2013年7月23日火曜日

賞賛と炎上を分けるもの

透明力――ソーシャルメディアの登場などでやってきた「うそをつけない時代」。ループス・コミュニケーションズの代表、斉藤徹氏が、先日お届けしたZDNetの記事「統制から開放へ--情報システムの役割が変わる」とまたがる形で、ソーシャルを利用するマーケティング担当者に向けてメッセージを送る。

賞賛と炎上を分けるもの

 今どき、ウェブの最前線にいるマーケティング関係者で、生活者をコントロールできると考えている人はいないだろう。特に日頃からソーシャルメディアで生活者の声と日常的に触れている担当者は「クチコミ」の威力を痛感しているはずだ。直近の事例を追って、その威力を体感してみたい。
苦情ツイートに添付されていた画像
苦情ツイートに添付されていた画像
 今年の6月11日午後1時頃、チロルチョコの中に芋虫がいたという写真つきの苦情ツイートが投稿された。インパクトのある写真が拡散の連鎖を刺激し、瞬く間にリツイートは1万回を超える。ツイッター注目のキーワードにまで「芋虫」が登場する有様だ。チロルチョコは製造元の工場を合わせても社員数で約200人。その規模の企業にとって、この醜聞は致命的な危機になりかねない。しかし彼らは冷静だった。約3時間後、同社の公式アカウントは正式な見解をツイートする。
2つに分けて発信されたチロルチョコ社のツイート
2つに分けて発信されたチロルチョコ社のツイート
 その投稿は十分に吟味された内容だった。写真に掲載された商品の最終出荷は約半年前。対して芋虫はその形状から推定すると生後30日~40日。これは芋虫が商品購入後に混入したことを示唆するものだ。
 さらに「虫が混入されたケースの多くは出荷後に家庭内で起きる」とした日本チョコレート・ココア協会のウェブサイトを紹介。最後に「お騒がせして申し訳ない」との心遣いあるコメントで締めたのだ。この的確で抑制の効いたツイートは約1万回もリツイートされ、多くのブログやまとめサイトも登場した。その結果、チロルチョコのブランドは見事に守られた。一方で苦情を投稿したツイッター・アカウントは閉鎖されてしまった。
 一連の対応を統括した松尾裕二取締役は、この出来事をこう振り返る。
 「われわれがソーシャルメディアの運用を始めたのは約2年前ですので、Twitterにはすでに1万人ほどのフォロワーがいました。このアカウントがなければ、当社の考えを生活者に迅速にお伝えすることはできなかったと思います。もし一方的に写真が広まり、それをマスメディアが取り上げていたら、当社のブランド毀損(きそん)は計り知れなかった。この時ほどソーシャルメディアを始めて良かったと感じたことはありません。でも実際の現場ではハラハラの連続でした。特に投稿文には細心の注意を払い、何度も文章を見直しました。これを見て、嫌な気分になる人はいないか、揚げ足を取られる表現になっていないか。それに投稿直後も目が離せませんでした。僕たちのツイートに生活者がどう反応するのか、しばらくは画面につきっきりで見守っていたんです」
 ありがたいことに、投稿してから一気に肯定派が増えたという。「チロルチョコを信じていました」そんなツイートがあふれだし、結果的にフォロワーが1000人以上増えた。

