2013年9月19日木曜日

iOS 7がフラットデザインを採用した理由、「既存のメタファーでは表現できない時代に」

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20130913/504446/?mle


[デザイナーの視点]コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクト 長谷川敦士氏、代表取締役/プロデューサー 上原哲郎氏

 

iPhone 5c/5sが当初から搭載し、18日から順次各国での公開が始まったiOSの新バージョンである「iOS 7」。そのデザイン上の特徴の一つが「フラットデザイン」である。従来のiOSは、そのアイコンデザインなどがリアルに存在する物のメタファーで構成されていたが、iOS 7ではシンプルさが際立つデザインとなった。
 この背景として、UX/UIの専門家であるコンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士氏は「デジタル化が当たり前になり、既存のメタファーだけで表現するには無理が来ている」と述べる。長谷川氏、そして同じくコンセント 代表取締役/プロデューサーの上原 哲郎氏の二人にiOS 7で何が変わったのかを聞いた。

コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士氏(右)、同 代表取締役/プロデューサーの上原 哲郎氏
コンセント 代表取締役/インフォメーションアーキテクトの長谷川敦士氏(右)、同 代表取締役/プロデューサーの上原 哲郎氏
 まずiOS 7を“ぱっと”見たときのデザイン、従来のiOSとの違いは、一般的には「フラットデザインになった」と言われています。では「フラットデザインとは何か」ということですが、従来のiOSの場合、一つひとつのアイコンのデザインが例えば「写真」のアイコンは写実的なひまわりであり、「カレンダー」は実際の日めくりカレンダーのようなデザインになっています。「App Store」のアイコンにしても立体感があった。
iOS 7は“フラットデザイン風”
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 それがiOS 7になると、「写真」は抽象的な模様になり、「カメラ」は写実的なレンズのアイコンから平面なカメラアイコンに変わった。見た目のリッチさ、表面的なリッチさがなくなったものがフラットデザインと言われています。

なぜ「スキューモフィズム」から変わったのか

 もう少し正しく言うと、iOS 7のデザインは“フラットデザイン風”と言えます。ユーザーインタフェース(UI)の細かい話になりますが、「スキューモフィズム」という考え方があります。これは現実の比喩でUIを作るということ。例えば、UNIXでは「delete」とコマンドラインで入力すればいいところを、MacOSでは「ごみ箱」にファイルを“捨てる”といった操作をします。こうしたことも含んだ考え方です。
 現実の比喩でインタフェースを作るのがスキューモフィズムです。iOS 6まではアイコンのデザインや、アプリを立ち上げたりしたときのデザインとして、スキューモフィズムを重視していました。


 スキューモフィズムの背景ですが、元々コンピュータは、現実に近づけることで使う人に分かってもらう、という考え方あった。例えば電子書籍は木目調の本棚にないとその概念が伝わらない、日めくりカレンダーを見るとカレンダーを連想する、コンピュータに不慣れな人からすればゴミ箱の方が実際の書類を捨てることに近くて分かりやすい、というところから始まっています。
 とはいえ今はデジタル化が成熟し、もともとメタファーにしていたものが、それを比喩として使う必要がなくなっているという現状があります。コンピュータの中でメールは独自の進化をしており、必ずしも昔のメタファーで説明する必要がなくなりつつあります。
iOS 6の「Newsstand」
iOS 6の「Newsstand」。スキューモフィズムの例
木のテクスチャや質感がコンテンツを受け取る人にとって、もはや余計な情報になってしまっている
 昔のメタファーに“引っ張られる”ことで、写実的で過剰になってしまうと、そのもの自体の視認性は下がってしまいます。例えば「Newsstand」の木のテクスチャや質感は、いまや余計な情報になってしまっています。それを受け取る人にとっては、見たいのはその中のコンテンツです。コンテンツを識別できるようなラインが引いてあればいい。今業界全体が、不必要な写実的な概念を捨てるという方向にシフトしてきています。
 例えば電子書籍は以前であればページをめくる時、“裏写り”がどれくらい入るかといったところの表現にしのぎを削っていました。ただ、電子書籍で出すことが前提になると、紙の本のメタファーである“裏写り”ではなく、いかにテキストがスムーズに読めるかが重要になります。
 現実がメタファーを追い越したというか、そうしたUIの世界が、これまでの現実の真似ではなく、新しいオリジナルのポジションを築くようになっている。そういうことがあり、既存のメタファーだけで表現するには無理が来ていた。


スキューモフィズムからの脱却をiOS 7で体現

 そのことはかなり気付かれていて、ここ数年でどっと新しいUIが出てくる要因になっている。米グーグルもアプリの中でフラットデザインを採用しています。ただ、そうは言っても、使う人にとってどこがボタンか分からない、といったことも起こり得ます。
iOS 7の「電話」と「メール」のアイコン
iOS 7の「電話」と「メール」のアイコン
フラットにはなっているがiOS 6のアイコンを継承している
 例えば「電話」のアイコンはiOS 7になっても受話器の格好をしていますし、「メール」も封筒のデザインを継承しています。アップルもこれまでのiOSのユーザーを捨てるわけではなく、iOS 7はiOS 6からの正常進化でもあるので、そのまま使っていたり、継承している部分もあります。まったく違うものになると誰も分からない世界になってしまうので、自分自身を模倣し、単純化している側面もあるかもしれませんね。
iOS 7を搭載するiPhone 5s
全体的にはフラットな印象だが、立体的なUIも存在している
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 そういう意味で、「完全なフラットデザインの世界にする」「100%フラットデザインで徹底する」と頑固になっているわけではなくて、既存の延長でありながら、フラットデザイン的要素を取り入れている。「こんなのフラットデザインではない」と言う方もいますが、アップルは新しいデザインの潮流、スキューモフィズムの世界からの脱却をiOS 7で体現しているのだと思います(談)。

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