2013年10月22日火曜日

アマゾンのジェフ・ベゾスが実行するトヨタ式改善「顧客は常に正しい」


http://www.sbbit.jp/article/cont1/27009?page=1







「改善をやっています」という企業は多い。しかし、なかには「改善」ではなく「改善ごっこ」に終始している企業も少なくない。「改善」には本当の「改善」と「改善ごっこ」の二種類がある。一体、両者を分けるものは何なのだろうか。「本当の改善」を知ることがトヨタ式改善のスタートであり、企業や組織を強くし、そして人づくりへとつながっていくことになる。
執筆:若松 義人

自分たちのサービスや仕組みを顧客に合わせる

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アマゾンのジェフ・ベゾス氏
(Photo by James Duncan Davidson
顧客からの「要望」や「苦情」を「厄介ごと」と考えるか、「改善のヒント」ととらえるかで企業のありようは大きく変わる。たとえ、その顧客の要求が「そんな無茶な」というようなものであってもだ。 

 アマゾンが正式にスタートした初日から、創業者でCEOのジェフ・ベゾスは「顧客は常に正しい」として、顧客の要望には可能な限り応えようとした。返品の期間を15日以内から30日に延長したように、顧客に合わせてもらうのではなく、自分たちのサービスや仕組みを顧客に合わせていった。アマゾンからの箱が開けにくいという老婦人からの要望を受けて、箱の設計を変更したこともある。 

 こうした変更には手間もコストもかかる。社内のあれこれを変える必要もある。しかし、ベゾスは「顧客は常に正しい」を貫くことで、改善を繰り返した。すべては顧客の信頼を勝ち取るためだった。 

 企業が改善を行う際、往々にして間違えるのは「誰のための改善か」「何のための改善か」という視点を忘れ、改善したつもりが「改善ごっこ」になってしまうことだ。 

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(※本写真はイメージです)
ある地方の病院でのことだ。その病院は患者の評判がとても良く、いつもたくさんの患者が診察に訪れ、待ち時間は2時間以上かかることが常だった。よくある光景だ。しかし、その病院の院長は患者を長い時間待たせることが嫌で、いつも「何か良い知恵はないか」と考え続けていた。病院のスタッフにも「何とかできないか」と言い続けていた。 

 やがて一つの改善が行われた。待合室に新聞や雑誌をたくさん用意して、お茶やコーヒーも自由に飲めるようにした。さらにマッサージチェアも何台か購入して、待っている間に無料でマッサージを受けられるようにした。評判は良かった。これまで何もすることがなく、ただ黙って座っているか、顔見知りと話すくらいしかなかったものが、マッサージを受けながらお茶を飲めるようになったのだから患者、特に年配の患者にはとても好評だった。 

 しかし、この改善に院長は大いに不満だった。たしかに患者の評判は悪くないが、長い待ち時間を前提にした改善は本当の改善ではないと感じていた。患者にとって本当に必要なのは長い待ち時間を快適に過ごすことではなく、できるだけ短い待ち時間でしっかりとした診察を受けることができることだ。 
 
そこで、院長は元トヨタマンのAさんに相談、待ち時間の解消に乗り出した。Aさんが最初に手掛けたのは整理整頓の行き届いていなかった事務室などの5Sであり、なぜ時間がかかるのかという真因を調べることだった(5Sとは、整理、整頓、清掃、清潔、躾のことで、トヨタ式の考え方の基礎・基本のほとんどが入っていると言っても過言ではない言葉だ。この5Sについての詳細は、次回述べることにする)。 

 トヨタ式のものづくりは「流れるようにつくる」ところにある。それに比べて病院での診察の流れはあまりにムダが多かった。流れが途切れ、診察や検査、検査から注射、そして会計といった間に何度も待ち時間が生まれ、結果として長い待ち時間へとつながっていた。 

 Aさんは5Sによってカルテなどのものがすぐに取り出せる状況をつくったうえで、カルテをトヨタ式の「かんばん」代わりにしてスムーズな流れを生み出した。結果、2時間以上かかっていた待ち時間は1時間を切るようになり、人によっては30分とか40分くらいで受付から会計までが終わるようになった。ここまでくればマッサージチェアに座っている暇はなかった。 