生活者の声は予測できない。生活者は企業にすばやく誠実な対応を求めている。彼らの反感を買えば手痛いしっぺ返しを食うが、時として真摯な態度や人間味あふれる機転が大きな歓声を持って受け入れられることもある。
 一方で、炎上も後を絶たない。もはや炎上が発生しない日はないと言っても過言ではない。直近の例では、プロ野球の統一球の問題が挙げられるだろう。今季から採用した飛ぶボール自体を否定するファンは少なく、むしろ楽しみが増えたという声も多い。問題視されているのは説明責任だ。
 なぜこの情報を隠ぺいしたのか。コミッショナーはファンや選手への影響をどう考えているのか。社会的影響力のある人や組織は、その活動や決定を説明する責任がある。透明な時代に結果オーライは通用しなくなった。プロセスの透明さが強く求められているのだ。
 また、ブラック企業というレッテルが一部の経営者を悩ませている。社員に劣悪な環境で労働を強いる企業――ネット上を検索すると、ワタミやユニクロなどの企業名が並ぶ。トップ自らブラック企業と呼ばれることに対する見解を述べたインタビュー記事も登場した。両社に共通しているのは、極めて強力なリーダーシップを持つオーナーがいること。いずれも企業成長への強い意思を持ち、それを現実化させた稀代の経営者だ。その手腕を疑う人は誰もいないだろう。しかしながら、彼らの主張は生活者に共感されていない。逆に発言の都度、ソーシャルメディア上を反感が渦巻いていくようだ。
 今や、生活者は歩く広告塔となり、生活者接点は広告が生まれる瞬間となった。顧客だけではない。社員も、退職したアルバイトも、求職した学生も、その企業にとって大切な広告塔だ。特に店舗がある地域の住民は、政治家にとっての選挙民に等しい。
 彼らは企業の好き嫌いを判断し、ソーシャルメディアや購買行動を通じて一票を投じる権利を持っているからだ。生活者の共感を得る企業、反感を買う企業、その差は天と地ほどに大きい。彼らの評価は、商品売上や社員雇用に結びつき、経済的な価値につながっていく。
 では、本質的に企業に対する賞賛と反感を分けるものはなんなのだろうか。生活者は何を見て、企業に対する評価を下しているのだろうか。

統制が通用しない時代

 あなたが貴社のソーシャルメディアアカウントの担当者になったとしよう。そこであなたは生活者の率直な意見を目にすることだろう。ある人は「すばらしい」と褒め、ある人は「あの商品には問題がある」とクレームを入れる。公式アカウントがなくとも実際は同じことだ。企業がアカウントを持とうと持つまいと、生活者は日常的にブランドの評価をしあっているからだ。
 ソーシャルメディア担当者の悩みは深い。生活者からの声と上司の指示が相反するからだ。生活者は誠実でリアルタイムな応対を求めているが、多くの上司の頭の中にあるのは、メンツ、保身、事なかれ主義。結果としての隠ぺいだ。プロ野球の統一球などその典型だろう。そして、それこそが生活者の最も嫌う態度なのだ。上司がコントロールできるのは人事権を持つ部下までで、生活者の考えや言動をコントロールすることなどできるはずがない。そんな簡単なことも分からないほど、現場感覚を失った管理者も少なくない。
 企業が一方的に情報を独占し、生活者をコントロールできる時代ははるか昔に終焉(しゅうえん)している。さらにソーシャルメディアの登場で、企業は生活者によって常に監視され、評価されるようになった。企業と生活者のパワーバランスは完全に逆転したのだ。
 生活者の賞賛と反感を分けるもの、その原点はここにある。すでに力関係が以前と変わっていることに気づかず「生活者をコントロール」しようとする姿勢。それこそ生活者に最も忌み嫌われる病根と言えるだろう。特に経営者や管理部門にその傾向は強い。彼らが持つ内向きのコントロール志向がさまざまな生活者接点から滲み出し、それが反感につながっていくのだ。パワーマネジメントで時代を築いた経営者こそ、このわなに陥りやすい。彼らを成功に導いた豪腕や理屈は、生活者の心には響かない。むしろ疑問と反感が蓄積していく。
 ソーシャルメディアで評価されたチロルチョコは、生活者をコントロールしようとせず、彼らの求めるものをしっかりと理解し、臨機応変な対応を実現できた。生活者をリスペクトし、短時間の間に最善を尽くした。彼らの機を逃さぬ、それでいて謙虚な姿勢が生活者の共感を生んだ。ピンチをチャンスに変え、賞賛の輪が広がっていったのだ。

