2013年6月6日木曜日

次世代広告コミュニケーションのキーワード「ブランデッド・コンテンツ」って、いったい何だ?


スマートフォンやタブレットなどの普及にともない、モバイルシフトが進むにつれて、広告のカタチが変わりつつあります。これまでの枠組みにはめ込まれた広告のままでは、もはや企業のメッセージは消費者には届きづらくなっています。現代の消費者に受け入れられる広告のカタチとはどのようなものなのでしょうか?この連載では次世代広告コミュニケーションのキーワード「ブランデッド・コンテンツ」「ネイティブ広告」について迫っていきます。第1回目のテーマは「ブランデッド・コンテンツとは何か」について佐藤達郎氏に解説していただきます。

2001年カンヌ国際広告祭におけるブランデッド・コンテンツの芽吹き

 2003年6月のカンヌ国際広告祭の審査は、揉めに揉めていました。どの部門にも収まりきらないが、素晴らしすぎるある作品をめぐって、意見が百出していたのです。そのある作品とは、2001~2002年にかけて制作されウェブで公開された、BMWフィルムズと呼ばれる作品でした。
 このBMWフィルムズは、通常のテレビCMを制作してテレビで放映するのをやめて、その予算をすべて、ガイ・リッチー、ウォン・カーウァイら有名監督7人による7本のショートフィルムを制作することに使用したものでした。20数億円の予算のほとんどは、マドンナ、ミッキーロークなど大物も出演したショートフィルム制作費と、そのショートフィルムのPRに使われたのです。
 そしてそのBMWフィルムズは、公開開始の2001年4~12月で1,400万回も見られました。そしてサイトから「友達に知らせる」バイラル・メールが300万通送られるという、当時としては目覚ましい結果を残したのです。
 カンヌ国際広告祭では結局、真に革新的な作品/施策に与えられる新しい部門(チタニウム部門)がその場で創設され、BMWフィルムズは初代の受賞作に選ばれました。テレビCMと比べることも出来ない、サイバー部門と呼ばれるウェブ部門でバナーと比較することも難しい、今までの部門分けには収まりきらない「真に革新的な広告コミュニケーション」ということになったのです。
 10年前の広告界において、BMWフィルムズがいかに「革新的」であったかを伺い知ることの出来るエピソードです。ちなみにチタニウム部門を創ったのは良かったのですが、真に革新的な作品/施策はそう簡単には現れず、次年度から3年にわたって“グランプリ該当作なし”が続くことになりました。
 私が知る限り、「ブランデッド・コンテンツ」という言い方を、ポツポツと耳にし目にし始めたのは、このBMWフィルムズ辺りからです。

「ブランデッド・コンテンツ」って、いったい何だ?

 では、「ブランデッド・コンテンツ」とはいったい何を指すのでしょうか?簡単に言ってしまえば、「従来の広告という枠」を越えて、なんらかの“コンテンツ”を企画/制作/実施すること、またはその作品/施策です。たとえば、ブランドの価値を高めるために、ソーシャルで話題化されるバイラル・フィルムを作成したり、また夕方のテレビ・ニュースで取り上げられるイベントを仕掛けることもブランデッド・コンテンツと言えます。
 “ブランド”も“コンテンツ”も、よく耳にする言葉ですが、その実態をつかみにくい言葉ですよね。ましてや“ブランデッド”と変化されると、どういうことを指しているのか、どうにも分かりにくいと感じてしまう方が、多いのではないでしょうか。
 私は、今から5年前、2007年12月の日本広告学会全国大会で『クリエイティブの、フロンティアを探る~“広告クリエイティブ”から“ブランデッド・コンテンツ”へ~』と題した発表を行ったのですが、まずは、その時の定義をここでご紹介しましょう。
 ブランデッド・コンテンツとは、「その表現自体が、コンテンツとしての魅力を持ち、なおかつブランドのメッセージをドライブする役割を果たしているもの」あるいは「ブランドのメッセージをドライブする広義の意味でのコンテンツ」です。(この場合の“ドライブする”は、“促進する”といった意味合い。)
 この定義は、どこかで調べて来たものではありません。欧米のカンファレンスで耳にしたり、英語の会話に出て来るニュアンスを、私なりにまとめたものです。
 そもそも、この手の業界用語を定義するのは簡単ではありません。まだ一般化しきれていない新しい動きについては、暫定的に名付けてみて、そうしたら一定数の人が使い始めるというケースが多いのです。だから「どの定義が正しいのか?」と考えずに、「どんな意味合いで使われるのが一般的なのだろう?」という風に考えて、言葉そのものよりも、それが指す中味、それが指す傾向をつかんで、自身の業務にどのように活用できるかを考えることをお勧めします。

