2013年9月19日木曜日

「iPhone 5cは新興国向けではない、“型落ち”の5をプレミアムに仕立てた戦略製品」

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130913/504443/?k2


[シンクタンクの視点]情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員 岸田重行氏 

 

 

「アップルはiPhone 5cを新興国向けと言っていましたか? 私はiPhone 5cはものすごく考えられた戦略製品だと思っています」。こう語るのは情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員の岸田重行氏。iPhoneはあくまでもプレミアム機種であり、新興国では統計の数値に出てこないiPhoneの中古品が売れているという。この中古が、新規の需要を奪っていると捉えるのか、そもそも高い新品は売れない市場であると捉えるのかでその出方は変わってくる。アップルは後者であると岸田氏は見る。
 アップルがiPhoneを2機種同じタイミングで出したのは、今回が初めてである。もちろんストレージ容量、対応通信方式や帯域によってこれまでもモデルは複数存在したが、商品としては「iPhone 4S」「iPhone 5」といったように1年に1機種出すのが通例だった。だが、今回アップルは「iPhone 5s」と「iPhone 5c」の2機種を市場に投入した。
 iPhone 5sは64ビットCPUを搭載するなど技術的な新しさもあり、これまで通り先進層にアピールする機種であるのは論を俟たないだろう。一方のiPhone 5cは中身はiPhone 5とほぼ同じで機能的にはいわば“型落ち”。その点で“廉価版”との見方をされるが、実際は“プレミアム”である。iPhone 5sとiPhone 5cの価格差は100米ドル程度。外側を変えることでこれまでのiPhoneユーザーとは違う「新しいユーザーに訴求できる商品にしてしまった」(岸田氏)。なおNTTドコモがiPhoneを扱うことによる国内市場の変化については岸田氏が執筆した「『ドコモのiPhone』で一変する国内スマホ市場」に詳しい。以下岸田氏にアップルの製品戦略についての考えを聞いた。

情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員 岸田重行氏
情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 上席主任研究員 岸田重行氏
 今回アップルはiPhone 5sとiPhone 5cの2機種を出しました。そこで注目しているのは、iPhone 5cの“出し方”です。
 iPhone 5cについては「新興国向け」と言われていますが、アップル自身がiPhone 5cを新興国向けと言っていたでしょうか。一言も言っていないと思います。確かにアップルの売上は先進国に偏っていて、商品の単価は高いと言われる。そこで「Androidを搭載する安価なスマートフォンが新興市場で売られていて、そこにアップルは入れていない。そこに参入しないとこれからの成長戦略が描けないんじゃないか」と周囲が勝手に解釈している。
 もちろん一面ではそうしたところはあるでしょう。ただ、アップルがアフリカ向けに100ドルiPhoneを出しました、といってそれが今本当に売れるかは疑問です。そうした新興市場では、既に「iPhone 3G」や「iPhone 4」の中古品が流れていて、現地の方が購入できる値段で売られているわけです。もちろんそれらは以前アップルが携帯電話事業者を介して売った端末です。
 アップルの製品が、中古車のように何代にもわたって広がっていっているわけですよね。その市場のGDPや個人所得が将来的に上がれば、価格の高い新品が売れるかもしれません。アップルは高付加価値、高価格のマーケットで強さを見せています。強いブランド力があって、商品力があって、例えば部品コストは200ドルだけど、600ドル、700ドルと付加価値をつけた価格で売るわけです(編集部注:携帯電話事業者が各種キャンペーンなどによる割引を適用することで、ユーザーから見ると一見安く見える。今回のiPhone 5c、iPhone 5sの“実際の価格”は5万円台から8万円台)。そのビジネスは今の新興国市場には当てはまらない。


iPhone 5cは新たなユーザー層に訴求する

米アップルのiPhone 5c。5色展開する
[画像のクリックで拡大表示]
 アップルは今回初めて同じタイミングで2機種を出します。これまでは1年間に新製品を1機種出すのがアップルの通例です。これまでの路線で言えば、iPhone 5sがその新機種に該当します。一方のiPhone 5cは外装は違いますがその中身はほぼ「iPhone 5」です。
 アップルはiPhone 5を作り続ければ今までの設備で新しいラインを作らず済むわけですよね。それはそれで商品力があるから売れる。それでもiPhone 5sが出た後では“型落ち”ではあるんです。今回iPhone 5cは中身は“型落ち”ですが、それを新商品に仕立てている。もちろんこうした例は普通にやられていることで、例えば自動車の場合、プラットフォームは同じ、車台は同じで、外側だけ変えるといったことをしてきたわけです。スマートフォンの世界ではあまりやられてきませんでした。
 ただiPhone 5cは“型落ち”であることをまったく見せず、違うマーケットを作るかのようなデザインを取り入れ、新しさを出している。iPhone 5sは部材の調達なども新しい製品なので、量産が軌道に乗らないこともありえますが、iPhone 5cの中身は既にある部材を使った製品です。それを新しい商品に仕立てて、“型落ち”でも違うマーケットに訴えかけてしまった。
  iPhone 5cはカジュアル感があるため、これまでより広いユーザー層に訴えられると思います。中身を変えずに外側を変えて、違うバージョンではなく新商品として出す。アップルという会社は人の感性に訴えかけるのに長けた会社だと思います。
 iPhone 5sは技術的な先進性もあって、先進層に“響く”商品です。そしてiPhone 5cという選択肢が増えた。Androidは各メーカーが製品を出すことで、選択肢を増やしてきましたが、アップルは自ら選択肢を用意しました。今後、選択肢の多さということからAndroid搭載機を選んでいた層をiPhoneが奪うこともあるでしょう。

中古でもApple IDを使ってサービスを利用してもらえる

 新興市場に話を戻すと、そこにはたとえ中古市場ではあっても、アップルが存在する世界が既にあるわけです。その市場に「iPhone 4Sが流れればそれでいいや」くらいにアップルは思っているのではないでしょうか。
 中古市場が新品の“需要を食っている”と捉えるのか、「そもそも高い製品は売れないんだから、今は中古品にまかせる」と考えるのか。中古市場をどう捉えるかは重要です。各種調査会社の販売台数の数字には中古品は入ってこないので見えてこない部分ですが、世界的には中古の市場は大きい。
 iPhoneの下取りに関して日本の携帯電話事業者も始めています。それをアップルが買いとるのかどうかは分かりませんが、自動車の世界では「新車を買う際に下取りもする」のが一般的です。ブックオフが中古の携帯電話やスマートフォンを買い取るといった例もあります(関連記事)。
 新興国の場合、多くのユーザーは携帯電話事業者のデータ通信料金が高いため、無料の無線LANスポットで使うわけです。アップルからすればiPhoneが中古品であっても、そこでApple IDを取得したユーザーが、アップルのサービスを使うような状態になればいいわけです。ネットワークにさえつながっていれば通信事業者も関係ありません。
 新興国市場について言われることは、韓国サムスン電子やLGエレクトロニクスには当てはまるかもしれませんが、ことアップルに関しては当てはまらない議論で、そもそもやっている商売が違うと思います。こうした点から見ても、iPhone 5cが新興国向けではないことは分かりますよね。(談)

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