自分の組織で炎上をシミュレーションしてみよう

 もう一度、チロルチョコの対応を思い出してみよう。彼らの持つ反射神経が貴社にはあるだろうか。あなたの所属する組織は、出会い頭のアクシデントに対して、誠実に、柔軟に、リアルタイムに対応する能力があるだろうか。トラブルや炎上は毎日のように現実社会で起きている。ぜひ、この事例を自分ごととしてとらえてみてほしい。
 そもそもソーシャルメディアに流れる自社の風評をこれだけ早く察知できる企業は少ないだろう。その上で過敏反応せず、製品の製造時期を調べ、幼虫の大きさから生後どれくらいかを推定する。また第三者の情報として業界団体のFAQ引用を決めた。そこまでで約1時間半。
 さらに投稿者への個人攻撃にならないよう配慮し、企業にとって難題である「お詫び」の添え方を十分に吟味した上でツイートしたのだ。トラブル発生から3時間。貴社にこの対応ができるだろうか。
 ここでは大企業が陥りやすい統制志向のわなを、チロルチョコが受けた災難をベースに予想してみたい。実際に企業内部で起こりがちな対話をシミュレーションしてみよう。

ツイッターの炎上を発見して

ソーシャル「部長、悪い報告なんですが、当社製品がツイッターで炎上してます」
マーケ部長「なんだと。すぐに関係する責任者を集めて緊急会議だ」
ソーシャル「広報部長と営業部長が外出していて、最短で夕方になります」
マーケ部長「じゃあ、それまでに報告書をまとめて会議の準備をしておいてくれ」
ソーシャル「ツイッターの対応はどうしますか?かなり炎上してますよ」
マーケ部長「まずいのはわかるが、部門横断マターだから一人じゃ動けないんだ」
ソーシャル「では、この製品の製造責任者などの方々も呼びましょうか?」
マーケ部長「製造部長とCS部長にも連絡して内容を報告しておいてくれ」
ソーシャル「わかりました」

そして夕方の会議にて

マーケ部長「今、彼から報告があった通り、ツイッターで大変なことになっています」
製造部長「なんだよ。これは単に家の中で虫が入ったんだよ。よくあるんですよ」
コンプラ「それを証明できますか?」
製造部長「ウチの工場を見てもらえば、こんな虫なんか入らないのがわかりますって」
CS部長「顧客サポートにクレーム電話がかかりっぱなしで。こんな事は初めてです」
広報部長「極めて深刻な事態だ。大至急、社長に報告する必要がありますね」
営業部長「これで売り上げが落ちたら、特殊要因ということで責任とってもらいますよ」
コンプラ「責任の所在はどの部署にありますか?」
製造部長「ウチは会社で定められた衛生基準にのっとって製造しているだけですよ」
マーケ部長「今、ネットでこの写真が広まって大変なことになってます。急がないと」
広報部長「社の一大事です。社長や弁護士と相談して最善の対応策を練りましょう」

2日後

 かくして社内各部門は、自らの責任を回避するための暗闘を続け、生活者への応対は後回しになった。結局、社長決済を経て、2日後にプレスリリースが発信される。それは、企業にとって都合の良いことだけを表明する内容となっていた。
 「チョコレートやココアは、近代的な設備と衛生管理の行き届いた工場で生産されており、虫の卵や幼虫が入ることはありません。ほとんどの場合、工場を出てからご家庭で消費される間に侵入するケースが多いようです。なおチョコレートにつく虫にはノシメマダラメイガ・スジマダラメイガ・コクヌストモドキなどがありますが、いずれも病原菌や毒素といったものはないので、万一虫が混入しているのに気付かず誤って食べても、人体に直接害はありません」。
 このリリースは、内容もあいまいで生活者の求めていた情報開示とは異なった。なにより誠意が感じられない表現となっており、対応の遅さと相まって絵に書いたような二次炎上を引き起こす。結果的に、同社の製品品質に対する疑念に加え、説明責任に対する意識欠如を指摘され、同社の好感度は大きく毀損することとなった。
 このシミュレーションはチロルチョコの実例をベースにしたもので、現実に起きたことではない。しかし、特に各部門がサイロのように硬直した大企業において、いかにも起こりやすい一幕ではないだろうか。ソーシャルメディアによって誘起される問題がひとつの部門で完結することは少ない。組織が大きくなるほど、本質的な問題点が浮き彫りにされてゆく。

組織の透明力とは

 旧態然とした組織が、臨機応変な対応を実現できない理由をまとめてみよう。
  • 中央統制システムのため、想定外の事態が発生しても上司の指示なしには動けない
  • 縦割り組織のため、情報共有や人材交流が乏しく、緊急時に協業しあう信頼関係もない
  • 成果主義のため、部門や個人の評価にならない行動には消極的で、責任を追わない
  • 経営陣のメンツや保身が優先されるため、生活者が満足する説明責任を果たせない