 トヨタ式改善で大切なのは「改善はお客さまのためにやる」であり、「真のニーズに応えるためにやる」ことだ。お客さまのためにやるからこそ改善は価値を持ち、お客さまのニーズを無視した改善はただの「改善ごっこ」になってしまう。改善に取り組む際にはどんな時も「この改善は誰のために行うのか」「この改善は何のために行うのか」を問いかける必要がある。 

「変えていいものと変えてはいけないもの」をしっかりと見極める

次に気をつけるべきは「変えていいものと変えてはいけないもの」をしっかりと見極めることだ。企業の中には改善によってコストを下げたいと肝心の「品質」や「味」「サービス」といった大切なものまで低下させてしまうところがあるが、これではたとえ改善を行ったとしても、たとえ一時的な利益にはつながっても、長い目で見れば大切なお客さまを失うことになる。 

 「品質と安全はすべてに優先する」という言い方がトヨタ式にあるが、改善にあたっては改善によって「変えていいものは何か」「絶対に変えてはいけないものは何か」をしっかりと見極めたうえで取り組むことが必要だ。たとえば、ものづくりでは「品質を維持向上させながらコストを下げていく」といった原則を守りながら改善策を考えることがとても大切なのだ。 

 こうした原理原則を踏まえたうえで改善に臨んだとしても、もちろん結果がうまくいかないことだってある。改善したつもりが改悪になるケースだ。こうした場合、たいていの企業は「元に戻す」という選択をしがちだが、トヨタ式の場合、「改善が改悪になったら、元に戻すのではなくさらに改善する」という姿勢を重視する。 

 もちろん進む方向が間違っていれば別だが、目指すところが正しければ、改悪になったからと言って安易に元に戻すのではなく、改善をやり続けることでより良いものを目指すのが一番いい。 

 「結果を出すには『ゆっくり、たゆまず』進めるしかなく、しばらくすれば楽になると自分たちをだますことはしません」はジェフ・ベゾスの言葉だが、改善という小さな一歩を細かく繰り返すことで、トヨタやアマゾンのように人はすごい場所にまで辿りつくことができる。 

 トヨタ式改善に取り組むにあたっては是非ともこうした視点、姿勢を守り続けていただきたいものだ。次回は、病院の事例で出てきた「5S」について詳しく取り上げよう。

〔参考文献〕 
1)参考文献『トヨタが「現場」でずっとくり返してきた言葉』(若松義人著、PHPビジネス新書)
2)『ジェフ・ベゾスはこうして世界の消費を一変させた』(桑原晃弥著、PHPビジネス新書)

(執筆協力:桑原 晃弥)
 若松 義人
1937年宮城県生まれ。トヨタ自動車工業に入社後、生産、原価、購買、業務の各部門で、大野耐一氏のもと「トヨタ生産方式」の実践、改善、普及に努める。その後、農業機械メーカーや住宅メーカー、建設会社、電機関連などでもトヨタ式の導入と実践にあたった。91年韓国大字自動車特別顧問。92年カルマン株式会社設立。現在同社社長。中国西安交通大学客員教授。
著書に『「トヨタ流」自分を伸ばす仕事術』『トヨタ流「改善力」の鍛え方』(以上、成美文庫)、『なぜトヨタは人を育てるのがうまいのか』 『トヨタの上司は現場で何を伝えているのか』『トヨタの社員は机で仕事をしない』『なぜトヨタは逆風を乗り越えられるのか』(以上、PHP新書)、『トヨタ式「改善」の進め方』『トヨタ式「スピード問題解決」』 『「価格半減」のモノづくり術』(以上、PHPビジネス新書)、『トヨタ流最強社員の仕事術』(PHP文庫)、『先進企業の「原価力」』(PHPエディターズ・グループ)、『トヨタ式ならこう解決する!』(東洋経済新報社)、『トヨタ流「視える化」成功ノート』(大和出版)、『トヨタ式改善力』(ダイヤモンド社)などがある。

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