2014年5月15日木曜日

値付けで分かれた牛丼「御三家」、初陣の意外な勝者

http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20140513/264497/?n_cid=nbpnbo_mlp&rt=nocnt


第2幕の焦点は吉野家が仕掛ける“夏の鍋”の売れ行き?

 

3社揃って前年同月割れ──。4月の消費増税に合わせて、値上げと値下げとに分かれて注目を集めた牛丼チェーン3社の価格戦略。今月7日に出揃った4月の実績は、3社とも前年同月の実績を下回った。
 消費税率が引き上げられる前、3社の牛丼並盛りの価格は280円で横並びだった。それを吉野家ホールディングスの「吉野家」は20円値上げして300円とし、松屋フーズの「松屋」も10円引き上げた。一方、最大手のゼンショーホールディングスが展開する「すき家」は10円の値下げを断行し、客数の確保を狙った。
4月から牛丼を値上げした吉野家。4月半ばからは、熟成期間を延長した牛肉を使った新牛丼の展開を開始。3月の発表会では、吉野家の安部修仁社長が品質アップの意気込みを語った

数字上は吉野家の下げ幅が大きいが…

 4月の実績を詳しく見ていくと、吉野家の既存店売上高(速報)は、前年同月比で3.3%の減少。客単価は上昇したが、既存店客数が同9.2%減ったことが響いた。昨年4月以降、同年9月を除いて既存店売上高で前年同月の実績を上回っていたものの、ここに来て業績拡大にブレーキがかかった形だ。
 すき家は、既存店売上高が同1.4%減、既存店客数も同4.8%減った。松屋も既存店売上高が同0.2%減、既存店客数は同4.4%減となり、数字上は吉野家の下げ幅が大きく見える。
 ただ、吉野家の大きな下げは、価格の値上げに伴う客離れというよりは、前年同月の客数増の反動によるところが大きい。同社は昨年4月18日、牛丼の定価を最大100円値下げする新価格を導入。客数が大きく伸び、昨年4月は2012年比で13.6%のプラス(既存店)に達していたからだ。
 実際、今年の4月1日から4月17日までの期間で集計すると、客数、売り上げともに前年同期比2桁増と好調を維持。また4月全体でも、2年前(2012年)の同月と比べると、今年は売り上げ、客数、客単価がいずれも増加している。復調傾向は継続していると考えられる。
 “牛丼御三家”の中で唯一、「お得感を出して集客力を高める」(ゼンショーホールディングス)と値下げを断行したすき家も、先に記したように客数を伸ばすことはできなかった。同社は昨年4月に牛丼価格を30円値引きするキャンペーンを投入しており、「反動が出た」(ゼンショー)としているが、「もう少し客数を伸ばしたかった」(同社)というのが正直なところだろう。

 

吉野家に比べて並盛りで30円も安いが、客数の拡大効果は限定的といえる。松屋もゼンショーと同じく、前年同月比割れは「昨年の大規模なキャンペーンの反動」(松屋フーズ)と分析する。ただこの2社は、前年同月だけでなく2年前の同月と比べても既存店売上高と客数が減少。特に松屋の下げ幅は大きく、集客力の底上げが急務だ。
 昨年4月に各社は値下げや割引キャンペーンを展開したため、今回の既存店の売り上げ実績から増税における価格改定の影響は実は読み解きにくい。ただし、値下げしたすき家が必ずしも好調でないことを考えると、牛丼の価格差が従来ほど客足に影響していない可能性は高い。そうなると、商品力が今まで以上に勝負を左右することになりそうだ。

吉野家は、ポスト「鍋」に注力

 昨年12月に吉野家が投入したことで火が付いた牛すき鍋膳などの「鍋」メニュー。高価格帯ながら多くの消費者に受け入れられて同社の好調の一翼を担ってきたが、気温の上昇に合わせて勢いを失いつつある。夏場に向けて次のヒットを生み出せるかが重要だろう。
 吉野家が狙うのが、鍋と同じ機材を使う“焼き”だ。
 吉野家は4月以降も好調につき鍋メニューの展開を継続。加えて、全国数店舗で鍋で肉と野菜を炒めた新商品「牛バラ野菜焼定食」をテストしており、季節に合わせた“鍋メニュー”を模索している。「商品内容やオペレーションを含めて試作を繰り返しており、本格導入は未定」(吉野家)というが、鍋需要が落ち込むこれからの季節の新たな目玉として展開できれば、他社との差別化が見込める。
吉野家が数店舗で試験提供中の「牛バラ野菜焼定食」。昨年12月に投入した「牛すき鍋膳」などと同じ、固形燃料に火を付けた状態で提供される
 一方、すき家では4月に入って鍋商品の提供を一時終売。同社では労働環境の悪化などによって人材確保が困難になり、その一因として仕込みに手間のかかる鍋メニューの導入を上げている。セントラルキッチンなどを組み合わせて現場でのオペレーションを簡略化できるかどうか検討しているものの、鍋商材の再展開や新商品の投入は一筋縄ではいかなそうだ。

店内設備の効率改善に向けたリニューアルを進めてはいる。しかし、工事作業員の人手不足やアルバイトの採用難により、一時閉店がいまだ続く店舗も多い。6月には全国に7つの運営会社を置く「地域分社化」への移行も予定しており、今は「足場固めの時期」と同社は語る。
すき家は、人手不足によって一部店舗の時間帯休業などの措置を取っているほか、全国167店舗で営業を一時休止してリニューアル工事を実施している
 松屋も一部店舗で限定導入をしていた鍋系商品の展開を既に終了。「山形だし牛めし」「味噌漬け牛カルビ定食」「筍牛めし」など、多数の新商品を投入してはいるが、鍋系商品に関しては、「機材の確保やオペレーションの統一が難しかった。次の冬に向けて再度導入を検討している」と消極的だ。

増税ショックの見極めは時期尚早

 野村証券グローバル・リサーチ本部の繁村京一郎エグゼクティブ・ディレクターは「5月以降の数字で各社の戦略に対する消費者の本当の評価が見えてくる」と語る。今後の業績にますます注目が集まる。
 ただ、「鍋」の投入や牛丼の品質向上など、昨年から今年4月にかけての牛丼市場のトレンドは吉野家が主導して作ってきたと言える。同社は値上げによる大きな客離れも起こっておらず、増税ショックをひとまずは無難に乗り切ったと言えそうだ。
 「増税後の可処分所得の低下によって、外食への支出を減らす動きが今後顕在化する可能性がある」(大手外食チェーン幹部)という慎重な声も多く聞かれる中、復活基調を維持できるかどうか。鍋効果が切れる前に、「夏の鍋」でヒットを出せるかが大きなカギになりそうだ。

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