 中央から社員をコントロールするために構築されたシステムは、部門間の協業や社員の自主性を奪ってしまう。いつのまにか社員の関心は顧客から上司に変わり、社員の仕事の多くは社内稟議や報告書作成になってゆく。そして組織全体が顧客に鈍感になるのだ。
 透明な時代にあるべき組織像は、その対極に位置するものだ。顧客は、あらゆる接点において、迅速で誠実な対応ができる企業像を求めている。そのためには、顧客と接点を持つ現場社員が自律的に行動できるシステムを構築することが大切だ。
 言うならば、社内のカルチャー改革だ。それを実現するには「価値観の共有」「オープンでフラットな組織」「社内交流を促進するコラボレーション・プラットフォーム」、この三つの改革が必要となる。そして、その根底に流れているのは「透明の力」による内発的な動機づけだ。
 「透明の力」とは何か。それは上司からの統制ではなく、社員の自律的な行動を促す力を表現したものだ。人間は、誰かに指示されるまでもなく、共感や評価を得たいと強く願う生き物だ。社内を透明にし、情報を可視化させ、コミュニケーションの活性化を図る。すると社員は仲間との一体感を感じ、その共感や評価を得るために、自発的に企業やチームがプラスになるよう動き出す。
 例えば、企業は経費を抑えるために、何重にも管理者を配置し、稟議システムによって「統制」してきた。しかし、経費をすべて「透明」にしたらどうなるだろう。社員であれば、誰が何にいくら使用したかを閲覧できるようにする。統制も特別なシステムも不要だ。それだけで無駄な経費は激減するだろう。説明責任が生じ、共感や評価を得られない経費が姿を消すからだ。なぜ、それができないのか。経営層、管理層の既得権益があるからだ。ここにメスを入れられるのは、最も痛みを伴う経営者だけだ。それを理解した上で、経営者が信念を持って「透明の力」を導入するとき、組織は劇的に変わってゆくのだ。
 今、企業は「統制の力」を卒業し、「透明の力」によって社員をエンパワーメントすることを求められている。「ガミガミと言って行動させる」のではなく「自発的に会社のために行動する場を創る」こと。時代が求めているのは、このコペルニクス的な発想の転換だ。単なる性善説だけでは十分ではない。「透明化することで自律的な行動を促すこと」がポイントなのだ。実際に「透明の力」を活用する企業は増えてきている。シリコンバレーのベンチャーなどは、ほとんど例外なくそうだろう。
 すでに統制型マネジメントが浸透している大企業にとって、この経営改革は困難を極めるに違いない。その一方で、新しい文化を持つ企業が雨後の筍のように生まれ、大企業の得意分野を日々侵食している。「MAKERS―21世紀の産業革命が始まる」(Chris Anderson)が提起したように、大企業もベンチャーも、創造力や共感力という同じ土俵で勝負せざるを得ない時代が到来するだろう。古びた経営スタイルは、もう臨界点に達しているのだ。
 拙著にて、ソーシャルメディアが誘起したビジネスのパラダイムシフトを「ソーシャルシフト」という言葉であらわした。この記事では、ソーシャルシフトにおいて、新しい組織の原動力となる「透明の力」の生かし方を連載していきたい。共有すべき価値観や情報とは何か。過度な同調圧力や部分最適化をいかに防ぐか。公開すべき情報と非公開にすべき情報をどう考えるべきか。透明な時代に管理職の業務やリーダーシップはいかにあるべきか。
 余談になるが、僕は「踊る大捜査線」、特に青島刑事や和久さんのいる湾岸署の面々を心から愛している。彼らのように、熱い思いを持ちながら、組織の壁に日々悩んでいる人たちの力になりたい。それがこの連載記事を書く動機にもなった。ソーシャルメディア時代、事件はまさに現場で起きている。現場力をいかに高めるか、企業の明日はそこにあるのだ。
 「伝統的な労働力体制の下にあっては、働く人々がシステムに仕えたが、知識労働力体制の下では、システムこそが働く人々に仕えなければならない」 (Peter Drucker)
 以下は、本記事執筆に当たっての筆者によるエピローグムービーです。
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斉藤 徹
ループス・コミュニケーションズ
1985年3月慶應義塾大学理工学部卒業後、同年4月日本IBM株式会社入社、1991年2月株式会社フレックスファームを創業。2004年同社全株式を株式会社KSKに売却。2005年7月株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、ソーシャルメディアのビジネス活用に関するコンサルティング事業を幅広く展開。ソーシャルメディアの第一人者として、ソーシャルメディアのビジネス活用、透明な時代のビジネス改革を企業に提言している。講演回数は年間100回を超える。「BEソーシャル ~ 社員と顧客に愛される5つのシフト」「ソーシャルシフト ~これからの企業にとって一番大切なこと」「新ソーシャルメディア完全読本」「ソーシャルメディアダイナミクス」など著作は多数。