 ここ数年の「ブランデッド・コンテンツ」という言葉の使われ方も、まだ一般化しきれていない新しい動きに「そう名付けてみ」たら、使う人が増えて来たという状況だと思います。2007年時点では、打合せでこの言葉を出してもピンと来ない広告代理店のスタッフが多数いました。それがここ2~3年では「いわゆる広告じゃなくてさ、ブランデッド・コンテンツみたいなものも、提案しようよ」みたいに、普通に使われるようになりました。
 “ブランデッド”は、簡単に言えば、“ブランドによる”と考えれば良いでしょう。あるいは、“ブランド化した”とか“ブランドのメッセージを込めた”というニュアンスもあります。“コンテンツ”は、辞書的に言えば、書物や記事の内容物・中味となります。一般的に言えば、書物・記事・映像・ゲームソフトなど、幅広い意味での“企画され実施された事柄一般”くらいの意味と捉えられるでしょう。

モバイルシフトによりブランデッド・コンテンツが一般化した

 「ブランデッド・エンタテイメント」という言い方は、ご存じでしょうか?2003年頃、BMWフィルムズのような作品は、そう呼ばれていました。実際、それまでは、ミッション・インポシブルにSONYのバイオが出て来るとか、007にアウディが出て来るとか(これらは、プロダクト・プレイスメントと呼ばれます)、ブランドのために映画に代表されるエンタテイメントをどう活用するか、という狭い視点で語られていました。BMWフィルムズも、発想としてはその延長線上にあるわけです。
 しかし、ソーシャル・メディアやデジタル・デバイスの発達により、“エンタテイメント”という言い方では、つかまえ切れない事例が出てくるようになりました。ツイッターやフェイスブックを活用した施策だったり、プロジェクション・マッピングを用いたイベントだったり、ネット×屋外広告だったり、読者の方も思い浮かぶのではないでしょうか。そこで、より広い範囲を指す言葉として“コンテンツ”が使われるようになり、いまでは「ブランデッド・エンタテイメント」よりも「ブランデッド・コンテンツ」という言い方の方が一般化したということでしょう。
 しかし、今でもエンタテイメントという言い方も一部では使われています。欧米のメガエージェンシーは、例えばJWTエンタテイメント、Ogilvy&Mather エンタテイメント、Wieden&Kennedy エンタテイメントなど、この分野の子会社や部門を持ち始めています。
 冒頭でご紹介したカンヌ国際広告祭(現在はカンヌ国際クリエイティビティ祭に改称)では、2012年に15番目の部門としてブランデッド・コンテンツ(&エンタテイメント)部門が創設されました。ここでは、コンテンツという言葉とエンタテイメントという言葉が並列で使われています。
「ブランデッド・コンテンツ(&エンタテイメント)の定義は、ブランドによるオリジナル・コンテンツの制作、あるいは、既存のコンテンツとの自然な統合だ。その目的は、伝統的な広告の手法を使わずに、ふさわしいコンテンツやプラットフォームを通してコンシューマーとエンゲージし、ブランドのメッセージを伝えることにある。」
 上記はこの部門の紹介文の一部です。わりとわかりやすいですよね。

消費者に受け入れられる広告の秘訣はブランデッド・コンテンツにある

 こうした「ブランデッド・コンテンツ」が注目される背景には、Ad Avoidance(アド・アボイダンス)つまり「広告を避けようとする消費者の傾向」の強まりがあります。そこに、ソーシャル・メディアやデジタル・ディバイスの発達という要素が加わって、いまや、「ブランデッド・コンテンツ」的な作品/施策へのチャレンジは、さまざまな企業によって日常的に行われています。
 次回は、「ブランデッド・コンテンツ」が注目されるようになった背景についてを中心に、引き続きこの話題をお送りします。ご期待ください。

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