2013年11月18日月曜日

グーグルが建設する海に浮かぶビルの正体 海上に浮かぶビルの目的は?

http://toyokeizai.net/articles/-/24254


オークランドとサンフランシスコを結ぶベイブリッジの間にある人工島トレジャーアイランドに今、不思議な艀が接岸している。グーグルが巨大な4階建てのビルを建築しているのだ。
突如出現したこのビルに関し、米メディアが10月から報道合戦を繰り広げている。はたしてこの高さ15メートル、長さ76メートルの水上建築物は、グーグルが特許を持つ水に浮かぶデータセンターなのか、あるいはグーグルグラスを売るための巨大店舗になるのか。それとも、話題作りのためパーティ会場なのだろうか。
騒ぎを受けて、グーグルの広報部は11月6日、トレジャーアイランドでの建設プロジェクトに関し、「人々が双方向で新しい技術を学べる場所にする」とニュースリリースを発表した。
しかし、グーグルは使用目的を具体的には述べていない。グーグルはカリフォルニア州サンフランシスコ湾保全開発委員会に何度も足を運んで認可要請をしているというが、詳細は明らかにしていない。まだ建築の初期段階であり使用目的は変更の可能性がある、とニュースリリースは結んでいる。
グーグルは同時に、東海岸のメーン州ポートランドでも同様のビルを作っていると発表した。メーン州に浮かぶ同じ4階建ての艀はもともと、コネティカット州ニューロンドンで建設されていたが、7月にメーン州に船で移動されたという。

建築業に進出?

いったい、グーグルが不思議なビルを立てる目的は何だろうか。
「これはグーグルXと関連がある」と、匿名希望のグーグル社員が話してくれた。グーグルXとは2011年にラリー・ペイジが始めたプロジェクト。ペイジがCEOに就任してからは、共同創業者のセルゲイ・ブリンがリーダーに就任。今でも両創業者が関与する秘密プロジェクトだ。運転手なしで動くロボット自動車、地球のどこでもネット通信を可能にするルーンプロジェクトなど100以上の実験を、グーグル本社から約800メートル離れた研究所で行っている。最近話題のグーグルグラスもグーグルXから生まれたものだ。
グーグルXからは、建築コストと建築時間を3割以上節減できる、革新的な建築デザインオートメーションシステムも開発されている。「ジニー」と名付けられたこのシステムは環境に優しく、しかもユニークな建物をスムーズに設計できるというものだ。
世界の建築市場は、1年に5兆ドルを超えるといわれ、ジニーが市場で稼働するようになれば、グーグルには年間1200億ドルの収入が見込まれると計算するコンサルタントもいる。
グーグルXのプロジェクトの中には、実際に不動産業者が参画しているものもある。グーグルは検索から広告、メール、モバイル事業へと手を広げ、成功を収めてきた。その拡大志向は健在で、デバイス(グーグルグラスなど)、自動車産業(ロボット自動車など)へも進出。さらに、建築にも触手を伸ばすわけだ。
現在、グーグルでは建設関係の新規プロジェクトが目立つ。本社のマウンテンビューキャンパスを拡張する「グーグルプレックス・プロジェクト」が進行中。私立美術館の「グーグル・エクスペリエンス・センター」計画も準備が進む。
技術進歩は早いのに、こうした建築の許認可に足を引っ張られていると感じたグーグル社員が考えた解決策が、ジニーなのだろうか。
確かに、陸上での建築、特にサンフランシスコ湾岸の眺望のよい場所は、不動産価格が高く、許認可に非常に時間がかかり、計画変更を強いられることも多い。
たとえば最近、ウォーターフロントのフェリービル前に高層のコンドミニアムを建築する計画があり、市の有力者が推したものの、地元住民の反対で建築計画が頓挫し、 変更を余儀なくされた。ところが、水上での建築には、市の建築当局に建築計画や使用目的をあらかじめ明らかにしなくてもよく、陸上より許可が厳しくないのだ。
ペイジは今年5月にサンフランシスコで行われたイベントで「50年前の法律によって縛られている」と述べた後、「エキサイティングなことが多くあるが規則のためにできない」と、語っている。

コンテナを接続

話をミステリアスな艀上のビルに戻そう。11月上旬、現地に車を走らせてみた。サンフランシスコ湾の東側オークランド方面から、フリーウェー880を車で北上する。橋の通行料金6ドルを支払い、トレジャーアイランドの出口で降りる。
長い坂を下ると、ワイナリーが軒を連ねる様子が目に入る。ワイナリーの倉庫を通り過ぎると、島の東南端に艀上の工事中の建物があった。そこには地元テレビ局、KTVUとKPIXのバンが停まり、テレビカメラが艀をとらえていた。
トレジャーアイランドで建築に携わる労働者は「コンテナを連ねた建物の中はオフィスがつながった造りになっている」と説明してくれた。
船でどこでも引っ張っていける浮かぶ建物には、未解決の問題がある。まず何よりもサンフランシスコ市から建築許可を取り付けなければならない。使用目的を明確に伝えるよう、市側がグーグルに要請している。
サンフランシスコのエドウィン・リー市長は「グーグルの代表と話し合っている最中だ。グーグルから艀の使用目的について話し合いたいと招待され、この招待を受けるつもり」と語る。
完成後はどこで使われるのか。「サンフランシスコのフォートメイソン近辺に停泊する」「いや、サンフランシスコは環境規制が厳しい。規制の緩やかなロサンゼルス近辺にタグボートで引っ張っていくはずだ」など、いろいろな憶測が飛び交っている。
すでに、グーグルはフォートメイソンセンターと話し合いを行っている。フォートメイソンとは米陸軍基地があった風光明媚なところだ 。同センターは広大な国立公園であるゴールデンゲート公園の管理下にある。「フォートメイソン沖は波が強いので、その側の湾に、艀をつなぐつもりではないか」と、周辺住民は語っていた。
グーグルがゴールデンゲートのウォーターフロントを管轄するポート・オブ・サンフランシスコに提出した書面によると、艀は環境に優しいリサイクルのコンテナを使い、ビルの周囲を魚のひれのような多くの帆が旗めく、テクノロジーの展示スペースになるという。設計はアブダビのフィナンシャルセンター、サンフランシスコ国際空港第2ターミナルを設計した世界的な設計事務所のジェンスラー。計画書によれば、1日当たり1000人の来客を見込んでいる。
「艀はサンフランシスコから、レッドウッドシティ、リッチモンドとベイエリアの諸都市を1カ月ずつ回って、その後は南に向かい、サンディエゴに行く」と、地元テレビ局は報道する。いったいグーグルがこの水上の建物をどう使うのか。
グーグルが詳細を明らかにしないため、これからも報道合戦が続きそうだ。それもグーグルの筋書きどおりなのかもしれない。 =敬称略=


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