2013年7月22日月曜日

海外のソーシャルメディアプロモーション、9つのトレンド

http://marketing.itmedia.co.jp/mm/articles/1301/22/news006.html


2012年、日本でのソーシャルメディアの利用者は、国内インターネット普及人口の半分にあたる5億60万人。20歳から40歳までの世代では、5人に3人が利用している。Webマーケティング研究会では2013年のFacebook利用者が前年比20%増の2000万人に到達すると予想している。
 あるべき姿が固定されている従来の広告手法とは異なり、ソーシャルメディアでの広告手法は発展の余地が大きい。新しいメディアであり、ユーザー側も積極的に参画することができるため、メディア内でのコミュニケーションを変化させることが可能である。よって、この分野での広告手法の発展も目覚ましい。昨日まで効果があったキャンペーンが、明日には時代遅れになっている状況が2013年も続くと考えられる。
 9つのキャンペーンを例にとりながら、各ブランドがソーシャルメディアにどのような役割を担わせ、どのような仕掛けを埋め込み、一体何を成し遂げたのかをご紹介する。

1. Skittles|Mob the Rainbowキャンペーン:参加型イベントで楽しく! 多くの人に! ブランド価値を拡散

 Skittlesは子供から大人まで、多くのファンを獲得している大手キャンディー ブランドである。キャンペーンの実施前ですでに、Facebook上で350万のファンを持ち、スターバックスコーヒー、コカ・コーラに次ぐ世界第3位のポジションを誇っていた。しかし、Skittlesは、最初に「Like!」を押して終わってしまうファンを集めることだけがマーケティング活動として正しいのか、疑問を持った。ブランドとロイヤルファンとのインタラクションがそんな希薄なものでよいのか? その後のブランドへのエンゲージメントに本当につながるのであろうか? ファンの数を競うことだけが正しいのであろうか? そのような疑問に対し、Skittlesは、眠れるファンを覚醒させ、ブランドへのエンゲージメントを最大化するためにMob the Rainbowキャンペーンを実施した。
 Mob the Rainbowキャンペーンは、10種類前後のファン参加型イベントで構成されている。その中の1つ、「バレンタインに日頃の感謝を込めて、みんなが幸せになるSkittlesをプレゼントしよう!」では、普段あまり愛されることのない駐車取締官に、Skittlesをサプライズでプレゼントした。Facebook上でファンからメッセージを受け付け、実際にSkittlesをあげるシーンを撮影、Facebookで発表するというソーシャルメディア版視聴者参加型番組といった感じだ。このキャンペーンには視聴者を企画イベントに参加させながら楽しませ、その中で、Skittlesのブランド価値を拡散させていく仕掛けが盛り込まれている。
 結果的にこのキャンペーンは、ブランドとユーザーとのエンゲージメントの活性化に成功し、ファン数は350万から500万にまで拡大した。

