraig Federighi(ソフトウェア・エンジニアリングの責任者:註7)との二人三脚であったにしても大したもの――まして、長い間15人~20人程度の小さなチームで仕事をしてきたとされるIveが、それまでほとんど交流のなかったiOS開発チームとの間で信頼の基盤をつくるだけでも、それなりの時間がかかりそうなことは比較的簡単に想像できる・・・・・・などと私には思えるが、いずれにしてもそんなIveの苦労がしのばれるような話といえるかもしれない。

(Jony Iveにも強い影響を与えたとされる工業デザイナー、Dieter Ramsへのインタビュー。Jony Iveは物理的な制約の少ないソフトウェアの領域で、Ramsの作品を超えるような何かを作り出さなくてはならない・・・・・・おそらくそんな「暗黙の期待感」がすでにあるはずだと私には思える)
 Jony Iveの手がけた製品(ハードウェア)と言えば、もう何年も前から「ストイック」という形容詞が真っ先に思い浮かぶようなものが続いてきている。MacBookやiMacでもあるいはiPhoneやiPadでも、「もうこれ以上削るところなど無いのではないか」と思えても、さらに薄い、あるいは軽いものを生み出し続けてきた。一部には「ユーザーによる修理のための分解・部品交換もままならないものをつくってけしからん」という批判もあるほど(註8)。色使いにしても然りで、白と黒、それにメタルシルバーという「3色使い」がずっと基本になっている(意図的にカラーバリエーションを持たせたiPod touchのような例外もあるにしても)。
 そういう無駄をそぎ落としたデザインに慣れてしまった身からすると、いまのiOS 7にみられるたいへんカラフルな、文字通り「いろいろな色で満たされた」表面の意匠というのはいささか意外なものでもあった。「善し悪し」とか「好き嫌い」とかとはまったく別のところで、そんな意外性を感じた。
 むろん、その昔カラフルなiMac(CRTモニター内蔵)をデザインしていたのもIveだから、「たまにはこういう(派手な)選択肢もあるのか・・・・・・」くらいに思って、そのまま疑問を棚上げしていたのだが、このTNW記事を読んで改めて思ったのは、iOS 7の(少なくとも今の)デザインが「Jony Iveの作品」とは言いがたいのではないかということ、そしてTNWの聞いた話がほんとうであるとすれば、そういう(分散型?の)デザインプロセスから生まれたiOS 7のデザインに「スティーブ・ジョブズが生きていれば、果たしてOKを出したか」といったことである。
 どちらも結論のない、あるいは結論を出す必要もない問いという自覚もあるので、ここでは無用な詮索はしない。その代わりに、といってはなんだが、このTNW記事の中にもうひとつ興味深い指摘があるので、ここではそれを紹介して話を締めくくることにする。
 TNWが関係者から聞いた話によると、iOS 7はいまもなお開発作業の真っ最中であり、WWDCの基調講演で披露されたのは「製作途中の作品」("work in progress")で、特に表面的な部分--アイコンや他の視覚的な部分についてはかなり流動的な状態だという。
 今回の発表をきっかけに得られた外部からのさまざまな反応を踏まえて、iOS 7開発陣が正式リリースまでの限られた時間の中で、今後どこまで大幅な変更を加えてくるのか(あるいは、加えてこないのか)。
 そして、全般に(他のモバイルOSに対する)「キャッチアップ」といわれることの多いiOS 7(註10)のさらに先に、Iveがそれこそ「Form follows function」を体現したような新しいインタラクションの形を生み出すことができるのか・・・・・・またひとつ楽しみなことが増えたと言えるかもしれない。


[Jonathan Ive talks about Mac design]
(素材の選定や製造工程にこれだけ強いこだわり、あるいは深い思考があるIveが、ソフトウェアの領域でどんなものを生み出せるのか)

註1 ・Why does the design of iOS 7 look so different? - TNW このTNW記事、内容は「関係者から聞いた話」という類いのもので、その信憑性を確かめるすべは無論ないが、それでもいかにもありそうな話で面白い。
註2 ・The design of iOS 7: simply confusing - The Verge
註3 First of all, many of the new icons were primarily designed by members of Apple’s marketing and communications department, not the app design teams. From what we’ve heard, SVP of Design Jony Ive (also now Apple’s head of Human Interaction) brought the print and web marketing design team in to set the look and color palette of the stock app icons. They then handed those off to the app design teams who did their own work on the ‘interiors’, with those palettes as a guide. ・Why does the design of iOS 7 look so different? - TNW
註4 ・Love and Hate for Apple’s New Mobile Software - NYTimes
註5 "This is iOS as re-imagined by a graphic designer. Non-obvious, undiscoverable interactions, extremely poor iconography, over-Helveticated." このSebstiaan de Withなる人物、肩書きの欄(自己紹介)には「doubleTwist (というアプリメーカーの)チーフ・クリエイティブ・オフィサー」とある。
註6 "You gotta wonder if they took their phones outside and looked at all that thin-lined icon + transparency stuff in the sunlight."
註7 ・Apple's Rising Star: Craig Federighi - WSJ
註8 ・THREE WAYS WE HOPED THE IPAD WOULD BE BETTER (BUT WASN’T) - iFixit Unsustainable Design: Apple's Perpetuation of "Throw-Away" Culture
註9 The work on design and development is still going full tilt, and what was presented this week is firmly a ‘work in progress’. We’re told, for instance, that some builds of iOS used onstage at the conference by presenters are already newer than the ones pushed out on Monday. Of the various aspects of iOS 7, the design of its icons and other visual cues are the most in flux at the moment. There are still refinements and conversations going on around them. I don’t know but would expect there to be a lot of fixes for the inconsistency we’re seeing in things like gradients and design language on the home screen. ・Why does the design of iOS 7 look so different? - TNW
註10 もっと明け透けな言い方で、たとえば「アイコンなどのフラット化はWindows Phone、Windows 8への賛辞」とか「マルチタスク画面はwebOSのもの真似、またコントロールセンターはAndroidのもの真似」などと評する声も。

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