2013年4月10日水曜日

大手もかなわない「北海道No.1コンビニ」の秘密 セイコーマート、「顧客と向き合う」本質とは?

 

大手もかなわない「北海道No.1コンビニ」の秘密セイコーマート、「顧客と向き合う」本質とは?


北海道に、他に類を見ないコンビニエンスストアがある。日経MJの調べによれば、北海道での店舗数は全国展開するコンビニ大手より多く、サービス産業生産性協議会の調査では顧客満足度がコンビニ業界で最も高い。
 セイコーマート――。
 「その名を知らない北海道民はいない」といわれるほど、地域の生活に溶け込んでいる。コンビニといっても、都会や都市郊外だけのものではない。北海道にある179市町村のうち94%、ほぼくまなく全道をカバーするこの店は、他のスーパーや食料品店が不採算を理由に撤退してしまった人口減少地域や、離島にまで出店している。住民の生活を支えているばかりでなく、企業としても高い利益を上げているという。
セイコーマートの業績と店舗数の推移
 このユニークな企業の秘密は何なのか。ここにマーケティングの本質を見極めるための何かヒントがあるのではないか。

「企業経営はマーケティングそのものだ」

 札幌にある本社で、取材に訪れた私たちを出迎えてくれた丸谷智保社長は、開口一番にこう切り出した。
 「社長としての私の仕事、企業経営はマーケティングそのものなんです」
 セイコーマートの店舗に足を踏み入れると、この言葉が形だけではないことがすぐに分かる。まず、入り口の脇に大量に陳列されているワイン。酒屋でもこれほどのものはそうそうない、と思われるその種類の豊富さに目を奪われる。ボトルを手に取ってみると、そのほとんどに500円の値札がついている。「500円ワイン」と称される看板商品の一つだ。
全社マーケティングを率いるセイコーマーの丸谷智保社長
 山積みされている売り出しのクロワッサンには、「店内で焼きました」の文字。店を奥に進めば、惣菜コーナーが待っている。チルドの棚に惣菜が並んでいる風景なら、どこのコンビニでもおなじみだろう。しかし、この店では様子がまるで違う。
 まず、数が極めて多い。常時60種類以上を販売しているという。コンビニでよく見かける縦型のチルド棚だけでなく、広々としたストッカーに所狭しと並べられている。立ち止まって一見しただけでは、すべてのメニューを見渡すことができないから、どれがいいかと歩き回りながら選ぶことになる。


 目についたものを次々と手に取ってみる。その値段のほとんどが100円だ。各種サラダに煮物、あえ物、卵焼き、コロッケ、焼き魚まである。そこには数種類のパスタもあり、こちらも値段は100円。主食として十分と思えるほどの量が入っているから、パスタに加えてサイドメニューを3種類選んでも500円でお釣りがくる。
 そして店の一番奥。「とんかつ弁当出来たてでーす」という店舗スタッフの声が響く。「ホットシェフ」という赤い看板が掲げられたこの一角の光景が、コンビニとして最も風変わりかもしれない。
 店内でお弁当や惣菜の調理をし、出来たてのものを提供するシステムをとっている。フライドチキン、フライドポテトといった定番メニューが次々に作られ、順次、保温棚に並べられる。お昼時にはこのコーナー目当てに長蛇の列ができるほどの人気コーナーである。
 店内をくまなく見渡してみると、ほかにも様々なユニークな特徴に目がとまる。まず、生鮮品の品ぞろえが多い。野菜や果物が豊富だ。そして、多くの乳製品や飲料、加工食品に「セイコーマート」ブランドが付いている。
 プライベートブランド(PB)商品(セイコーマートではグローバル基準に倣って「リテールブランド」と呼ぶ)自体はコンビニとして珍しくはない。が、製造ラベルを見ると、地元のメーカーがほとんどだ。北海道の店舗に置かれているPB商品といっても、全国チェーンのコンビニでは地元で製造するわけではないから、これもセイコーマートの特徴の一つと言えるだろう。
 それだけではない。後に述べるが、このリテールブランド商品は一見しただけでは分からない、他のコンビニとは異なる性格を持っている。
 これが顧客満足度を押し上げ、収益を高めてきたセイコーマートの店舗風景だ。一体、この独特の店は、いかにして出来上がってきたのだろうか。
 それに答えるキーワードとして、丸谷社長がまず掲げるのがマーケティングだ。徹底した顧客志向、生活者志向ということだ。