2. RedBull|Felix Baumgartner's jumpキャンペーン:特別な時間とブランド価値を共有

 レッドブルのキャンペーンには目をみはるものがあった。2012年10月14日、レッドブルがスポンサーをつとめたキャンペーンで、スカイダイバー フェリックス・バウムガートナー(Felix Baumgartner)が23マイル上空からフリージャンプを成し遂げたのだ。
 宇宙飛行に匹敵するこの大掛かりなイベントは、ソーシャルメディアで大きな話題をさらった。ダイバーの興奮した精神状態と、レッドブルの商品特性がリンクし、このイベントが、レッドブルのプロダクトイメージを際立たせた。
 ジャンプの瞬間には多くの人々がその状況を見守り、また、ジャンプ後も、話題が話題を呼んで、ビデオは3000万回以上再生されることとなった。
 このジャンプによってレッドブルは“命知らずのスポーツ”と同義的なニュアンスを獲得し、レッドブルの先進性と商品の特性を視聴者に強く印象付けた。エナジードリンクが乱立する現在、レッドブルのソーシャルブランディングは成功したといえよう。

3. Ben & Jerry's|euphoriaキャンペーン:ブランドがもたらす情緒的価値の拡散

 Ben & Jerry'sのソーシャルメディアの利用目的は、「自社製品であるアイスクリームがもたらす、美味しく、この上ない幸せな気分を、ソーシャルメディアを利用しているターゲットに想起させ、話題にしてもらい、売り上げにつなげる」ということだ。
 Ben & Jerry'sのキャンペーンの注目点は、企業の取り組みながら、商業臭さを抑え、ユーザーの参加数を高めることに工夫を凝らした点だろう。
 企業側はできるだけ企業のブランドや商品を露出したいという欲求があるが、あまりにも商業臭が強いとソーシャルメディアでは毛嫌いされてしまう。
 Ben & Jerry'sは、「Ben & Jerry'sのアイスクリームを食べて幸せな瞬間を投稿する」という企画ではなく、多幸感という感情に着目し、このキーワードにまつわる瞬間を投稿するキャンペーンを展開することとした。
 これであれば、Ben & Jerry'sアイスクリームだけにとらわれず、より身近で、投稿されやすいトピックとなり、かつ、Ben & Jerry'sのアイスクリームの価値を軸に、Buzzが展開する、世俗的な話題性と商業的なブランドメッセージとのバランス感覚に優れた企画だ。
 また、このキャンペーンでは参加率を高めるため、選考された写真はBen & Jerry's の広告に採用されるという特典を提供し、参加者のモチベーションを高める仕掛けも設けた。結果、1億ページビューが達成され、このキャンペーンに費やした費用と反響を勘案するに、費用対効果の観点で、極めて優れたキャンペーンとなった。


4. Ford Explorer:ソーシャルメディアをフルモデルチェンジ発表の場として活用

 2011年フォード・エクスプローラーはメジャーモデルチェンジを実施した。従来、フォードでは、ソーシャルメディアがモーターショーを補完するメディアとしてその役割を担っていた。モーターショーへの誘導や訪れた人へのフォローアップ、もしくは、行けなかった人へのレポートが主な役割だったのだ。
 しかし、フォードは、ソーシャルメディアのキャンペーンにおける位置付けを大きく変換する。ソーシャルメディアは、モーターショーに行けない人でも、バーチャル空間で参加できるという特性を持つ。また、コアなファンからの情報発信媒体としても際立った強みがある。そうしたソーシャルメディアの利点に注目し、Facebookを新作発表における最も重要なチャネルと位置付けた。
 フォードではオンラインでのイベントを強化し、モーターショーに参加できない人でも、その場にいるような臨場感が体験できる感覚の釀成を狙った。集客でもFacebookを利用した。そして大掛かりなキャンペーンをペイドメディアで展開し、発表日までには、500万のターゲットへリーチすることができた。
 ペイドメディア上の広告には技術的に最新の手法を取り入れた。バナー広告自体にFacebookの「Like!」ボタンを埋め込み、Facebookへのトラフィックの増加を図った。フォードのマーケティング責任者は以下のように語る。「Facebookを主体とした大掛かりなキャンペーンは初めての取り組みだったため、費用対効果の点でリスクが大きかったが、トラフィック、リーチ数、および、実際の売り上げを勘案すると、キャンペーンは大きな成功を納めたといっていい」
 フォード・エクスプローラーの第2四半期の売り上げ総額は26億ドルを超えた。

5. Bitsa Wispa |Dairy Milk Bubbly barキャンペーン:ソーシャルメディアで人に伝えたくなる仕掛けを

 Bitsa Wispaは、Facebookですでに180万のファンを獲得していた。ファンはBitsa Wispaのお菓子への愛を語り合う巨大なコミュニティを形成していた。
 ファン獲得までの流れは以下のようなものだった。新製品が発表され、最初に購入した消費者がFacebookでシェアし、購入していないファンが投稿を見て新製品を確認、ファンコミュニティ内でシェアされると口コミが発生し、他のファンを獲得していく。
 しかし、この口コミは、ブランド側が自ら起こせるものでなく、ファンの中から自発的にわいて出てくるのを待たなければならないという受動的なものだった。また、車などと違い、頻繁に語られることのない商品カテゴリーであったため、人に語りたくなるような仕掛け作りが求められていた。
 このような背景もあり、Bitsa Wispaは従来の新商品発表のキャンペーン構造を見直し、ソーシャルメディアの特性を最大限に活かした形へと変えた。それが、Bitsa Wispaの新商品であるDairy Milk Bubbly barキャンペーンだ。
 Dairy Milk Bubbly barキャンペーンでは、新商品告知を企業に代わってFacebookのファンに代行してもらうという方法を採用した。つまり、人に伝えたくなる話のタネを仕掛け、意図的に口コミを起こすことを狙ったのだ。いまだ市場に出回ってない新製品を、選ばれたFacebookのファンだけが先行して手に入れられ、それをFacebookで自慢できるのである。
 このキャンペーンの目的は、新商品の価値を多くの人に正しく伝え、好感を持ってもらうこと。同時に、ソーシャルメディアの活用メリットである“リーチへの費用対効果の最大化”も狙った。

6. Heinz|Tomato Ketchup blended with Balsamic Vinegarキャンペーン:ソーシャルメディアで人に伝えたくなる仕掛けを

Heinz社もBitsa Wispaと同じ手法を採用した。 
新商品である「Tomato Ketchup blended with Balsamic Vinegar」を1カ月前に購入できる特権をFacebookのファンに提供した。キャンペーン期間中に、世界規模で2600万人へリーチし、Facebookへの書き込みが650%増加した。同社の年間売り上げ目標が100万本であるから、この2600万という数字は驚異的な成功といえよう。

7. Burberryの香水の新製品発表:ロイヤルティの高いお客さまを優先

 バーバリーもキャンペーンにソーシャルメディアを活用している。
 2012年9月に、バーバリー ボディ フレグランスの新製品をFacebookで発表した。Facebookの760万人(当時)のファンに2万5000個のサンプル配布した。それがきっかけでFacebookのファンが40%増加した(2013年1月現在1470万人)。

ソーシャルメディアとロイヤルティマーケティング

 ソーシャルメディアを活用した同じ種類のキャンペーン手法を3つ紹介したが、この手法はご存知の通り、ソーシャルメディアから始まった手法ではない。オートクチュールや宝石などは、必ずロイヤルカスタマー向けのショーや販売会が開かれ、「お得意さま」(=ロイヤルカスタマー)にまずはよい商品を紹介するという手法をとる。「お得意さま」の多くがブランドの潜在顧客層に影響力のある人たちであり、その周りにいるフォロワーが彼らと同じ物に興味を抱くことで、商品の評判が拡散していくという構造である。
 なぜ、2012年になって、ソーシャルメディアを活用したこの手のキャンペーン手法が多く現れたのか? 旧来の手法では、店頭でお得意さまの連絡先を聞き出し、後日、ブランド側から特別の催し会に招待するといういくつものプロセスを踏まなければならないばかりではなく、それができる商品カテゴリーが限定的だった。つまり、キャンディーやアイスクリーム、香水など、「お得意さま」を特定しにくく、「お得意さま」だけへの特別な催し会を実施しにくいカテゴリーにとっていわゆる「ロイヤルティマーケティング」は机上の空論だった。しかし、ソーシャルメディアはそうした商品カテゴリーのお得意さまとも関係を結ぶことができ、また、企業から、つまり、ブランドから直接語りかけ、時には、特別な催し会を実施することを可能にしたのである。
 メディアの特性、ブランドのビジネス課題、ユーザーの関心事などを織り交ぜて考察していけば、2013年はまた新たなステージでソーシャルメディアを活用した新商品発表キャンペーン(ロイヤルティキャンペーン)や手法が生まれてくるのではないだろうか。