顧客を「三次元」で捉えるという発想

 マーケティングを重視する理由。それは企業の成り立ちとして彼らが、顔が見える顧客を相手にしてきた、あるいはそうせざるを得なかった事情がある。
 北海道の人口は約550万人、全国の約5%だ。市場の広さは限定されている。その人口も減少傾向にあり、経済の規模的成長を企業戦略の前提にすることはできない。セイコーマートは、ここからいわゆる逆転の発想をする。550万人の人口規模、19兆円の経済。同水準の規模の国は、欧州ならざらにある。いたずらに展開エリアを広げる必要はない。
 丸谷社長は、顧客を二次元でなく「三次元」で捉えると言う。顧客と店舗の関係を平面的に考えるのではなく、そこに“深度”を掛け合わせるということだ。550万人に毎日来てもらえれば、年間来店客数は延べ20億人という計算になる。
実際に来店しているのは延べ2億3000万人。すなわち自社が現在カバーできているのは12%にすぎない。顧客と向き合い、そのニーズを満たすことができれば、まだまだ来店してもらう余地があるとも考えられる。実際、地域によっては2000人の人口のうち毎日600人が来店し、それによって限られた後背地にもかかわらず、十分に採算が合っているという事例もある。
 顧客と徹底的に向き合い、顧客が毎日来店してくれるために何をすればよいかを追求する。その結果、現在のような独自の店舗が生まれたというのだ。
 なるほど、といったんはそれに納得する。だが考えてみれば「顧客と向き合う」という概念は、多くの経営者が口にする方針でもある。流通業ならなおさらだ。セイコーマートの置かれた環境が、他社にないほどそれを本気にさせ、実行させた。そんな理由だけで、ここまで比類ない、非連続的とも言える進化を説明できるものだろうか。ほかに秘密はないのだろうか。

マーケティング起点によるバリューチェーンの組み替え

 前述の100円惣菜や100円パスタを例に、セイコーマートにとって顧客と向き合うとは、どこまで突き抜けた発想と実行を伴う必要があるのかを探っていこう。
セイコーマートの代名詞とも言える「100円惣菜」
 「北海道産イカゲソザンギ」「いくらの醤油漬け」といった惣菜に加えて、100円で買えるパスタも数種類そろっている。「100円パスタ」という発想自体がユニークだが、セイコーマートにとっては自然なことだという。生活者の視点に立ってみれば、カップ麺が100円で買えるのだから、パスタも100円で買えていい。そう考えるのがセイコーマート流だ。
 ただ、言うは易し行うは難し。これだけの種類の惣菜をすべて100円で売るという特異な発想を、どのようにして現実のものに変えていったのか。
 一つのポイントは、コスト低減という視点。逆にもう一つは、限定的なコストという前提の中で、いかに付加価値を創造するかという点である。
 コストカットについては、分かりやすいだろう。企業にとって一般的な課題でもあるからだ。ただし、「コストカットをあらゆる場面で徹底する」「できるだけ製造や仕入れのコストを削減し、他社よりもコストパフォーマンスを上げつつ利ざやを稼ぐ」という発想からは、おそらく100円惣菜は生まれなかったに違いない。
 非連続的な進化、従来の商品作りの前提を大きく逸脱するような発想を実行するには、積み上げ型ではなく目的志向型の判断が必要になる。そこには、「顧客にすべての惣菜を100円で届けたい」という強い信念が、経営全般に行き渡っていなければならない。マーケティング起点での、投資を伴うバリューチェーンの組み替えと言ってもいい。同社の場合、具体的にはパッケージの製造ラインの大胆な変更と、原料の自社生産あるいは直接仕入れによる中間コストの削減があった。
 惣菜の価格を100円にするには、まず容器や包材のコストが大きな壁になった。通常、惣菜にはトレーの上にプラスチックの固いフタがあり、さらに密封のためにその上からシーリングを施してある。この方法では、どんな工夫をしても100円で売ることはできない。そこで発想を飛躍させ、フタをやめて直接トップシールにするという大胆な変更に踏み切った。結果、コストは大幅に下がり、100円惣菜の実現に大きく近づいた。
 フタをやめてシーリングにするという発想は、それが結局は生活者にとって価値になるという見極めがなければ実行できない。製造部門のコストカット、という個別の努力からは生まれにくい発想だ。マーケティング発想で製造ラインを見直すという全社的判断が、それを可能にした。
 自社生産あるいは原料の直接仕入れによるコストコントロールも同様だ。セイコーマートは自社グループで農業生産法人を抱えているのに加え、北海道内の6つの漁港にセリ権を持って海産物を直接調達している。中間流通を省くことでコストが削れるというのが、まずはその効用だ。
 もう一つ興味深い発想は、調達価格をほぼ一定にできるという点だ。だからこそ、売価を100円に固定するという経営判断が成り立つ。
 生鮮食料品は一般に、相場によって価格が乱高下する。常に一定の値段で買い続けるのは難しい。素材のすべてではなくとも一定量を自前で供給できれば、市況に左右されにくくなる。それが、品質と価格を両立することにもつながっているというわけだ。

生産と販売の現場をつないで価値創造

 それがなければ、常時40種類以上の惣菜を100円で提供し続けるというマーケティング戦略は、机上のものに終わっていただろう。ここにも顧客指向、すなわちマーケティング起点で農業法人や生産加工会社に投資し、バリューチェーンを再構築するというセイコーマートの経営の在り方が見えてくる。
 だが、それだけではない。自社で一次産品の生産にかかわれば、いち早くつかんだ旬で安価な原料の動きを商品そのものに反映できる。メニュー価値を上げるため、やみくもに新たな惣菜の種類を増やそうとすれば、ただちに素材の調達コストに跳ね返ってくるだろう。だが、豊富な材料をタイムリーに使いこなせば、100円でも常に魅力的なメニューバリエーションを提供できることになる。コストカットの側面だけでない「価値創造」の観点である。
 典型的な例を、次回、ご紹介しよう。



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