8. Bodyform|Facebookでのブランドへの質問対応:ソーシャルメディアで真の対話が生まれる

 生理用ナプキンのメーカーであるBodyformのFacebookにあるユーザーがこんなことを書き込んだ。
 「Bodyformは嘘をついているから謝罪してほしい。CMでは青色の水だったが、生理の血は青ではなかった。Bodyformのナプキンをしたら、憂鬱な気分がふっとび、いろいろなアクティビティが楽しめるかのようなCMを展開しているが、実際はそうではなかった」
 それに対し、BodyformのCEOは(Bodyformの)CMの内容は嘘だった、とユーモアたっぷりにFacebookのビデオで謝罪した。
 これが話題となった。理屈にもならないようなクレームであり、通常はスルーされるような内容であったが、こうしたことに真摯に対応する企業姿勢もさることながら、受け答えが上品で、かつ、ユーモアのセンスに富み、それがブランドへの好感度が増す内容であったからだ。
 この件は特殊な例かもしれない。しかし、ブランドとユーザーの対話がさらに活発になるプラットフォームが技術的、社会環境的に揃いつつあることは事実だ。またソーシャルメディアの特色として、「一個人対ブランド」という従来型の閉じたコミュニケーション構造にコミュニティが接続され、そのやりとりを見守るという新たな構造がソーシャルメディアの普及で整いつつある。
 一ユーザーからのレスポンスがたとえクレームであったとしても、企業としての対応の仕方によっては売り上げを伸ばせるよい例だろう。このBodyformの動画の再生回数はすでに300万回を超えている。Bodyformの対応は話題となり、ファンを増やすことになった。
 2013年には、ブランドと顧客との対話の機会がさらに増えると予想される。多少、大袈裟に表現するならば、顧客との対話の一言一句が、広告のキャッチコピーを作る時と同じぐらいの重要性を持つことになるだろう。ソーシャルメディアに対し、企業はあらゆる事象を想定し、常に最適な対応を心掛けなければならない

9. McDonald Canada|yourquestionsキャンペーン:対話形式によるキャンペーン

 マクドナルド カナダは、マクドナルドへの疑問や質問を気軽にできるキャンペーンを実施した。結果はポジティブなレビューが集まり、このパブリシティは大きな成功を収めた。
 消費者は自身が口にする食物を盲目的に受け入れることはない。常に疑問を抱き、答えを求め、納得したいと考えている。このインサイトに正面から向き合おうと取り組み始めたキャンペーンだった。
 マクドナルドへの疑問や神話、誤報、うわさに答えるという方法をとっているが、ダイレクトに表現すると、マクドナルドに対するネガティブイメージの払拭を目的に企画されたキャンペーンであると考えられる。
 例えば、フレンチフライに対しての質問では、農場での収穫から料理までの行程をビデオでレポートしている。ネガティブイメージの払拭だけでなく、フレンチフライに対する親和性の醸成という意味でも効果が期待できる内容となっている。現在では1万4000件の質問が寄せられており、すでに7000件に対しては回答をしている。
 他国でも同じコンセプトでのキャンペーン展開を計画中。
 このキャンペーンが売り上げにどのように貢献したのかは公表されていないが、ネガティブイメージの払拭を映像の拡散で実現できたということだけでも、同社にとっては意義あるキャンペーンだったといえるだろう。

2013年、ソーシャルメディアをどう活用すべきか?

 ソーシャルメディアをキャンペーンにどう活用すべきか? 事業課題の何をソーシャルメディアが解決するのか? このような疑問を掘り下げながらキャンペーンを企画していけば、2012年の成功事例から導かれるヒントと共に、何をすべきかのブループリントが浮かび上がってくるだろう。単にソーシャルメディアの大きなうねりに乗るだけではなく、2013年はみなさん自身でトレンドを作ってもらいたい。

自己紹介

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